上 下
73 / 88
第三部 無双編

第72話 強制依頼

しおりを挟む
 封鎖されている街道は他に通る人もない。
 しばらく行くと兵士が問題の現場近くで検問している。
 ギルドから貰った許可証を見せた。
 兵士から同情の視線を貰う。
 俺だって行きたくて行くんじゃない。
 ダダを捏ねても始まらないので足早に検問を抜ける。
 フィオレラは馬ゴーレムに騎乗し、俺とビオンダさんは動く歩道魔法で進む。
 馬車とレシールさんは宿に置いてきた。



 あれだな、道の真ん中に居座る大蛇が見える。
 情報の通り頭の少ししたの部分に一対の翼があった。



 武器をフィオレラに預け魔力ゴーレムを連れて魔獣に一人で近寄る。

「話し合いたい。この通り武器も持ってない」

 両手を挙げ更に魔獣に近づく。
 魔力ゴーレムは保険だ。
 しめしめ、視線が魔力ゴーレムに行ってないという事は見えてない。

「今は暇だからお話しても良いよ」

 魔獣の声の調子は若い。

「まずはこの場所にいる目的を話して欲しい」
「ええっとねえ。僕は居たいからここに居る」

 なんだ初っ端からつまづいたな。答えになってない。
 それと返答の内容が少し子供っぽいような気がする。



「あなたはどのような存在なのですか?」
「僕は偉いんだぞ。唯一不二ゆいいつふになんだぞ」

 それを言うなら唯一無二だろう。
 なんか頭があまり良くないのかな。
 神様説が少し揺らいだな。



「仕事とかないのですか?」
「それは……いちいちうるさい奴だな」

 急に切れたぞ。



「どうしたらここから退いてくれますか?」
「僕に指図するな。もう飽きた。お前どっかに行っちゃえ」

 分析で魔獣を見るとなんと魔獣の体全体が魔力だ。
 風の塊を撃ってきたので飛びのいてかわす。



「むかーお前嫌い」

 もの凄くでかい火の玉を頭上に浮かべている。
 ピンチだしょうがない。
 魔力ゴーレムを魔獣の近くに移動させ転移刀を発動する。
 転移刀で魔獣の首を刎ねる。
 火の玉が霧散する。
 やったか。



「やったな僕完全に怒ったぞ」

 首は宙に浮いている。
 首と胴体が離れているのに焦った様子は無い。
 まさかのノーダーメージか。



「そこまでじゃ」

 まさかの神様登場。

「えーもっと遊びたいよー」
「駄目じゃ1592号。ほれ」

 神様が手を振ると魔獣が一瞬で消えうせる。



「ご無沙汰しております」

 混乱しているせいか少し頓珍漢な事を言ってしまったぞ。
 ご無沙汰しておりますは、しばらく相手を訪ねなかった場合の挨拶だ。
 神様に会いに行ける訳ないのに。



「よいよい、今回は助かったのう」
「あの魔獣は何だったのですか?」
「1592号はな。お主の分かりやすい言葉で言うと修正プログラムじゃ。今この星では魔力の発生に不具合が生じておる。それを修正するために作ったのだが逃げられての」

 もしかして魔獣の活性化もこれが原因かな。



「ところでどうやって此処が分かったのですか?」
「カメラじゃ。お主が封神と呼んでいるあやつから連絡が来ての」

 封神は気安く神様と連絡を取り合っているのか。
 封じられている意味があまりないような。



「ところで褒美は何が良いかの」

 戦闘力は大体間に合っている。そうだ。

「何か困った事があった時一回だけ助けてもらうのは」
「それでよいぞ。ではさらばじゃ」



 神様が消えると同時に馬ゴーレムに乗ったフィオレラとビオンダさんが全速力で駆けてくる。
 ビオンダさん早いな。
 フィオレラと同時についた。




「シロクさん大丈夫ですか」

 馬ゴーレムを飛び降り抱きついて来るフィオレラ。

「おちつけ。この通りなんともない」

 フィオレラの背中をポンポンと軽く叩いた。

「心配しました」
「心配かけたな。当分厄介事はないだろう」
「はぁはぁ貴君あれはどなただ!」

 さすが教会の人間だけあって神様の気配に敏感だ。

「あの方は神様です」
「やはりそうか。遠目だったが生きて目にする事ができるとは今日は何という幸運な日だ。何を話した!」
「逃げた魔獣を捕まえるのに協力したお礼で好きな時一回だけ助けてもらう事になりました」
「なんという悪運。正直羨ましい」

 本当に羨ましげなビオンダさん。この様に感情を剥き出しにするのは珍しいな。



 王都のギルドの中に入ると待っていたのかグランドマスターが声を掛けてきた。
 少しがっかりした様子。

「どうじゃった。やっぱり駄目か?」
「いえ神様に助けてもらってなんとかなりました」

 打って変わり明るい表情のグランドマスター。

「何と神様が。そうじゃったか。商業ギルドにもせっつかれて困っとったんじゃ」
「それでさすがにSランクは大丈夫ですよね」
「ああ問題ない。断言できるのじゃ」

 自信たっぷりだ。今回は大丈夫だろう。

「では明日アドラムに帰ります」



 品の良い酒場をグランドマスターに教わり。
 一人で情報収集に行ってみた。



 酒場はショットバーのような雰囲気で高そうな酒の瓶がずらりと並んでいる。
 カウンターの中に居るマスターの正面の席に座り酒を飲みながら噂話をマスターに聞いてみた。



 国境の戦争は回避される方向との事。どこも魔獣のスタンピート対応で忙しいらしい。
 もう何ヶ月か前にはその情報が出回ったと言っていた。
 辺境は情報が遅いという事がはっきり分かる。



 魔道具の話を振ってみた。
 発掘がアドラムで行われていると言う事を聞かされる。
 段々とばれていくな。最後には俺に行き着くのだろうな。



 次に貴族派の事を聞いてみた。
 ヤルヤード伯爵というのが貴族派をまとめているらしい。
 かなりお金が動いてるようでその原資がどこにあるのか謎だと噂になっている。



 宿に帰るとフィオレラに匂いを嗅がれ。
 お酒の匂いだけですねと言われた。
 例の魔道具の実戦データを戦闘の影響か激しく取ってしまった。



 帰りの馬車に揺られてつらつらと考える。
 魔力の不具合の影響は何時まで続くだろうか。
 修正はしているみたいだから段々と収まるとは思うけど。
 それと魔力の発生源はどこにあるのだろう。
 こんど封神に会った時に聞いてみたい。



 それと活性化の始まりの時期がどうも俺がこの星に来た時期と一致する。
 偶然だろうか。
 偶然ではなくとも俺に出来る事は高が知れている。
 特に神様に使命を言われた事も無いし気楽に行こう。



 それと今更だがフィオレラを弟子卒業にしたい。
 ついでにローレッタも卒業させるか。
 弟子卒業の時に師匠が何か贈る風習とかあるなら準備しなくては。
 向かいに座っているビオンダさんに聞いてみる。
 師匠と弟子の名前を入れた免許皆伝の証の腕輪を贈るのが一般的との事。
 材質はなんでも良いらしい。
 ここは奮発してミスリルで作ろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

稼業が嫌で逃げだしたら、異世界でのじゃロリ喋る妖刀を拾いました

日向 葵
ファンタジー
 現代社会に現れる魔物、鬼を専門に退治する鬼狩りの家に生まれた鬼月諸刃は、家業を捨てて料理人になりたかった。  目的の鬼を倒してしまい、未練をなくした諸刃に鬼狩りを続ける意味はない。じっちゃんの説得を振り切り逃げ出した。  逃げ出した先にいたのは、幼馴染の飛鳥。両親が料理人で、彼女の両親の影響で料理人を目指すようになった。そんな彼女とたわいない日常会話をしながら、料理を教わりに彼女の家に向かう途中、謎の魔法陣が現れる。  が、一分ほどたっても一向に動かない。  待ちくたびれていたら突然はじき出されて落っこちた。  一人変な洞窟のような場所に転移させられた諸刃は、そこでのじゃのじゃ喋るロリ声の妖刀を拾う。 「よし、これで魚でも切るか」 『のじゃああああああああ、な、生臭いのじゃあああああああ』  鬼狩りという稼業から逃げ出した諸刃は、料理人になることが出来るのか。  そして、のじゃロリの包丁としての切れ味はいかに……。  カクヨム、小説家になろうにも投稿しています。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

【オンボロ剣】も全て【神剣】に変える最強術者

月風レイ
ファンタジー
 神の手違いにより死んでしまった佐藤聡太は神の計らいで異世界転移を果たすことになった。  そして、その際に神には特別に特典を与えられることになった。  そして聡太が望んだ力は『どんなものでも俺が装備すると最強になってしまう能力』というものであった。  聡太はその能力は服であれば最高の服へと変わり、防具であれば伝説級の防具の能力を持つようになり、剣に至っては神剣のような力を持つ。  そんな能力を持って、聡太は剣と魔法のファンタジー世界を謳歌していく。  ストレスフリーファンタジー。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

処理中です...