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chapter1 堅物ボスは何者?
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しおりを挟む今はこの男性の瞳はさっきみたいに
怒りに吊り上がってはいないが
腕を組みはじめてここで
まともに反撃しているジェニを
目を丸くして好奇心旺盛に見つめていた
下から上へじっくり見回す
肩で波うつ明るい茶髪
知性に光った色素の薄い大きな茶色の瞳と
ぽってりと豊かな曲線を描いている唇
すっぴんだがジェニの同僚の美容オタクの藤子に
言わせればヒアルロン酸を打たなくても
これほど上唇がぽってりとした
血色の良い唇をしているのは
日本人では珍しいそうだ
卵型の輪郭は年齢よりも幼く見え
ほっそりとした肢体は手足が長く
肩は華奢でバランスが良い
今朝のジェニはぴったりとした白いTシャツに
グレーのホットパンツから
コンバーズのハイカットの間は
健康的で綺麗な素足が露になっている
そんなきゃしゃで長身の彼女は
どこかなんともいえない雰囲気を醸し出していた
男性の表情はさっきよりもいくばかりか
穏やかになった
「猫なんか見なかったけどな」
「でも確かにいたわ、嘘なんかつかないわ
いずれにしてもご心配はいりません
保険に入ってますので
修理させていただきます 」
肩眉を上げて言った
「あなたのお高そうなお車を!」
「よくぞやってくれたよ
この車は今日納車したばかりなんだぞ!
あそこでハンドルを切らずにブレーキを踏めば
よかったじゃないか」
ジェニはポケットからスマホを取り出し
じれったげに言った
「それで済めばとっくに私もそうしていたわ!
これで無事故割り戻しがなくなったわ
でも被害をこうむったのが生き物ではなくて
よかったわ!
納車したばかりの金属のかけら
だったのがせめてもの救いよ」
「ただの金属の欠片じゃないけどな!
これはジャガーだ!」
そして男性がにやりとした
「君のは金属のかけら
だけどな 」
むっかーとジェニは鼻にシワを寄せた
この男性は顔はハンサムだが心が腐りきっている
謝って弁償するって言ってるのに
何よ!その態度
「いっときますけど!
鈴木君には何の非もありません
確かにボロいけどとっても良く走るし
貴方みたいに少しの傷でケツの穴の小さい事言わないわ!
鈴木君にしたら傷も勲章よ!」
「鈴木君?」
一瞬男性が面白そうに口角を上げた
「君は自分の車に鈴木君と
名前を付けているのか?」
しまった!
自分の言ったことに気づき
ジェニは首の付け根まで真っ赤になった
これも藤子が悪い
最初にジェニの水色のラパンを「鈴木君」と
名付けたのは藤子だからだ
コピーライターの藤子は自分の持ち物
すべてに名前をつける
そんな藤子が納車されたばかりのラパンを見て
「ラパンと言うより鈴木君の方が似合っている」
という鶴の一声で社員が全員ジェニのラパンを
「鈴木君」と
呼ぶようになったのだ
うっかりそれを何の気なしにバラしてしまった
これで完全に「頭のおかしい女」と思われたに違いない
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