78 / 79
抗ったその先に
元パーティーメンバーですか?
しおりを挟む
「紹介します。 こちら、俺たちの師匠のシャロです」
小屋の中はまるで屋敷のように広かった。
外見だけ見れば、確実に人が一人住むのが関の山に見えたが、その内見は旧マナツたちの家と同じような広々とした建築で、外からはどう見ても一回建てなのに二階まで存在していた。
これも魔法の力なのだろうか。
「シャロと申します。テトラたちの友人だそうで。どうぞ、何もないところですが、ゆっくりしていってくださいな」
吹き抜けのガラス天井から注ぐ日光に照らされている女性。
陽に照らされてきらめく金色の髪に整った顔立ちで、白に青いライスストーンが散りばめられた魔法衣に身を包んでいる。
相好は穏やかで、つい見とれてしまう。
不躾にも視線を上下に動かしたマナツはあることに気が付いた。
「シャロさんって、もしかしてエルフですか?」
「おや……? よく気がつきましたね。エルフの最大の特徴とも言える、つり上がった耳は魔法で隠していましたのに」
「なんというか、身にまとう魔力の質が違ったもので……。あと、ありえないくらい綺麗ですし」
「あら、お褒めの世辞、嬉しく受け取っておきますわ。それで、ここへは何用でいらしましたの?」
「あっ、そうだ! テトラさん! ロインさん! シャンディさん! アカメさん! どうか、力を貸してもらえないですか!?」
マナツの思い出したかのような切迫した勢いに先程までの和やかな雰囲気が一変した。
「ちょっ、マナツさん。落ち着いてください。一体、何が?」
マナツはこれまでの出来事を包み隠さず語った。イルコスタが滅んだこと、街の大半の人が犠牲になったこと、そして、氷龍のこと――
「私たちの街が……?」
アカメの半ば信じられないというような呟きにマナツは小さな頷きで返す。
「確かに数日前に強い殺気を感じたっすけど、まさか街が一つ壊滅してたなんて……」
ロインもどうやらまだ事実をしっかりと受け止めきれていないようだ。
テトラとシャンディは無言ながらも一瞬、顔を見合わせた。
「でも、あの街には私の弟子があと五人ほどいたと思いますが、その方達は出払っていたのかしら」
「弟子って……?」
「あぁ、ごめんなさい。冒険者のライズ、イアン、ヤヒロ、コマチ、そしてまだ生きていたはずですが、ロイドという老人です」
「――ッ!」
マナツの表情が歪んだ。その表情を見て、シャロも察したのだろう。静かに目を閉じた。
「そう。あの子達でも止められなかったのね」
「で、でも! 一緒に戦ってくれました! それに私たちを命がけで逃してくれました! イアンさんも、ヤヒロさんも、コマチさんも、ロイドさんも……。最後まで、勇敢でした…………」
「……ライズは、生きているのですね?」
「はい……。私たち四人とロイドさんの弟子であるゼシュさん、そして勇者の一人と一緒にソーサラまで逃げ延びました」
「そう……。彼が生きていただけでも救いだわ」
シャロはガラス天井から覗く透き通った青い空を見上げた。表情はほとんど変わらないものの、どこか悲しげな瞳だ。
しばしの沈黙。
見かねたシャンディが口を開く。
「それで、どうして私たちの場所を訪ねたんだ? さっき助けてくれって言ってたけど、今の話を聞く限りCランクの私たちパーティーではその氷龍にはとてもじゃないけど手も足も出ないと思うんだが」
「……助けてほしいっていうのは、ハルトです」
「ハルト……」
テトラがいち早く呟いた。
「私たちは氷龍と戦って、その強さに、そして何より仲間が命を落としたことによって多大な心傷を追いました。私はまだこうしてなんとか立ち直りましたが、ハルトは特に酷くて……。部屋に引きこもり続けているんです」
「――ッチ! あのバカ……」
「ハルト先輩っては昔から一人で背追い込んじゃいますよね」
「こんな時まで引きこもり体質ですか……私たちがお仕置きをしましょう」
三人は顔を見合わせ、頷いた。そして、無言で腕を組んでいるテトラに視線を送る。
「どうか、お願いします! 私たちは、どうしても氷龍を倒したい! そして、その思いが一番強いのはきっとハルトなんです!」
マナツはテーブルに頭を擦り付ける勢いで頭を下げた。きつく閉じたまぶたの裏には忌々しい氷龍の姿が浮かんでいる。
「ハルト君は、良い仲間を持っているわね。それで、テトラはどうするのかしら。元パーティーメンバーとして、そしてハルト君の友人として――」
シャロが穏やかに微笑む。
全員の視線がテトラに集まる。
テトラはゆっくりと目を開ける。
「よし、俺が一発ぶん殴ってきます――!」
小屋の中はまるで屋敷のように広かった。
外見だけ見れば、確実に人が一人住むのが関の山に見えたが、その内見は旧マナツたちの家と同じような広々とした建築で、外からはどう見ても一回建てなのに二階まで存在していた。
これも魔法の力なのだろうか。
「シャロと申します。テトラたちの友人だそうで。どうぞ、何もないところですが、ゆっくりしていってくださいな」
吹き抜けのガラス天井から注ぐ日光に照らされている女性。
陽に照らされてきらめく金色の髪に整った顔立ちで、白に青いライスストーンが散りばめられた魔法衣に身を包んでいる。
相好は穏やかで、つい見とれてしまう。
不躾にも視線を上下に動かしたマナツはあることに気が付いた。
「シャロさんって、もしかしてエルフですか?」
「おや……? よく気がつきましたね。エルフの最大の特徴とも言える、つり上がった耳は魔法で隠していましたのに」
「なんというか、身にまとう魔力の質が違ったもので……。あと、ありえないくらい綺麗ですし」
「あら、お褒めの世辞、嬉しく受け取っておきますわ。それで、ここへは何用でいらしましたの?」
「あっ、そうだ! テトラさん! ロインさん! シャンディさん! アカメさん! どうか、力を貸してもらえないですか!?」
マナツの思い出したかのような切迫した勢いに先程までの和やかな雰囲気が一変した。
「ちょっ、マナツさん。落ち着いてください。一体、何が?」
マナツはこれまでの出来事を包み隠さず語った。イルコスタが滅んだこと、街の大半の人が犠牲になったこと、そして、氷龍のこと――
「私たちの街が……?」
アカメの半ば信じられないというような呟きにマナツは小さな頷きで返す。
「確かに数日前に強い殺気を感じたっすけど、まさか街が一つ壊滅してたなんて……」
ロインもどうやらまだ事実をしっかりと受け止めきれていないようだ。
テトラとシャンディは無言ながらも一瞬、顔を見合わせた。
「でも、あの街には私の弟子があと五人ほどいたと思いますが、その方達は出払っていたのかしら」
「弟子って……?」
「あぁ、ごめんなさい。冒険者のライズ、イアン、ヤヒロ、コマチ、そしてまだ生きていたはずですが、ロイドという老人です」
「――ッ!」
マナツの表情が歪んだ。その表情を見て、シャロも察したのだろう。静かに目を閉じた。
「そう。あの子達でも止められなかったのね」
「で、でも! 一緒に戦ってくれました! それに私たちを命がけで逃してくれました! イアンさんも、ヤヒロさんも、コマチさんも、ロイドさんも……。最後まで、勇敢でした…………」
「……ライズは、生きているのですね?」
「はい……。私たち四人とロイドさんの弟子であるゼシュさん、そして勇者の一人と一緒にソーサラまで逃げ延びました」
「そう……。彼が生きていただけでも救いだわ」
シャロはガラス天井から覗く透き通った青い空を見上げた。表情はほとんど変わらないものの、どこか悲しげな瞳だ。
しばしの沈黙。
見かねたシャンディが口を開く。
「それで、どうして私たちの場所を訪ねたんだ? さっき助けてくれって言ってたけど、今の話を聞く限りCランクの私たちパーティーではその氷龍にはとてもじゃないけど手も足も出ないと思うんだが」
「……助けてほしいっていうのは、ハルトです」
「ハルト……」
テトラがいち早く呟いた。
「私たちは氷龍と戦って、その強さに、そして何より仲間が命を落としたことによって多大な心傷を追いました。私はまだこうしてなんとか立ち直りましたが、ハルトは特に酷くて……。部屋に引きこもり続けているんです」
「――ッチ! あのバカ……」
「ハルト先輩っては昔から一人で背追い込んじゃいますよね」
「こんな時まで引きこもり体質ですか……私たちがお仕置きをしましょう」
三人は顔を見合わせ、頷いた。そして、無言で腕を組んでいるテトラに視線を送る。
「どうか、お願いします! 私たちは、どうしても氷龍を倒したい! そして、その思いが一番強いのはきっとハルトなんです!」
マナツはテーブルに頭を擦り付ける勢いで頭を下げた。きつく閉じたまぶたの裏には忌々しい氷龍の姿が浮かんでいる。
「ハルト君は、良い仲間を持っているわね。それで、テトラはどうするのかしら。元パーティーメンバーとして、そしてハルト君の友人として――」
シャロが穏やかに微笑む。
全員の視線がテトラに集まる。
テトラはゆっくりと目を開ける。
「よし、俺が一発ぶん殴ってきます――!」
2
お気に入りに追加
1,731
あなたにおすすめの小説

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。

側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。
応援本当に有難うございました。
イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。
書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」
から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。
書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。
WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。
この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。
本当にありがとうございました。
【以下あらすじ】
パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった...
ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから...
第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。
何と!『現在3巻まで書籍化されています』
そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。
応援、本当にありがとうございました!
えっ、じいちゃん昔勇者だったのっ!?〜祖父の遺品整理をしてたら異世界に飛ばされ、行方不明だった父に魔王の心臓を要求されたので逃げる事にした〜
楠ノ木雫
ファンタジー
まだ16歳の奥村留衣は、ずっと一人で育ててくれていた祖父を亡くした。親戚も両親もいないため、一人で遺品整理をしていた時に偶然見つけた腕輪。ふとそれを嵌めてみたら、いきなり違う世界に飛ばされてしまった。
目の前に浮かんでいた、よくあるシステムウィンドウというものに書かれていたものは『勇者の孫』。そう、亡くなった祖父はこの世界の勇者だったのだ。
そして、行方不明だと言われていた両親に会う事に。だが、祖父が以前討伐した魔王の心臓を渡すよう要求されたのでドラゴンを召喚して逃げた!
追われつつも、故郷らしい異世界での楽しい(?)セカンドライフが今始まる!
※他の投稿サイトにも掲載しています。

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい
斑目 ごたく
ファンタジー
「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。
さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。
失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。
彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。
そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。
彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。
そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。
やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。
これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。
火・木・土曜日20:10、定期更新中。
この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜
ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。
その一員であるケイド。
スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。
戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。
それでも彼はこのパーティでやって来ていた。
彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。
ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。
途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。
だが、彼自身が気付いていない能力があった。
ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。
その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。
自分は戦闘もできる。
もう荷物持ちだけではないのだと。
見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。
むしろもう自分を卑下する必要もない。
我慢しなくていいのだ。
ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。
※小説家になろう様でも連載中

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる