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chapter17 この世とあの世の境界線
16
しおりを挟む「1時間前に東淀川の袴工業地帯が
立ち入り禁止の緊急事態区域に変わった
レベル4だ 」
連日続く大雨の中
宗一郎からの電話に竜馬は青ざめ固まった
次の言葉は聞きたくなかった
「そこにジェニがいるんだ
工業地帯のドまん中のビルのエレベーターに
閉じ込められている」
「なんだって?」
竜馬は手に持っているスマホをショックのあまり
落しそうになった
履き心地の悪いフワフワのスリッパを履いているのに
足のつま先から凍り付くように冷たくなっていく
「今ジェニから俺に電話があった!
地下エレベーターに水が浸水してきてるんだ
助けてと叫びながら泣いていたぞ!
命にかかわるぐらい危険かもしれん!
今住所を送るからすぐ行けっっ! 」
「わかった! 」
竜馬は高ぶってくる感情をなんとか押し殺した
そして立ち上がり
やらなければいけないことを考えた
宗一郎から住所が届いたスマホで照らし合わせると
ジェニのいる場所は災害危険地域レベルマックスだ!
どこもかしこも通行止めだ
メビウスのヘリは飛ばせるか?
すぐに宗一郎と文也に連絡する
「竜馬さん? 」
そこでハッとした
今自分がいる場所は婚約者のアリスさんの
家だ・・・
すぐ近くには伊藤会長もいる
でもぐずぐずはしていられない
最悪の事態に陥った時
後に残ったものには後悔しかないと
嫌と言うほど思い知らされている
竜馬は父と母とジャスティンを失った
ジェニまで失ったらもう耐えられない
「竜馬さん?どうされましたか?」
「申し訳ないっ!! 」
竜馬はその場でアリスに深々と頭を下げた
頼むっ!僕を行かせてくれ!
後で償いでもなんでもする!
心臓がドキドキする
冷や汗が止まらない
彼女が何か言っているがこれだけはハッキリ聞こえた
「ジェニさんを愛していらっしゃるのね? 」
「心の底から」
何をわかり切ったことを
なんでもいいから早く行かなくては
もともと彼女はお互いの資産を増やすためだけの
政略結婚だと竜馬に言った
金が欲しいのなら
いくらでもあげるよ
どちみち彼女が気持ちを変えてくれてよかった
とにかく今は行かせてくれ
彼女なら他の結婚候補は腐るほどいるだろう
別に自分でなくても構わないはずだ
でもジェニは・・・・・
竜馬はぐっと目を閉じた
ジェニには自分しかいないんだ
ドアから焦って出ていく瞬間
彼女をチラリを見やる
彼女は窓をじっと見つめていた
彼女の肩が少し震えているような気がした
竜馬は思った
お元気で・・・・・
*゚..:。:. .:*゚:.。
ハンドルを握る手が震える
文也からメビウスのセコム保安協会が
事故現場に向かっていると連絡があった
こんな日は警察も消防隊も何も役には立たんだろう
こっちはわざわざそのために
毎月高い警備費を払っているんだ
いざという時はやはり民間だ!
くそっ!
おざなりのビルの設備会社を訴えてやる
セコムは行動が速かった
竜馬にスマホで通行止めされていない道路を誘導し
なんとかジェニが閉じ込められている
ビルまでたどり着くと
メビウスの救出部隊はもう到着していた
ありがたい
竜馬が救出チームがいる
正面玄関に入っていくと
会う人みんなが竜馬に挨拶した
中には初めてメビウスのCEOを見る者もいた
任務をサポートする中堅のチームリーダーに
詳しく話を聞く
「この階から下のシャフト全部が
浸水しています・・・・
どっちみちハッチドアを開いて見てみなければ
なんとも・・・・かなり危険です・・・」
竜馬はすべてわかっているとうなずいた
それでもハッチを開けて彼女を救出しにいく
みるみる心臓が痛くなる
今の竜馬は誰が見ても真っ青だった
ジェニを失う恐怖におののいていて
両手足は氷のように冷たく
胃はかき乱されている
これは防災訓練なんかじゃないんだ
本当にジェニがエレベーター天井いっぱいまで
水に浸かって溺れて死んでいるかもしれない
みんながジェニ救出に走り回り
辺りはハッチを開く緊迫した空気が流れていた
ハッチを開いた瞬間水が噴出し
なだれ込んでくる危険があるので
ビル辺り一体に立ち入り禁止のカラーコーンが置かれ始める
辺りは薄暗く
工事用照明ライトが照らされる
エレベーターはまったく定期検査を受けていなく
修理が必要なのは一目瞭然だった
古ぼけたこのビルのオーナーは
完全に管理に手を抜いていた
あとで覚えておけよ
「ハッチドアを開けますよ!! 」
「さがれ!」
「みんなさがれ!」
ドクン・・・ドクン・・
ジェニ・・・・無事でいてくれ・・・
*゚..:。:. .:*゚:.。
「竜馬さんとセックスしたかった―――ッッ!!」
ハッチの下から
ジェニの断末魔の叫び声が当たり一面に響いた
「おおっ!生きているぞ!」
「なんだ?今のは? 」
「浸水していないぞ!」
救護者が生きているという希望に群集がざわめく
途端にドワハハハハハハッと
竜馬はひっくり返って笑った
「社長!笑ろてる場合じゃおまへんで!」
「はよ!お嬢ちゃん助けたらな! 」
「いや~・・・おっちゃん恥ずかしいわぁ~」
救助リーダー達がなんとか笑いをこらえながら
竜馬に言う
ヒーヒー言って竜馬が四つん這いで
体を震わせている
は・・・腹が痛い・・・
ボロボロ涙がでる
息が出来ない・・・・
殺されるっ・・・
ジェニに笑い殺されるっっ・・・
竜馬は生まれて初めて
このまま笑いが止まらなければどうしようと
本気で生命の危機を感じた
さすがジェニだ
彼女はいつも竜馬の予想の斜め上を行く
笑い狂っている竜馬を放って
気を取り直したセコムが
救助作業に慌ただしく取り組む
「脱出口のボルトが腐っているぞ!
停止ボタンも手動だ! 」
「こんな古いエレベーターは初めて見たぞ」
「急げ!半分以上は水に浸かってるぞ! 」
鉄を切る電動チェーンソーの金切り音が
辺り一帯に響く
腐ったボルトを叩き割る作業も続く
やっとハッチに人一人が通れる
穴をこじ開けたら
なんとか正気を取り戻した竜馬が
ライトを照らして中を除く
「竜馬さん!!竜馬さん!! 」
子供のように泣きじゃくっているジェニを見た時に
竜馬は生き返った心地がした
彼女は無事だ
彼女はびしょびしょで上着も着ていなく
ほっそりとした首があらわになっている
ビジネスシャツ姿だ
なんてかわいそうに寒かっただろうに
竜馬は自分の暖かい体で彼女を包んであげたかった
よしっ今すぐそうしよう
いつだって彼女に魅了される
喉が詰まっている
息すらほとんどできなかった
二人は照らされる照明の中
しっかりみつめあった
「よしっそっちに行くぞ! 」
「竜馬さん!! 」
竜馬は微笑んで言った
少し前までは彼女を失ったら今度は
自分は死ぬかもしれないと思っていた
次につかまえたらもう二度と離さない
死ぬまで一緒だ
竜馬は運命の女神を抱きしめに飛び込んだ
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