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chapter1 堅物ボスは何者?

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役員会議室に一歩足を踏み入れた瞬間
ジェニはすぐに気が付いた




何かがおかしい





今まで数々のプレゼンテーションを
勝ち取って来たジェニにとって
周りの雰囲気を読むこと
言外の意味を読み取ること
ボディランゲージを読み解くことにかけては
自信があった




ほとんどの場合相手の目の色や何気ない仕草から
知る必要のあることがすべてわかる
実に役に立つ実践スキルだ


ジェニはノートPCを抱えたまま
右側の列の席に勢ぞろいして座っている
役員連中をゆっくり一人一人睨みつけた
今までずっとジェニの上司だった顔ぶれが並んでいた





ジェニが彼らの前をゆっくり通り過ぎて行くと
全員手元のメモをじっと見つめたまま動かない



誰一人ジェニと顔を合わさない
これから起こることが面倒な事になる兆候だ







そして今回の買収事件の首謀者と睨んでいる
企画部長の佐竹の前にゆっくりと立ちふさがった
佐竹も他の役員同様ジェニの顔を見ようとしない



一気に怒りがこみ上げてくる
彼らが平然と兄を裏切り
会社を捨てようとしていることが許せない
ジェニは佐竹の前のテーブルに手をバンッとついた






「今までどこにいたの?佐竹部―  」




「私語は謹んで当てがわれた席にお座りなさい」







その声に驚いて振り返り
視線をコの字型になっているテーブルの上座に移した



今まで兄が座っていた席に
今朝接触事故を起こした男性が座っている





ジェニは愕然として男性を見つめた
黒い瞳がジェニをハッキリ捉えている




人を射すくめる様な鋭い視線
逞しい肩を強調する紺色の仕立ての良いスーツ
いかにもビジネスの才能と
優秀な頭脳を持ち合わせている雰囲気を醸し出している




きっと学位もそうとうなもののはず
思わずジェニは嫉妬してしまった



そして遠回しな言い方をしても無駄だろう
ジェニは深呼吸して言葉にした







「・・・・あの・・・
あな・・・た・・が松下竜馬?」





彼の口元がわずかに歪んだ






「そうだ、僕が松下竜馬だ
この「メビウス・ホールディングス」の
代表取締役で鬼と呼ばれて
極悪非道で非人情的で・・・
あと何だった?・・そうそう血が通ってなくて 」






隣の役員達は竜馬の事を
「いったい何を言い出すんだ?」
とばかりに見つめている






何が面白いのかニヤリと竜馬の両口の端が上った






「クビ切り屋だ」











―終わった―





ジェニは心臓がいったん胃まで落ち
急激に飛び上がったような気がした
これで先行きが無残にもおじゃんになった

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