パーティー追放された者同士で組んだら、全員魔剣士だったけど割と万能で強かった件

微炭酸

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負け試合ですか?

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「ハルトくん!」

 ロイドの展開する結界魔法の内側から、モミジが身を出して手を伸ばす。
 心臓が張り裂けそうなくらい脈を打つ。ほんの数メートルがとてつもなく遠く感じる。

 油断していたわけではない。
 氷龍はまだ、息を吸い込んだだけなのだ。しかし、魔物が息を大きく吸い込んだ後の行動は、ある種のテンプレートで決まっている。

「いかん! 急げ!」

 ロイドが珍しく声を張り上げる。
 それまでハルトたちと逆方向に吸い寄せられていた冷気が、再び宙をふわふわと漂う。その瞬間、不気味すぎるほどに殺気が消え去った。まるで、後方には何者も存在せず、空気だけがあるような、違和感すら覚えないくらいに氷龍の殺気が綺麗さっぱり消えたのだ。

 ――間に合わない!

 抱えたシェリーを力一杯前方に放り投げる。宙を軽く舞うシェリーと目が合う。随分と驚いた顔をしている。まさか、投げられるとは思っていなかったのだろう。
 モミジがシェリーを結界内でしっかりと受け取る。

「ハルト!」

 マナツの声だろうか。すでに後方から迫り来る轟音のせいで、誰が名を呼んだのか判別がつかない。

 風圧に背中を押されて体が加速する。足元から噴き上げられ、両足が地面から離れた。
 宙で半回転し、視界が氷龍の方向を向く。一面を染める白の盤に、瞳の青い炎のみが浮かび上がっていた。

 とっさに剣を体の前で構え、身をなるべく縮める。もはや、着地のことなど考えてもいなかった。
 
 ――ガキィィーンッ!
 
 凄まじい勢いで剣に氷塊が飛び込み、けたたましい金属音が響いた。そのまま氷塊に押され、盛大に吹き飛ばされてハルトは結界内に侵入した。
 そして、ハルトが結界内に入った次の瞬間、結界の周りの大地が消滅した。正確には無数の氷の弾丸によってえぐられ、月のクレーターのように大きな陥没を生み出した。

 運が良かったとしかいえない。初発で飛んできた弾丸が、たまたま構えていた剣に当たったこと。そして、その反動で身を結界内に滑り込ませれたこと。どちらか一つでも為せていなければ、今頃は全身を氷の弾丸が貫いていただろう。

 周囲の温度は氷点下に達しているだろうに、汗が滴り落ちた。

「ハルトくん! 大丈夫!?」

 モミジが一目散に駆け寄って来る。一瞬だけ、氷龍に目を向け、ハルトの無事を確かめた。

「ああ、全く俺はつくづく運が良いみたいだ」

 両手で後ろ手を着いて息を漏らす。白い息が吐き出された。

「結界魔法が使える者は手伝え! 次の攻撃は、ワシだけでは防げんぞ!」

 ロイドの張り詰めた声が聞こえて来る。

「僕少しだけ使えるから」

「私も使えます。はい」

 ユキオとイアン、それとライズがロイドの元へ向かう。
 残念ながらハルトは即席で使える初歩的な結界魔法しか覚えていないため、後方で体力の温存に務める。

「あの、ハルトさん。ありがとうございました」

 シェリーが駆け寄って来る。まだ膝を少しだけ震わせているが、どうやら大きな怪我はしてないようだ。
 ハルトは安堵の息を漏らし、シェリーの頭に手を置いた。
 一瞬、受け入れたように見えたシェリーは、ハッとしたようにハルトの手から逃れた。

 もしかして、嫌だったのかな……。

 思春期の娘に嫌われる父親の気分が少しわかった気がした。

「そ、そういうのは大切な人にしてあげてください!」

「は? シェリーは大切に決まってるだろ」

「あ、いや、そうではなくてですね……」

 シェリーの視線がモミジに一瞬だけ向いた。
 モミジは少し微笑んで、シェリーを抱き寄せた。

 二人の意思は疎通しているようで、若干の疎外感を味わう。
 
 そんなやり取りをしている最中、常に視界の中央に捉えていた氷龍が再び息を吸い込むのが見えた。かといって、今度は焦る必要はない。不安を感じるのは、結界を張る味方を信頼していないことになる。

 今、ハルトたちにできることは息を整え、次の転機に備えることだ。

 一帯を漂う霧が氷龍に向けて吸い込まれる。

 ロイドの展開する紫色の障壁に継ぎはぎするように結界が張り巡らされ、強化される。即席ながらにも三人の結界魔法が間に合ったようだ。

 そして、氷龍の吸い込みが止まった。一瞬の静寂。

 息を飲む。

 氷龍が首を前に倒し、口をガバッと開いた。

「えっ……?」
 
 次の瞬間には結界に巨大な氷の槍が突き刺さっていた。
 誰も目で追えていなかったようで、全員が驚愕の息を漏らす。

 軌跡など一切見えなかった。口を開いた瞬間、結界の狭間に突然現れたようにしか認識できない。

 氷龍は口を一度閉じ、もう一度開けた。結界に再び氷の槍が突き刺さる。
 同じように氷龍は氷の槍を幾度となく吐き出した。もはや、結界は穴だらけだ。

 全員、何も言わずに近くに固まる。

「危ういかもしれんのう……」

 ロイドが一言漏らす。

「おいおい、あいつレベルが違いすぎねぇか? レベチーだわ、レベチー」

 おちゃらけたことを言うヤヒロの声色も強張っている。
 
 そしてまた一本の槍が突き刺さった。ビキビキと言う不穏な音を立てて、結界に亀裂が入る  。
 一体、あと何発氷龍は槍を吐き出せるのだろうか。結界はこの様子だと、あと数発しか耐えられないだろう。

「ちょ、ちょっと、本当にやばいんじゃないの!?」とマナツ。

「確かに、結界が破壊されれば、見えない速度の攻撃には誰も対処できませんね」

 ゼシュが下唇を噛みながら、手に持つレイピアを眺める。
 ハルトも先ほどからずっと目を凝らしているのだが、全く見えない。見えない攻撃など、どうやって防げと言うのだろうか。

「ロイドのおっさん! 前回は一人でなんとかしたんだから、なんか方法があるんじゃねぇのか?」

「いや、ワシが前回退治した時はこんな攻撃などせんかったわい。おそらく、飽きたのか様子見程度で撤退したのじゃろう」

「んげっ、ってことは何もプラン無しかよ」

 ヤヒロはボリボリと頭をかく。あっけなく諦めたようなそんな感じだろうか。そして、その態度はハルトのパーティーの金髪お嬢様にはカチンときたようで、マナツがぐいっと身を乗り出した。

「ちょ、ちょっとあんたね! 勝手に諦めるんじゃ――」
「しゃーねえ。おい、お前らさっさと逃げろ」

「は…………?」

 ヤヒロの遮った言葉に対し、マナツは言葉を詰める。ハルトもまた、ヤヒロの発言が理解できなかった。

 ヤヒロは体よりも大きな大剣を肩に担ぎ、氷龍を怠惰に眺めた。その瞳に熱は感じない。

「さっさと逃げて、後は俺らに任せろや。全滅しちまったら、誰がこいつにリベンジすんだよ」

「ちょっ! あたしはそういうことを言ったんじゃないわよ!」

「うーるせぇなぁ! 黙って先輩様に頼れや! 後輩!」

「――っ」

 誰も、有無を言わなかった。きっと、感じているのだろう。これは、勝ち目が薄くなった負け試合だと。
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