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chapter14 Versace On The Floor
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しおりを挟む「言っておくけど、私は将校57人から推薦されて、将校になったからね」
「「なっ!57人!!」」
まぁ、驚くことも仕方がない。普通はそのようなことは無いらしいから。
「おい、何をした!俺たちですら、2ヶ月かかってやっと騎士になったんだぞ!」
「ゼクトデュナミス。ここで騒ぐのはよくない」
そうだね。ザインの言うとおりだ。ザインは何かと突っ走るゼクトの諌め役だ。恐らく神父様がゼクトを一人にしておくと問題を起こそうとするので、ザインをつけたのだろう。
「だが、あの弱いアンジュだぞ!訓練もサボって最低限しか参加しなかったアンジュだぞ」
あ、それはバイトしていたから朝の聖水の作成作業と教会の清掃以外の訓練の免除を神父様から許可をもぎ取っていたし、どうしても出ろと言われた時の戦闘訓練は面倒だから手を抜いていたからね。
「リュミエール神父に色目使っていたアンジュだぞ」
「恐ろしいこと言わないでもらえる?」
なぜ、私が神父様に色目を使わなければならないのか。当たり障りなく接することに苦心しても、決して媚を売った覚えはない!
「だったらなんで、リュミエール神父の部屋によく出入りしていたんだ!」
「それはお説教と反省文という名の経済学の論文を書かされていたから」
「リュミエール神父とよく出掛けていたよな!」
「ボードゲームで神父様に勝てばケーキを奢ってくれるという報奨物のため」
ん?今思えば、何かと神父様に課題を出されていたな。
ゼクトは私が将校になることが気にいらないらしい。いつもながら、よくわからないことで、突っかかってくる。私が決めたことじゃないのに、ここで騒がないでほしい。
「ねぇ。これ以上騒ぐと、神父様に説教してもらうよ。ここに神父様が来ているからね」
すると、ゼクトはピタリと文句を言うのを止め、ザインのところまで戻っていき私に背を向けた。
やはり、神父様が怖いのは皆同じらしい。だけど、私を後ろ目で睨んでくることに変わりはなかった。
その時、この聖堂の鐘が鳴り響いた。音楽でもかなでるように音階が違う鐘が鳴り響く。聖典に書かれている聖女の祈りの一節の音階だ。儀式が始まるのだろう。
「ザインメディル・フラヴァール!」
ザインの名が一番初めに呼ばれた。
一人一人名を呼ばれ、聖女の石像に誓いの言葉を言うだけの儀式だ。
普通の騎士団なら王から剣を承り、剣を捧げる儀式もするそうだが、いない人物が騎士に向けて剣を掲げるわけにはいかないので、言葉だけを捧げるだけだ。
「ゼクトデュナミス・エヴォリュシオン!」
5分ぐらいの間隔を開けてゼクトの名が呼ばれた。
何度かゼクトの名を聞いたことがあるけど、いつもながら全く聞き取れない。私の病気は成長しても治ることはなかった。
「アンジュ!」
なんだか家名がないと味気ないな。そう思いながら、金の装飾がされた扉の前に行き、祭壇側から開けられた扉をくぐって、進んでいく。そこは、人、人、人に埋め尽くされた空間だった。その視線が一斉に突き刺さる。そして、ざわざわとざわめきが沸き起こる。
聖女至上主義の狂信者共め。黙っていろ。全身を嘗めるような気持ち悪い視線を向けてくるな。
私は祭壇の中央上部に設置してある。手を組んで天を見上げている女性の像の前に立つ。どこの聖女像も同じ姿をしている。決して剣を捧げる騎士を見ることはない。
その前に跪く。そして、飾りである腰の剣を抜き、目の前に掲げ、左手を剣身に添える。息を吸い、決まりきった文言を言う。
「我が剣は魔を払い。我が盾は闇を払い。我が身は天使の聖痕を化現されし、聖なる者を命をかけて守らん」
心にもないことを誓わされるつまらない儀式だ。そして、私の名を呼んだ同じ声で階級の授与の言葉が示される。
「この者に将校の階級を与える」
この言葉に合わせて拍手がされ、私は立ち上がり、踵を返して狂信者共がいる方に向けて一礼する。
これで終わり。顔を上げると私の正面上段から見下ろす白い王と視線が合った。ああ、彼の周りのモノたちは聖堂の中でも顕在なのか。
「この場を借りて皆に報告がある」
いつの間にか私の隣にはルディが立っていた。え?気配を感じなかったのだけど?
「私、シュレイン・ルディウス・レイグラーシアとアンジュは一年後に婚姻することとなった。これは国王陛下に許可をいただいた婚姻だ」
ザワザワとざわめきが大きくなる。所々から『あの虐殺の王弟が』とか『死神が』とか聞こえてくる。ルディの痛い二つ名は貴族の間でも有名なようだ。
「王家に白銀の色を入れる婚姻だ。この場では婚約をしたという報告をさせてもらう」
ん?その言い方だと悪いように捉えられないだろうか。私の疑問は拍手の海にかき消されてしまった。
私はルディに手を引かれ、祭壇前から連れ出された。待ち時間が長いわりには、誓いの儀式は直ぐに終わってしまった。まぁ、長々と説法を解かれても耳から耳へ通り抜けていくだけだから、これで良かったと思おう。
無言で長い廊下を歩いていると、私とルディの行く道を遮る者がいた。ゼクトなんたらかんたらだ。
「おい!やっぱり卑怯な方法で将校になってるじゃないか!」
何をいきなり言い出すのか。私は呆れた目をしてゼクトを見たのだった。
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