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chapter16 何度も君に恋をする

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琴子が口を開いた




「アリス・・・・何度も言いますが
仕事をして稼げるお金なんてたかが知れているのよ
伊藤家や松下家が所有する財産と比べたら
たいしたことないわ
私達は上位1%の上流家庭に育ったわけじゃない
日本の上位0.1%の裕福層に属しているの
それが私達なのよ!
もっと自覚しなさい!
巷の一般人と同じにしていてどうするの」






アリスは母の小言を聞きながら再び刺繍に目を向けて
ブスッと針を突き刺した
他にも突き刺せるものがあればいいのに







「お父様が亡くなってから
私達はお祖父様のご慈悲で生きているのよ!
いい?これ以上伊藤家の財産をあの弟夫婦に
取られてなるものですか!
わかっているわよね!
本来ならあなたがすべて
継承するものなのよ!
それなのにお父様が亡くなってから
お祖父様は変わったわ!
私達にすっかり関心がなくなった」





母は不愉快そうにまた窓の傍を
行ったり来たりしだした

かかと付きの室内履きが
床をコツコツと刻む音が部屋に響いた

やめてほしい





「松下竜馬様は聞くところによると
彼はアメリカを拠点とした実業界の大物だとか
私達の中では新参者だけど
その言い回しが使われる殿方は
一般の尺度では測りきれないほどの大きな
財産を蓄えていると理解していいわ
お祖父様が大変気に入っていらっしゃるその
殿方と結婚することこそがアリス!
あなたの伊藤家の役割よ!」





自分の価値が伊藤家の資産しか
求められないというのは幼い頃から
聞かされているとはいえ非常に情けないものだ

それでもアリスは心の奥底では 
アリス自身を求める男性を待ち望んでいた


しかしそれは叶わぬ夢というものだ
アリスは小さい頃に与えられたもので
満足することを学んだ
何かを望んで行動を起こすと必ず邪魔される




琴子が続ける






「私達くらいの裕福層になると
社会の常識が違うのよ
松下竜馬が善人だと思っているのなら
ひとつ教えておいてあげるわ
アリス・・・
あなたと結婚したら彼は愛人をまず作るわ
写真を見たけどあの顔立ちと資産があれば
生涯に少なくとも3~4人と離婚再婚を
繰り返すわね
そのうちの一人がアリス・・・
あなただからと言ってどうだというの?
結婚して子供を産んでしまえばこっちのものよ」






母が生前のお父様のことを
皮肉っているのがわかっていたので
アリスは返事をしなかった
ひどく憂鬱な気分になった


もうこの会話にはうんざりだ






「いい?アリス・・・
お祖父様が気に入っていらっしゃる
松下様と何としても結婚して婿養子になってもらうの
そして一日でも早く世継ぎを産みなさい
そうすれば伊藤家と松下家の財産はあなたのものよ
さっさと既成事実を作ってしまいなさい
あ・な・た・の・方・か・ら・
誘惑するのよ!」






誘惑・・・・・
アリスは無言だったが
頭の中ではいくつもの反抗的な言葉が
浮かんでは消えていった


いったい男性を誘惑なんてどうやってすればいいのだろう
突然彼の目の前で
素っ裸にでもなれというのか
それに自分は今生理中だ






「いくらあ・の・行・為・が
嫌でも種を撒かれれば女は妊娠するのよ」






疲れた顔で琴子は言った







「あなたが男ならこんな苦労はせずに
済んだのに・・・」







吐き捨てる言葉と同様に
琴子はアリスに軽蔑の目を向け
バタンと扉は閉められた




一人部屋に残されアリスは鼻から息を吸い
刺繍枠を置いて立ち上がった



不意に見合い相手の写真を広げてみる
そこにはたしかに麗しいほどハンサムな長身の
男性がスーツ姿で映っていた



しかし写真の彼は顔をしかめて
こちらを恐ろしく睨んでいる







「お見合い写真には最高な表情ですこと・・・・」






アリスはポツリと呟いた





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