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chapter16 何度も君に恋をする

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「やっと紹介できるな!
松下君!これがワシの孫娘だ!
そしてアリス!このワシの何としても
手に入れたいサラブレットが「松下竜馬」君だ」




「松下竜馬です」
 




目の前でダークブラウンのスーツの男性が
アリスに頭を下げた時思わず目を見張った



大きいわ・・・・

ものすごく大きい・・・




伊藤家の家系は元々男性でも小柄だ
父も祖父でさえもしかしたら
170センチないかもしれない
実際アリス自身身長は高校生の時に止まった

小柄な154センチは今ぐっと見上げないと
結婚相手の彼の顔が見れない




祖父がここの庭園を二人で散歩するのは
絆を深める良い機会だと言った




彼は黙ってうなずくと
庭園に出るガラスの二重扉をアリスにそっとあけた

途端に空調の気圧で
耳がキンッとする




それでも気持ちの良い外の
清々しい空気の中に踏み出すと
風に運ばれた淡路の海と庭園の花の芳香に
少しホッとした




「あちらに行ってみましょう」





しゃべったわ・・・・


 

彼がアリスを導いて小道を進む
空は晴れ、太陽は頭上で輝いてる
冬には珍しく春の小春日和のような陽気だ



大広間の人でごった返した空気とは
ずいぶんと違って清々しい
海の近くのみかん園の香りが鼻孔をくすぐる



しかし突然この威圧的な長身の
男性と二人っきりになった事に戸惑って
段々緊張してきた





彼の雰囲気は険しいわ・・・
表情は獰猛・・・



ああ・・・でもこうして見ると
彼は写真よりとても素敵だわ・・・





横目で彼の横顔をさりげなく見る
鼻が高いっ!




アリスのペチャ鼻とは比べ物にならない


光沢のある真っ黒の髪が風に揺れている
アリスみたいにスプレーで固めていない




睫は男性なのにこんなに長いの?
目を閉じたらどうなるんだろう・・・


アリスは彼を観察する目が止まらなかった



唇は・・・・
綺麗で官能的だ・・・・




彼の体つきは幅のある肩の割には
首は細く滑らかで

後頭部から首の滑らかなカーブが繊細だ




ああ・・・そうか・・・

この方は男性らしさが溢れている中で
長い睫や細くてしなやかな首が
麗しさを醸し出している


だからこれほどの体格でも
彼を男くさくいかつい感じにしないのだ



そんなことを考えていたものだから
アリスは砂利に足を取られてよろけた



傍らをあるく竜馬がそれに気づき
アリスの腰に腕を回して支えてくれた





「お怪我は?」





竜馬が低い声で尋ねる良い声だ
アリスの頬に彼の爽やかな温かい吐息がかかった





「だ・・・大丈夫です・・・・
申し訳ありません・・・  」





彼は表情を緩めてうなずき右手を差し出した
アリスはぼんやりしてその手を掴んだ
手のひらが触れ合った事にくらくらした


それに先ほど急いで取り替えたナプキンの位置がズレている
そんなもので彼は
またよろめくアリスの体を支えてくれた




恥ずかしい・・・
これではだらしない
酔っぱらっている女みたいじゃない・・・



しっかりするのよ!アリス!





アリスの体に力が入らなかったのは
目の前の彼の熱に圧倒されたからだ



彼が不意に立ち止まったので
アリスはその背中にぶつかりそうになった




「ど・・・どうされましたか? 」




「カモメがいる」





彼がささやいた




「ああ・・・そうですね
海の近くですからカモメがここには沢山います」





そこから二人は暫く黙って
海辺に生息しているカモメを見つめていた


何か話さなければなどは思わなかった



なぜなら彼はカモメを見つめながら
じっと考え事をしているのが
ハッキリと見て取れたからだ




それに彼はとても良い匂いがする・・・
爽やかな森林のような・・・
それでいてピリッとスパイシー・・・





「カモメはお好きですか?」




アリスは目の前の大きな男に聞いた




「今まで好きなんて考えたことないな・・
ただ・・・
一時期一緒に生息していた頃がありますね」




彼は天体を観察するように空を見上げた




「こんな色ではなかったな 」




彼が言う


カモメに色があるのかしら?





「ずいぶん・・・・カモメに
お詳しいのですね・・    」




フッと彼が口元を緩めた
カモメがそんなにおかしいのだろうか?





「詳しいどころではないですね
彼らはとても獰猛です
つつかれたらペンチで腕をひねられるような感じで
血が出ます
食い物なんか持っていたら最後です
殺されます
自然の荒々しさを知りたければ
ミシガン湖のカモメを一度は訪れたらいいでしょう

だけど・・・・」






「だけど? 」







「なぜか泣いているときは・・・・
寄ってこないんですよね・・・  」





彼は言い添え
少し声を落として
鳴き叫びながら空を飛ぶカモメをじっと見つめた


まるでカモメと一緒に泣くのが
日常茶飯事だったような
淡々とした語りぶりだった







どうしてそんなに寂しそうなの?
:*゚..:。:.   .:*゚:.。







そう尋ねることで彼の話の腰を折りたくなかった
そして彼がカモメを見つめていれば
心置きなく彼を観察できる



アリスは竜馬をまるで絵画を観賞するように
見つめた


アリスは俄然この男に興味がわいた



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