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chapter17 この世とあの世の境界線

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午後11時・・・・
やっと二台のノートパソコンと二台の
スマートフォンから目を離して
彼女が歯を磨きにトイレに出かけた
そして戻ってくると




なんとキャンプ用の一人テントを組み立てて
その中に寝袋を引いた






あれの中で寝るのか? Σ(゚Д゚;ノ)ノ






竜馬は驚きすぎて柱の陰で硬直した



そして彼女は今はふわふわのピンクの
パジャマに着替えて
猫耳のヘアバンドをつけていた
片手にはクマのぬいぐるみを抱えテントに
もぞもぞ入って入口のファスナーを閉めた




いったい家にあるものをどれだけ
このオフィスに持ち込んでいるのだろう




「どうせ家に帰っても誰もいないもんねぇ~~
今から帰って朝わざわざ
出勤してくるのもめんどくさいし
朝7時になってあそこの銭湯が開いたら行こうッと♪
おやすみなさぁ~~~い♪」






その言葉を聞いた竜馬の心が痛んだ
そうだ・・・


今は彼女はあの大きな屋敷に
一人で住んでいるのだ・・・


そりゃ帰りたくもないよな・・・・
彼女は家にいるよりここにいる時間の方が長いんだ


よく考えたら彼女の大きな家より
ここの方が安全だし24時間空調もしっかり効いてる
明日になったら防犯カメラをここに
もっと増やそう加湿器も新しいものを導入しよう







それでも・・・・
ちゃんとした部屋で
ベッドで寝ないと体も休まらないだろうに・・・



彼女を自分の家に呼べたら・・・・




するとテントの隙間から
低く穏やかな轟音が聞こえてきた






いっ!いびきをかいているっ!!Σ(゚Д゚;ノ)ノ






竜馬はテントの横で胡坐をかいて座りこんだ
そして腕を組み
信じられない気持ちで
じっとテントを見つめながら
彼女のいびきを聞いていた



テントの入口にはシャンプー&コンディショナーの
お風呂セットとケロケロケロッピと
かかれたカエルのマークの黄色い桶が置いてあった






・・・ケロケロケロッピって何だ?






後で検索しようと竜馬は頭にこの単語も
インプットした




竜馬は段々大きくなる
彼女のいびきを聞きながら
今日の仕事ぶりを思い返していた



彼女は今日も朝から晩まで
すべてをひとりでこなそうとしていた
その様子はまるでジャスティンのようだ




せっかく与えた「フレシキブル・ワークスペース」も
完全に無視し
社員達が仕事しやすい環境を作る事に心を砕いている
何があっても社員を守るという姿勢は執念に近い




まだほんの20代の女の子なのに
もの怖じせず立ち向かってくる
竜馬は立ち上がってジェニのデスクを見た




なにかわからないキャラクターの置時計
うさぎの形のした帽子・・・
端っこを引っ張ると耳がピョンッと立った
黒ひげ危機一髪
駄菓子がこんもり盛られた籠
ホイップクリームを淵にデコレーションされた鏡



何枚ものいろんな形の付箋があちこちに貼ってある
それにはどれも「至急!!」と書かれている



まるでここはフリーマーケットだ





ピンクのフワフワ羽の
ボールペンをそっと持ち上げくるくるしてみた

その拍子にこれまたキラキラしたピンクの
バインダー式のノートに目がいった


好奇心に負けて開いていると
そのノートには文字がびっしり書かれていた




白く・・・白く・・
どこまでも白くファンタスティック!

艶やかなまるで私は白雪姫!ファンタスティック!
 
「何もしてないわ!お母さんが色白なの」
 と私は嘘をつくファンタスティック!←長い



 
竜馬は思わず目を見張った
これは彼女の案件の日焼け止め乳液
「ファンタスティック色白」の
宣伝文句コピーライティングだ・・・・





色白・・・
ファンタスティツク・・・
焼かない・・・
白くなりたい・・




それらの言葉が何ページにもわたって
書きつけられている
どれも乱雑で走り書きに近いが
竜馬の興味を引いたのは言葉の組み合わせだった





白いこと、白いこと、
そうだ!日焼け止めを塗ろう!
白い私
詐欺れる私
色白の私
お姫様の私





キャッチフレーズがぴたりと決まるまで
ありとあらゆる言葉の組み合わせを試している
 


竜馬はそのノートを手に取って
盗み見する後ろめたさも忘れて
最初から1ページづつ読んでいった



ページをめくるたびに次々と
神崎広告代理店がヒットを飛ばした
広告宣伝文句や絵コンテがびっしりと書かれていた


まるで閻魔帳だ
むさぼるように竜馬はノートを呼んだ






カタカタカタ・・・・・




何の音かと周りを見渡してみると
ハムスターのハム太郎が餌をくれとゲージを
ガジガジ噛んでいる音が聞こえた



竜馬はジェニのデスクの隅にある
「ハム太郎のビスケット」と書かれている
瓶から一つ取り出し

ハム太郎にビスケットを一枚ゲージ越しにあげた
ハム太郎は嬉しそうにビスケットを食べだした






たしかに癒やされるな・・・・






誰もいない神崎のオフィスをぐるっと
見渡して考え込んだ






今は背筋がぞくぞくしている





どうやら竜馬はジェニを完全に誤解していたようだ


驚いて言葉も出なかった







神崎広告代理店が世に送り出してきた
数々の傑作は・・・・






目の前のテントでいびきをかいて寝ている
この若い娘一人の手によるものだった・・・・






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