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第2章 世界樹から始まる英雄への道

第11話 食い詰め者の罠

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 運び屋稼業も二回目ともなれば慣れる。
 リビングアーマーのそりも好調だ。
 ゴリゴリ削られて劣化するから、たまにアンデッドヒールを掛けてやらないといけないのが玉にきずだが。

 深夜になり街まで道半分という所で、行く手を塞ぐ様に松明たいまつが一斉にともされた。
 そして何かが頭上から被さる。

「うわ、誰だ。網を掛けた奴」
「へへっ、間抜けな奴だ。一回目と同じ場所を通るとは。鎧で出来た跡がくっきりだぜ」

 あの嫌な目つきの男が現れて言った。

 男達が三十人ほど現れる。
 くそう、殺した奴を片っ端からアンデッドにしたいが逃げられるとやっかいだな。
 こっちが逃げても良いがしゃくだ。
 負ける気が少しもしない。


「とりあえず。飛車ひしゃさん、角行かくぎょうさんやっておしまい」
「私の出番は」
「ヒロインはこういう時、黙って応援するものだ」

 角行かくぎょうが立ち上がり網を切り裂いた。
 そして飛び出して行って、フライングソードを両手に対峙する。
 男達は少しびびったようだ。

「鎧が何だってんだ。刃よ鋭さを増せ。【シャープエッジ】」

 角行かくぎょうの胴体に剣が迫る。
 火花でもあげるのかと思いきや。
 ぬるんと剣が滑った。
 おー、呪いの新しい利用法発見。
 剣も滑るのか。

「こいつ、刃物が滑るぞ」
「俺がやる。筋肉ようなれ剛力をだせ。【マッスルアップ】」

 メイスの一撃はやはりぬるんと滑った。
 角行かくぎょうが持っているフライングソードがきらめいた。
 男の両手は飛び遅れて首が転がった。

 さて、飛車ひしゃはどうしているかな。

「来るな。炎よ槍となって貫け。【ファイヤーランス】」

 飛車ひしゃは炎槍を無視して男の顔面を掴み地面に擦りつけた。
 そして、背中に足を踏み下ろした。
 ぼきっという音と男の絶叫が聞こえた。

「こんなの無理だ。俺は逃げるぞ」

 やっぱり逃げる奴が出たか。
 逃げるのは追わないよ。
 めんどくさいから。

 俺、俺は観戦しているよ。



「術者をやれ」

 しょうがないな奥の手を出すか。
 異世界産の百円玉硬貨のアンデッド。
 その名も銀将ぎんしょう
 攻撃力が無いなんて馬鹿にしちゃいけない。
 なぜか硬貨には鉱石から作られた時の記憶があるのだ。
 どういう原理かはしらないが炎が吐ける。

 俺がばら撒いた硬貨が炎を吹き始め壁にする。
 ジュサは銀将ぎんしょうが居れば大丈夫だろう。

 俺も参戦しますかね。

 俺も異世界産のアンデッドを装備している。
 その名も歩兵ふひょう、スパイク長靴をアンデッドにしたのだ。
 もの凄く早く歩けて疲れない。

 俺は炎の壁を楽々飛び越え音もなく着地した。
 そして走りに走った。
 出会った男達の足をスパイクで踏んで回るおまけつきでだ。

「いてえ、足を踏まれた」
「くそう、動きが見えねえほど早い」
「楽な仕事じゃなかったのかよ」

 俺は松明たいまつを持っている男達を集中して狙い始めた。
 俺のナイフに腕を切り裂かれて、松明たいまつは次々に落ちて行く。
 アンデッドにとって暗闇はホームグラウンド。
 そりの運転を飛車ひしゃにさせたのもこの夜目があるからだ。

銀将ぎんしょうもう良いぞ」

 炎の壁が唐突に消えて辺りは暗闇が支配した。

「見えねぇ。不味い早く松明たいまつともせ」
「ぎゃ」
「おい、どうした」
「俺の腕が」
「何か顔に生ぬるい物が掛かったぞ」

 ふ、楽勝だな。
 ゴーレムとは違うのだよ。ゴーレムとは。
 記憶で動いているリビングアーマーは自立戦闘が出来る。
 一々指示しなくても動いてくれるのだ。

 程なくして男達の声が聞こえなくなった。

銀将ぎんしょうあかりをくれ」

 炎が上がり辺りを見回すと立っていたのは俺と飛車ひしゃ角行かくぎょうだけだった。
 松明たいまつを拾い炎で点す。

 ふところを探すが誰かに雇われた形跡はない。
 てっきり教会が俺達に気がついて、チンピラをけしかけたのかと思ったが。
 どうやら杞憂きゆうだったようだ。

「ジュサ、怪我はないか」
「大丈夫よ。アンデッドって便利なのね」
「そうでもない。聖水掛けられると溶けるし。治癒魔法や光魔法でも溶ける」
「呪いも似たような物よ。解呪の魔法にはてんで歯が立たないから」
「光魔法と白魔法と鍵開け魔法に解呪されるんだよな」
「そうね、先を急ぎましょ」

 俺達は二回目の世界樹の実を教会に持ち込んだ。

「凄いですな。二回連続で成功するとは。漬物溶液のレシピを教会に売るつもりはないかな」
「こればっかりは。俺はこれしか出来ないので。他人にレシピを売り渡して違う仕事にはけません」
「教会の言う事には従っておくのが身のためですぞ。どこの商会と取引があるか聞いてもよろしいか」
「ボルチック商会と取引して、聖水漬けを作ってます」
「おお、あの聖水漬けを。あれは司教様の大好物でな。その話を聞いたら無下にはできん」
「そうです。餅は餅屋とも言いますし。漬物の事は漬物屋に任して下さい」
「手間をとらせたな。そうだお詫びの印に一筆書いてやろう。これを見せれば一度に十個実を運べるようになる」

 一度に十個か。
 手間は省けるんだが、魔力が持たない。

「一度、試さして貰います」
「なに駄目でも文句は言わないぞ。他の連中の成功率って言ったら目も当てられん。金貨120枚と書付だ」
「ありがたく頂戴いたします」

 教会から出て宿屋に向う。

「あんなに下手に出なくても良いのに」
「いやなに、気分良くさせておけば金を吐き出してくれる」
「思わず神官を呪いそうになったわ」
「絶対するなよ。もしばれたら、これからの計画がおじゃんだ」
「ええ、そこまで馬鹿じゃないわ」

 対教会組織の活動資金をバンバン稼ぐぞ。
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