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第二部 成り上がり編

第30話 不思議水筒

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 今日も雨だ。
 今はやる事なくて暇なので黒髪亭の女将さんに会いに行くことにする。
 行く途中で土産の果物を買う。
 雨の日でも幌を掛け露店をやるなんて根性あるなと思いながら黒髪亭を目指す。

 黒髪亭は相変わらず営業している。
 朝の時間は旅立つ人や仕事に出かける人で混雑していると思いきや、見たところそれほど人はいない。
 雨具の水を払い食堂のテーブルを拭いてる女将さんにお土産を渡す。
 久しぶりに会った女将さんは相変わらずおばちゃんだ。
 雨期は客足が鈍るなんて愚痴をこぼされ近況などを報告しあう。
 ヤギウのコレクションを見ていかないかという誘いにせっかくだからお邪魔する事に。

「そういえば、こないだ大変な物見つけちまったんだよ」
「なんです」

 コレクションを整理していたら、呪いの箱を見つけたらしい。
 大丈夫かとの問いには今までなんかあった事ないから大丈夫との事。
 気味が悪くてしょうがないと溢す女将さんにくだんの箱を見せてほしいと頼んだ。
 呪いの箱は二十五センチぐらいの横長の木箱で数枚の紙でお札を貼るように封印されている。

「これはっ!!」
「何か分かったのかい」

 なんと箱の蓋には漢字で不思議水筒と書いてあり。
 お札に見えたのは日本語で罵詈雑言を書いた紙だった。
 紙には貴族くたばれ、商業ギルドのしみったれ、魔力がなんでこんなに少ない、なんてクソなスキルなんだなど色々書いてある。
 書いてある字が読めたかと聞くと誰も読めないが、ヤギウが使っていた文字に似てるからコレクションの中に入ってたと説明された。



「どういう由来の品なんです?」
「帝国出身の骨董商が二十五年前に持ってきたのさ。商人が言うには質流れの物で。質屋に持ってきた男がヤギウゆかりの呪物だと言ったとか。その男は数日後に殺されたらしい」
「大体その後は分かります。みんな気味悪がって手放したと。開けるのも怖いから中身が分からない」
「そうさね、先代も開ける勇気はなかった」
「ほしいと言ったら、売ってくれます」
「ああ、いいよ無料でもいいくらいさ」

 女将さんは清々したという風情だ。

「じゃあ、大銀貨一枚ということでよろしいです?」

 女将さんにお金を払い。箱を持って宿を出る。



 箱を振るとカラカラ音を立てる。
 まさか本当に呪いの品で骨でも入っているんじゃないだろうな。
 家に帰り、度胸を決めて箱を開ける。
 箱を開けると空のペットボトルが出てきた。
 こんなもんに大銀貨一枚。
 換算すると三万円も払ってしまった。
 興味深げにフィオレラが寄ってくる。

「師匠なんですかこれ」
「液体を入れる容器だ。ここを捻ると蓋が開く。ペットボトルと呼ばれていた異世界の物だ」
「軽くて透明で便利そうですね」
「そうだ副業にどうだろうか」

 元を取らないと損した気分になる。
 家を飛び出し商業ギルドに駆け込む。

 なんだという人目を気にせず。
 口座のお金で三キロの銀のインゴットを仕入れた。
 急いで家に帰る。
 フィオレラはそんなに慌てる必要ないのにという顔をして向かえてくれた。



「フィオレラ、その容器を変形のアビリティで複製してみない?」
「そうですね。変形の練習どうしようか考えていたからちょうどいいです」



 お昼ごはんの時、フィオレラに銀のボトルの進捗しんちょくを聞く。

「どうだ、ボトルはできた?」
「はい、何回か作り直しましたが改心の出来です。十本作ったら、材料が切れました」
「よし商業ギルドに持って行くぞ。ついでに材料も仕入れてくる」



 いつもの様にクリフォードさんを呼び出してもらう。

「こんにちは、いつもアポなしですいません。今日は新しい商品を持ってきました」
「いいのです。発明品を持ってこられる方は大体そうです」

 慣れているのか微笑みながら俺の発明品を待っている。

「今回はこれです」

 銀のボトルをテーブルに置く。

「うむ、これは水筒ですか?」
「はい、上の蓋を捻ると開きます。閉じると逆さにしても水が漏れません。この仕組みが今回の発明です」
「試してみても」
「はいどうぞ」

 クリフォードさんは水を持ってきて色々実験している。

「どうですか。裕福な人向けに考えた商品なんですが」
「うーん、申し訳ないが権利料はせいぜい二パーセントですな」
「そうですか……」
「真似され易いというのがネックですな。たぶん小さい工房で模造品が沢山作られると思います。そろばんの場合は注文が大量なので色々な効率が良くなり価格競争にも充分勝てます」
「真似され易くって数が出無そうでそんな気がしてました」
「高級品なのは良いですが、数は出ないでしょう」

「安い材料で作るのはどうです?」
「加工の手間は材料に左右されない。そこが問題です」
「ちなみに加工賃はどれぐらいを考えています」
「あれ、この間紹介した工房で作られたのでは無いのです?」
「違います。ひょんな事から変形が使える弟子と知り合いになりまして。いい奴なんですが事情がありまして。副業を探しているということで頼まれました。加工代は後払いです」

「そうですね、キリのいいところで一本大銀貨一枚ですね」
「そんなにです?」
「変形は魔力を沢山使います。複雑な形状は更に使うはず。この商品が作れる職人はベテランか魔力量が多いと思いますよ」

 たぶんベテランはいっぺんに作らずに部品を組み合わせて作るのだろう。
 そこに技術がいるのと思われる。

「今回権利料は要らないので持って来た十本は買い取ってもらえます?」
「ええ、いいですよ。材料費は重さを量ったので良いですよね」

 秤にかけて重さを量る。

「少々おまけして大銀貨二枚ですね。加工賃と合わせて一本大銀貨三枚で買わして頂きます」
「いつもの様にここでは無い国で発売して下さい」
「ええ今回の十本は念の為仕入れの伝票を他の国にしておきます」
「お願いします。しばらく経ったら、また寄らせてもらいます」

 材料を買って商業ギルドを出る。



 しかし困った。
 儲かったが頻繁に持ち込むとフィオレラの魔力回復が異常なのがばれる。
 違う副業も考えなければ。

 それと考えるに多分ペットボトルの元の持ち主は帝国の稀人だろう。
 不思議なめぐり合わせだ。
 権利料二パーセントを聞いて、売るのを躊躇ためらったのだろう。
 呪物だなんてでっちあげたのは質流れになった時売られない様にするためだろう。
 質に入れたのはトラブルを感じ取ってペットボトルを隠す為か。

 リバーシなどのボードゲームのアイデアはたぶん商会に持ち込んだのだろう。
 その商会とトラブルになったかライバルの商会に目を付けられたかは分からないが、殺されるとは俺も油断できない。



「フィオレラいい値で売れたぞ」
「そうですか。今なら一日に百本はいけます。沢山作りますか?」
「それだけど、そう上手くいかないみたいだ。スキルの練習もあるし一日四本までに押さえよう」
「残念です」
「他の副業も考えるよ。とりあえず今日の稼ぎの金貨一枚を渡しておく」

 こういう時はまた明日気分転換して考えよう。

「そうだフィオレラ、ペットボトルと箱を裏庭に埋めよう。一応弔っておこう」
「はい、見本をすぐ作ります。少し貸して下さい」

 見本として複製を作り、ペットボトルと箱を埋める。
 適当な石を墓石にして、手を合わせた。

「お前の分まで成り上がってやる。安心して眠れ」

 今日は酒でも飲んでから寝よう。
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