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chapter12 愛が止まらない

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「さきほどお伺いしていた
メビウス広告マーケティング部の神崎ジェニです!
い・・今地下駐車場へ続くエレベーターの中に
一人で閉じ込められています!
み・・水が中に入ってきているの!
お願いだから私がここにいることを
誰かに知らせてください」




彼女の名刺をもらうか携帯番号を
聞いておけばよかった
なんたる失態



「け・・・警備会社って・・・何番? 」




パネルに表示してある電話番号を
震える指で打ち込む 



水はもうくるぶしまで来ている
浸水する速度が速い



無駄な抵抗だと知りながら
なんとか片足ずつ立ってみる



警備会社はずっと呼び出し音が鳴っている
留守番サービスにも切り替わらない
 

らちがあかないのでもう一度和菓子会社に電話して
留守番サービスにこのエレベーターに
閉じ込められている旨を伝える




お願い・・・誰かがこの
メッセージを聞いてくれますように




スマホの充電が切れる警告の赤いアイコンが灯っている
こうなったら今のうちに打てる手は打たないと



lineアプリを開くとエレベーターの中は圏外だった
チッとジェニは舌打ちし
混乱で視界がぼやけ二重になるなか
水の音だけがあたりに響いている



「ひ・・・ひゃくとうばん?119?どっち?」




どちらともかけて見た
 


「・・・現在通話が集中して
非常にかかりにくくなっています・・
暫くしてから・・・ 」



「暫くってどのくらいよ!!」





この大雨なのであちこちに災害が起きている
どこも出払っているのだろうか?



ジェニは通話を切り着信履歴を見た
誰か選んでいる暇がなかった
直近で自分がかけた一番上に表示されている
番号にリダイアルする


 

プツッ・・・
「浜田です・・・ 」



繋がった!!



プププッと充電がいよいよ無くなっていることを
知らせるビーブ音が鳴る

水が足首まで上がってくると
これ以上冷静なふりを続けることなどできなかった




「そ・・・・宗一郎さん!ジェニです!!
た・・助けて!! 」
  

「どうした?」




やっと一人の世界から外界に繋がれた安心感から
舌がもつれる




「い・・・
今ビルのエレベーターの中にいるんだけど
と・・閉じ込められたのっっ!
水が中に入って来てるのよ!
さっきまで爪先が濡れる程度だったのだけど
今はふくらはぎまで水がきてて!私は一人で・・
ドアは開かなくて、くっ暗くて・・・
誰も来てくれなくてっっ――  」




支離滅裂なジェニの説明に
彼はたたみかけるように言った
 



「どこにいるんだ?」



「八幡中町のグランドセンチュリービルよ
新規のお客さんなの!
宗一郎さん!!聞いてる?」



そこでまた充電が切れるビーブ音が鳴った
ジェニが悲鳴を上げた




「もう一度住所を言え」
ポンッ


宗一郎のスマホの画面録音の合図の通知が鳴った




「八幡中町二丁目のグランドセンチュリービルの
エレベータ―の中よ!!
閉じ込められたの!
地下駐車場が浸水してて
エレベータ―に水が入って来てて―― 」




ブツッと言う音と共にあたりが真っ暗になった
ジェニはスマホをパシパシ叩いた





「キャァ!!!
うそでしょ!!宗一郎さん!宗一郎さーーーーん!






沈黙と水が流れる音だけが広がる
充電が切れて死んだスマートフォンを握りしめて
ジェニはヒステリーを起こして叫んだ




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