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chapter18 竜馬の帰還
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しおりを挟む竜馬は息を吐き出し
すでに尽きかけている気力を奮い立たせる
生きているということはいろんな事に気づかされる
脚も肺もどこもかしこも痛かった
今度は彼女がカップを口元に運んでくれたので
ありがたく生ぬるいお茶を飲んだ
「・・・・どれぐらい・・・僕は眠ってた?・・」
「三週間よ 」
ジェニが微笑んで言った
疲労で目にクマがある
三週間?・・・そんなに?
ジェニが優しく竜馬の手の甲を撫でる
次にしっかり彼女の手を握った
もう片方の手を彼女も握り返してくれた
しばらく二人はお互いの形を
確認するかのように見つめあった
ジェニは一、二度目をしばたいた
その拍子に涙がまたこぼれ落ちた
「事故のこと・・・・
覚えている? 」
「文也と・・・・ボードに乗っていたんだ
湖の端っこ・・・・E地点だったな・・・ 」
記憶がよみがえる
「うん・・・・ 」
「ガソリンが漏れている匂いに気がついたんだ」
「うん・・・・ 」
そこでハッとした
「文也は?」
「無事よ・・・自宅療養だけど
この病院の近くにホテルを取って
毎日あなたに会いに来てるわ 」
「僕の釣り竿は今頃湖の底かな?
あれ高かったんだ・・・ 」
ジェニが泣き笑いをした
そんな冗談が言えるなら
大丈夫だろうという顔をしている
「釣り竿なんかいくらでも買ってあげる 」
竜馬は顔をしかめた
「いや・・・もうボートは一生乗らない
釣りはコリゴリだ」
竜馬はふぅ~・・・と
ジェニが立ててくれたベッドの枕に頭を沈めた
起き上がれた位置に体をもたれさせると
少し楽になった
竜馬が手を伸ばしてジェニの顔を優しく撫でる
ジェニは微笑み竜馬の好きにさせる
やわらかい頬・・・
生気溢れる肌
触ると温かだ
なにより見る喜びを与えてくれる
そこでジェニが着ている
赤と黒のチェックのシャツに目が止まった
「その・・・シャツ・・・ 」
ジェニの服にしては違和感があった
どこか見覚えのあるような・・・・
そこで竜馬がハッとした
まさか・・・そんなはずはない・・・
「持っていたのか?・・・」
竜馬はそっと言った
「今まで・・・ずっと? 」
ジェニはポロポロ涙を流しながら
うなずいた
「20年間・・・・
私はこのシャツから離れられなかったわ・・・
高校の時・・・・
これを持ってアメリカ中を渡って
あなたを探そうと本気で計画していたのよっ 」
もうたまらないといった感じで
ジェニの顔がぐしゃぐしゃになった
「いつかこれをあなたが
取りにきてくれるんじゃないかとずっと願っていたわ!
忘れたわけじゃなかったの!
まさかあなただったなんて・・・・
ごめんなさいね・・・
私の乏しい想像力では追いつかなかったの
当時の私にはあなたはもっと年上に思えてたから」
ジェニの言葉に竜馬は完全に心を打ち負かされた
そんなシャツ・・・・
こっちが忘れていたよ・・・・
そんなに思ってくれていたなんて・・・
じわっと竜馬の目にも涙が溢れる
「ああっ!大きいお兄ちゃん!!
大きいお兄ちゃん!! 」
「・・・ジェニ・・・・ 」
ジェニがしっかりと自分の胸に竜馬の顔を
抱き寄せた
傷口に手が当たらないように配慮してくれている
竜馬もきつく抱きしめたいのに力が入らないので
ジェニの好きにさせた
「あなたを忘れるなんて絶対にないわっ!
何度でも見つけるわ!
世界中どこにいても!!」
胸が苦しくなるほど締め付けられて
熱い涙がチェックのシャツを濡らす
彼女は忘れていなかったんだ
今ではハッキリわかる
20年かかったかもしれないが
二人は確かにたどり着いたのだ
ああ・・・・・・
目を閉じているのに眩しい・・・
「いつでもここがあなたの戻る場所よ・・・」
竜馬は流れる涙をそのままに
子供のようにジェニの柔らかくて温かな
胸に顔を埋めた
彼女の懐かしい匂いを嗅ぐ
体の力が抜けていく
暫くして涙声ではっきりジェニが言った
「おかえりなさい
私のあなた 」
:*゚..:。:. .:*゚:.。
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