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chapter17 この世とあの世の境界線

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いつもの通りスーツを脱いで
ブカブカのTシャツにヨガパンツで
いくら毛足の長いカーペットが敷いてある
といってもそこに胡坐をかいてペタリと座り込み

ノートパソコン2台とスマホを
スタンドに2台立てて仕事している



竜馬は遠くでジェニから自分が見えない角度で
少し近づきデスクの椅子に座り大きな観葉植物の
葉っぱの隙間からジェニを見守った



こんな時には隠れる観葉植物は役に立つなと思った
「フレキシブル・ワークスペースシステム」を
廃止してもいいかもしれない




彼女はワイヤレスマイク付きのイヤホンで
得意先と打ち合わせをしながら
ノートパソコンとスマートフォンで
広告宣伝用の動画をチェックしていた




・・・いつからそうやっているのだろう・・・
とっくに社員は帰っているのに・・・



どうして彼女はこれほど
仕事に情熱を燃やせるのだろう




ポニーテールにした髪が彼女が喋るたびに
ゆらゆら揺れている



彼女は観葉植物の影にいる竜馬の存在など
まったく気づいていない



そして竜馬は思った
彼女は本当に亡き一郎さんの会社で遊んでばかりの
役立たたずの給料泥棒だったのだろうか・・・



それは勝手な自分の思い込み
だったのではないだろうか

一度ゆっくり彼女と仕事について
話してみたいと思った



素敵な場所で上手いものを食べさせてあげて
リラックスした状態で・・・
今からでも遅くはない―




バンッ!
「いっやーーーーーーっっ!!
もう限界ーーー!!」





突然すっくと彼女が叫びながら
立ち上がった


竜馬はその叫び声にのけぞり椅子から
転げ落ちそうになった所をなんとか
デスクを掴んで持ちこたえた




あまりの驚きに竜馬の心臓はハンマーのように
あばらを打ち付けた




な・・・何事だ?




彼女はまだこちらに気付いていない
すると彼女は突然大きな声で泣き出した





「もうやってもやっても
メールが終わらないぃぃ~~~
いったいみんないつ寝てるのよ~~~!!
嫌い!嫌い!
こんな付箋なんて見たくもないわ!」




彼女はワンワン泣きながら
デスクにびっしり貼られたピンク色の付箋を
一枚一枚はがしてあちこちに放り投げた 





「お腹へったよぉ~~~~!
お風呂はいりたいよぉ~~!
ネネチキン食べたいよぉ~~~!
味変三種スパイシーソース付きぃぃぃ~~」





ついに彼女は正座のままお尻を高く突き上げて
カーペットに突っ伏して
大声で泣き出した






うわぁ~~~~ん!!
「お父さぁ~~~~んん~~~~」





その一言で竜馬の胸がズキンッと痛んだ



彼女は一郎さんが死んでからもこの会社を
頑張って守って来た
そして肝心な兄の豊がいなくなっても
まだ頑張って来た
会社を買収されてまでも社員を守って来た



たった一人で





27歳の若い女性がすることではない




そんな彼女が一郎さんを恋しがって泣いている





可哀そうに
可哀そうに・・・・

ああ・・・胸が締め付けられる





必死な訴えに竜馬は
彼女の気持ちが楽になるなら両腕で抱きしめて
何でも言うことを聞いてやりたくなった



何とか彼女の心に平和をもたらし
慰めてやりたい・・・・








「・・・ジェニ・・・・ 」





竜馬はそっと立ち上がり
ジェニに近づくために一歩を進めた



すると彼女は咄嗟にすくっと立ち上がった



思わず竜馬は近くのデスクの下にさっと隠れた
心臓がバクバクいってる

デスクから目だけフクロウのように出して
彼女の動向を探る



彼女は自分で自分の頬に喝を入れるべく
相撲とりのようにペシぺシ叩いた


パシンッパシンッと打撃音が
シンとしたオフィス中に響く






「いよっしゃぁ~~~~~!!
5分泣いたぞぉ!
さぁ!気持ち切り変えていこ~~~!! 」





ええっ?!(゚Д゚;ノ)ノ






竜馬ははらわたを掴まれたように驚いた




「泣いたらスッキリしたぁ~~!!
さぁ!あと9時まで5分あるわ!
キャー――ッッこの5分でまた
メールが10件増えてるっっ!
よし!あと1件電話出来るっ! 」



そういうと彼女は得意先に電話をかけた




「あっ!もしもしぃ~~~♪
神崎のジェニですぅ~~~
お世話になってますぅ~♪
部長さんこの間のア・レ・ありがとうございましたぁ~
めっちゃ美味しかったですよ
部署のみんなで美味しくいただきました♪
え?いやぁだぁ~(笑)
ダジャレ好きなんだからぁ~アハハハハ♪
それでですね、先日の件なんですけど― 」





ハラハラしながら
竜馬は彼女の一人泣きの一人笑いを見守っていた
心配でたまらなかった



だがやがて熱心にまた仕事に戻った彼女を見て
竜馬は安堵に包まれた





ほら・・・・
もう彼女はケロっとしている



竜馬はそっとその場を離れた






「ネネチキ?ネネチキが食べたいって
彼女叫んでなかったか?
ネネチキって何だ? 」



竜馬は廊下ですかさずスマホを取り出し
検索した



「ネ・ネ・・・・チ・・キ?・・
・・・・ネネチキン!!   」





検索した結果「ネネチキン」とやらは
韓国発祥のから揚げのテイクアウト専門店だった
店舗検索をするとなんと一番近い店舗は
メビウスビルのすぐ裏にあった





「・・・彼女は・・・
これが食べたいのか? 」





竜馬は顎に手を置いて考えた



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