パーティー追放された者同士で組んだら、全員魔剣士だったけど割と万能で強かった件

微炭酸

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召喚される者、召喚した者

終幕ですか?

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「さあ、早く行きな。隣街まで全力で駆ければ、朝までには着くさね」

 コマチが西の方角を指差した。

「で、でも。そうしたら、コマチさんたちは……」

 モミジは踏ん切りが付かないようで俯いた。
 そして、モミジの問いにコマチは微笑みだけで答えた。

 また一つ、結界に氷の槍が突き刺さり、破片が飛び散る。
 
「それに、こいつはまだ本気じゃない」

 ずっと黙っていたライズが口を開く。まっすぐに氷龍を見つめている瞳がスッと細くなる。

「だからって、私たちが逃げるのは違うでしょ! まだ……まだ何とかなるわよ……! そうでしょ!? ハルト!」

 悲痛な表情でマナツが助けを求めてくる。しかし、ハルトは声が出なかった。
 これが本気じゃない。その事実をライズが口にしたことにより、ハルトの中では勝算がほぼなくなった。いや、元々勝算などないということに気づかされた。

「わ、私が魔力吸収で動きを止めている間に一斉に攻撃すれば――!」

「飛ばれたら、それまでだ。それにどうやって奴に近づくんだ?」

「で、でも……」

 そして、誰も言葉を発しなくなった。いつの間にか結界を取り巻くように強風が吹き荒れ、ヒビの入った隙間から飄々と音を立てる。
 氷龍は依然としてその場に立ち尽くし、次の槍を撃ちだす準備をしていた。

 全員、固唾を呑んで次の攻撃に備えるしかない。

 何とかならないのか――! 考えろ! 考えろ! 考えるんだ……ッ! 

 ハルトの思考を遮るように激しい粉砕音が鳴り、ついに結界が崩壊した。その瞬間、身が凍り付く風がハルトたちを襲う。
 まるで吹雪の中にいるようで、視界も霧や飛び散る雹によって遮られる。

 もはや、立ち尽くすしかなかった。
 そして、真っ白な視界に一瞬だけ覗いた氷龍の全身を見て、ハルトは完全に

 人類が誇りうる最高火力を叩き込んでようやく剥がした全身の鱗が、きれいさっぱり元通りになっているのだ。ロイドの削り取った片眼さえも、再び青い炎が宿り、鋭い眼光を放っている。

「ははっ……。笑えてくるな、これは」

「この再生能力、非常に興味深いですね。はい。研究対象にぴったりなんですが、そうもいかなそうですね。すみません」

「私より美しいのはいただけないけどねぇ」

 三人の声はもう耳に入っていなかった。
 
 ――怖い。

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いわ怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いッ!

 絶望は、心が折れた瞬間に襲ってきた。震える体に力が入らず、思わず剣をついてしまった。意識をはっきり保つだけで精いっぱいだ。

「ゼシュよ。貴様も一緒に離脱しなさい」

 ロイドの言葉に、ハルトと同じように視線を地面に落としていたゼシュが顔を勢いよくあげる。

「だ、だめです。それは……出来ません!」

「いいから、行きなさい。これは命令じゃ」

「――ッ! …………わ、かりまし、た……」

 しばらく静止していた氷龍が翼を大きく羽ばたかせた。
 体に一層の強風が叩きつけられ、思わずよろける。

 氷龍は遥か高く真上に飛び、街を見下ろす形で宙に浮遊した。ハルトたちに一瞥をくれ、その瞳は街へと移る。

「おら! 今だ! 早く行け!」

 ヤヒロに背中を雑に押され、前につんのめる。

「む、無理です……。やっぱり、俺達も、その、えっと……戦わないと」

「ぼ、僕は残るよ!」

 ユキオがハルトの前に出る。力強く剣を握りしめた拳から、血が滴っている。

「前は、自分と彼女の身を優先してしまった。だから、今回は残りたい……! もう、後悔するのだけは嫌なんだ!」

 力強く言い放ったユキオにヤヒロが無言で近づいていく。

「えっ……?」

 ヤヒロが勢いよくユキオを殴り倒す。ドサッと尻餅をつくユキオ。その表情には驚きが見て取れる。

「俺はよ、嫌な先輩だからな。もっと後悔してもらうぜ。力のねぇ魔剣士が一人増えたって、なんの意味もないんだよ。もちろん、Aランクの冒険者が一人増えたって、全く意味がねえ!」

 コマチがユキオの頭に手を置き、上空にいる氷龍を見つめる。

「けじめは確かに大事さね。でも、無下に命を投げ出すのはけじめとは言わないんだよ。どうせなら、大切なパーティーメンバーに命を捧げな。一つしかない命なんだから、使い道はしっかり選ばなくちゃだめさね」

「私たちのけじめは、あなた方を逃がすだけの時間を稼ぐことです。はい。大丈夫です。あなたたちなら、前に進めますよ」

「そうじゃ、小童どもがこれ以上、世話をかけるでない。これは、ギルドマスター命令じゃ。絶対に生き延びろ。生きて、強くなるのじゃ」

 自然と涙が零れ落ちた。涙はすぐさま風に流されてしまったが、目頭の奥はどんどん熱くなる。

 本当は逃げ出すなんて絶対に嫌だ。でも、もう受け入れている自分がいた。
 口が震え、上手く言葉が発せない。

 氷龍の全身が金色のベールに包まれる。まるで太陽のように温かみを帯びた光が、地上のハルトたちまで届いた。
 光のベールは氷龍の口元に凝縮していき、やがて小さな球体となって落下した。

 天から一滴の雫が街に降り注いだ。

「あぁ…………やめ――」

 
 
 パンッ!



 小さな破裂音。次いで、骨が震える轟音。
 街を囲う外壁が崩れ落ちる。瓦礫が粉々に砕け散る音と木材のへし折れる音が耳を貫く。

 目の前で、街が一つ消滅した。

 形を残した建物は一つとして存在しない。

 残ったのは、無残に飛び散った瓦礫の山と大きなクレーターだけだ。そこに街が存在しているという景色はない。

「行けぇぇぇぇぇぇええッッ!」

 ヤヒロの大声に思わず、背を向けてしまった。そして、それは無意識の決意であった。

「ライズ! ついていけ! 任せた!」

 ライズは氷龍からゆっくりと目を離し、ヤヒロ、コマチ、イアンを一人一人じっくり見つめる。そして、左手に刻まれた勇者の印を突き出す。それに倣い、三人もそれぞれ勇者の印を見せつける。

「長い間、世話になった。また、いつか冒険しよう」

「へっ、最後までクールなままかよ」

「私のこと、忘れるんじゃないよぉ?」

「ライズさん、今までお世話になりました。どうか、ご武運を」

「ギルドマスターも、お世話になりました。後は、お任せください」

「うむ。お前さんなら、何の心配もないじゃろ。損な役回りをさせて悪いのぉ。頼んだぞ、ライズ!」

 ライズは深く頭を下げ、身を翻して駆け出した。

「急げ、遅れずについてこい」

 ハルトは流れ続ける涙を拭うことなくに走り出した。マナツ、ユキオ、モミジ、シェリー、ゼシュも振り返ることなく一心不乱に駆けた。

 止まらない。涙は、ずっと止まらない。

 声にならない嗚咽が漏れた。

 肺は悲鳴を上げ、頭はかち割れそうなほど痛い。

 背後で轟音が響く。
 振り返ると、天を貫く巨大な氷山がそびえたっていた。その頂上で、光のベールを帯びる氷龍が天高く咆哮を上げる。

 おもむろに足を止めた。もう、十分すぎるほど遠い氷龍を睨みつける。

 ハルトは魔法を詠唱した。
 巨大な魔方陣が周囲に展開され、空が唸り声をあげる。まるで、怒りが投影されているようだ。

 ありったけの魔力を注ぎ込み、魔法を解き放つ。
 天から一筋のいかづちが落ち、氷龍の鼻先を掠めて氷山を焦がす。

 氷龍がはっきりと見つめてくるのがわかった。

「これは、けじめだ! いつか、絶対にお前を倒す!」

 ハルトは氷龍に背を向け、再び駆け出した。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

これにて第二章が完結となります。

ご愛読いただき、ありがとうございました。
ひとまず、ハルトたちの冒険はまだまだ続きます。
第三章も投稿予定です。引き続き、ハルトたちをよろしくお願いします。


よろしければコメント・レビュー等いただけますと、モチベーション爆上げにつながるのでぜひよろしくお願いします。

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