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chapter18 竜馬の帰還

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社長室で竜馬の椅子に座り
宗一郎が文也の話を聞いて大きな声で笑った




「なかなかひどいな」




宗一郎がコーヒーを入れようと椅子から
立ち上がるとすかさず文也が座った
長い脚を伸ばし
社長椅子に座ってくるくる回して言う





「ひどいどころじゃないよ
まったくあの4次元カップルにはあきれるよ」
 



文也は椅子と同じように目をくるりと
回して見せた




「幸せな男はみんなあんな感じになるのさ
もうだらしないもんだ
盛りのついた犬みたいに舌をだらりと垂らして
目の焦点が合わないもんさ 」



「うん・・・気持ちはわかるよ
宗一郎も家ではあんな感じなのか?」
 



宗一郎が笑いながらわざと肩をすくめて見る




「もっとひどいかもしれないぞ 」





にんまりした文也の頬でえくぼが現れた




「まぁ・・・僕も人の事言えないけどね」



「耳の具合はどんな感じだった?」




 
宗一郎がカップホルダー二つに
白のプラスティツクのポリカップを装着し
コーヒーを注ぎながら聞く



「僕には・・・・
いたって普通に見えたけど・・・
やっぱり悪いのか?」





文也がコーヒーを受け取りながら言う





「アイツは事故後3ヶ月以上経過してもやっぱり
右耳の破裂した鼓膜が
ふさがっていないそうだ・・・
閉鎖傾向がない場合は
鼓膜形成手術を行わないといけない・・・

だから俺とジェニで世界中の耳鼻科を検索して
やっと鼓膜再生に一流の
ドクターをアメリカで見つけたんだ
ジェニがアイツの診断データをそのドクターに
送ったら手術の成功症例を送り返してくれた」





宗一郎の眼鏡越しの瞳はいつになく冷静だった
長々と沈黙してから文也が言った






「じゃぁ・・・・アメリカに行って
そのドクターにかかるんだね 」


「そうなるな・・・・
俺たちの住んでたシカゴからもそう遠くないしな
手術を受けたら治るそうだ 」





宗一郎はコーヒーを啜り
考え込んだ風に少し眉毛を寄せた





「先日の会議のアイツを見てて気が付いたんだけど
街中の雑踏や大勢の人が話していると
やっぱり聞こえにくいみたいだな
顔には出さないが
やっぱりアイツは不安そうにしていた」





「そうなんだ・・・・
全然気づかなかった・・・・ 」




驚いた文也が言った
宗一郎がフッと笑った






「長い付き合いだからな」






思わず宗一郎は目を閉じて・・・
また開いた






「なぁ・・・文也・・
運命って信じるか?」





「運命?」





宗一郎の口ぶりからして
今さっき思いついた事ではなさそうだ
彼の言い方はずっとその事柄について考えこんでいた感じだった




「ああ・・・・・
俺思うんだけど・・・・
あの事故さ・・・・
こんな事思ったらいけないのかもしれないけど
もしあの事故がなかったら竜馬は未だに
「堅物」とか「鬼の首切り屋」とか呼ばれながら
メビウスをデカくすることだけを求めて
生きていたのかもしれないってね・・・・ 」





宗一郎がゆっくりと窓際に歩いて行った
深呼吸をして両ポケットに手を入れ
大阪の街を見下ろす





「ジェニが俺にそう言って来たんだ・・・・
今後はジェニと二人で耳の回復と共に
これからの竜馬らしい
生き方を探してくれたらと思っている・・
アイツは俺の家族も同然だから・・・・ 」





文也が事故当時のことを思い出しているのだろう
肩をすくめて言った





「運命にしては
ずいぶん痛かったぞ 」





「お前のあれは無傷に近かったじゃないか
なんとなくだけど今の竜馬は変わったと思うよ
いや・・・むしろあの事故以来
ジェニの元でやっと本来のアイツが見えるんだ
たいした女だよジェニは 」




「本来の竜ちゃん?
僕が出会った時からはもうあんな感じだったけど?」




宗一郎はもう文也の言うことを聞いていなかった
竜馬が事故にあってからずっと宗一郎を捉えていた
言われた言葉が心に去来するのに
最近では遠慮が無くなってきている




彼に言われた言葉が・・・・








:*゚..:。:.   .:*゚:.。
「青臭いこと言うなよ宗一郎・・・・
今はまだ会社は俺のものだが
いずれはお前の椅子ができる
それについては何も問題はおこらないだろう」
:*゚..:。:.   .:*゚:.。








ジャスティン・・・・・・
*゚..:。:.   .:*゚:.。








宗一郎は閉じていた目を開け
文也に向き直った







「そういうわけで昨日正式に竜馬から
メビウスのCEOを引退したいと申し出があった
来年からは俺が竜馬の代わりを務める 」




文也は驚いて首を傾げたが
予想していなかったことではなかった

竜馬が意識を失っていた間
実際メビウスを動かしていたのは宗一郎だ






「そ・・・そう・・・・
それが妥当だよね・・・・・
もしかしたらそうなんじゃないかと思ってたんだ 」





ポンッと宗一郎が文也に透明のファイルを
放って渡した




「え? 」





そのファイルには「異動辞令」と書かれた
書類が入って来た
文也は信じられないとばかりに
その書類をじっと読んだ





「これ・・・まさか・・・ 」





宗一郎はニヤリと笑った





「そのまさかだよ
正式に人事異動部から発表があるだろうけど
来年からはお前は副社長で俺の下で働け 」





「え?・・・・ええっっ??!! 」





ガタンッと文也がファイルを持って立ち上がった
宗一郎は笑った







「異例の出世だな!覚悟しろよ!
一生こき使ってやる 」


 



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