パーティー追放された者同士で組んだら、全員魔剣士だったけど割と万能で強かった件

微炭酸

文字の大きさ
上 下
72 / 79
召喚される者、召喚した者

冒険者ですか?

しおりを挟む
 数本の矢が大きな螺旋を描き、一つの大矢となって氷龍の鱗を突き破った。貫いたというよりは、破壊したと言ったほうが正しいだろう。
 全長一メートルほどの鱗が砕け散る。
 突き刺さった矢が瞬く間に凍りついて粉々に粉砕した。
 鱗の剥がれ落ちた場所は瞬く間に、透き通った氷の鱗に張り替えられる。

 氷龍は優美な動きでゆっくりと体を左側へと向けた。氷龍が一歩足を動かすたびにその周囲に氷柱が勢いよく衝いて出る。おかげで、奴の足元は小さな氷山の一角が作られていた。

 白銀の鎧を身にまとったライズが、左手に備えた大盾を体の前にどっしりと構え、右手の剣でガンガンとやかましく打ち鳴らした。

 氷龍の視線がライズ一人へと定まった。
 瞬間、背後を取る形になっているハルトでさえ、まるで蛇に睨まれた蛙のごとく一瞬全身が硬直する。ただ、睨んだだけ。それも、ハルトは直接睨まれているわけでもないのに、恐怖で身の制御が取れなくなった。

 氷龍がその強大な二本の腕を地面に叩きつけ、四足歩行のような状態になる。叩きつけられた地面は四方に裂け、上背三メートルはある巨大な衝撃波を発生させた。通過した地面を凍らせながら、衝撃波はライズへとまっすぐに突き進んだ。

「神将の名の下に――バニッシュ!」

 大盾に加護が舞い降り、閃光を帯びる。
 ライズは盾を引いて、勢いよく前に突き出した。迫り来る衝撃波を盾で殴り受ける。瞬間、凄まじい爆音と冷気の帯が辺りに爆散。

 盾に弾かれた衝撃波は氷のつぶてとなり、背後の草原を抉った。まるで、隕石が落ちたように小さなクレーターがいくつも出来上がる。
 正面から受け止めたライズは盾を微塵も凍りつかせることなく、完璧に防ぎきった。

「ウッシャァァァッ! いくぜぇぇぇぇぇ!」

 ライズの横をすり抜けて、ヤヒロが体よりも大きな大剣を肩に担いだまま躍り出た。
 体勢低く凍りついた地面を半ば滑るように加速していき、氷龍の足元に出来上がった氷の山を器用に飛び登っていく。
 
「ひっっっっっさつ! 『大喰バクバク』!」

 なんとも残念なネーミングセンスの技名が叫ばれた瞬間、宙を舞ったヤヒロの大剣が赤く輝く。小柄な体を幾度となく宙で回転させていく。赤い軌跡が徐々に濃くなり、やがてヤヒロの全身を覆い包んだ。
 一つの丸刃となったヤヒロは勢いそのままに、再び二足歩行となった氷龍の右後ろ足を鱗ごと深く抉り取った。

 氷の膜によって再生されるよりも早く、抉り取った傷口に小さな藁人形が放り込まれる。そして次の瞬間、巨大な剣が二本、対になって内側からうどの大木ほどもある巨大な足を貫いた。
 鮮血が飛び散るが、それも宙で凍りついて地面に音を立てて落ちる。

 完璧なチームワークと怒涛の連撃にハルトは思わず目を奪われた。じっくりと彼らの戦いを見ることなど、今まで一度も無かった。思わず自分が立ち止まってしまっていることにすら気づけないくらいに見入っていた。

「い、今のうちにモミジとマナツは魔法詠唱。たぶん、こっちにヘイトは来ないからユキオも魔法詠唱! 急げ!」

 ユキオが一歩下がり、ハルト、ユキオ、シェリー、その後ろをモミジとマナツが平行に並ぶ陣形になる。

 街の正面、氷龍の側面上空が一瞬、キラッと光った。凄まじい勢いで落ちてくるは、まぎれもない人で、輝いたレイピアを目にも留まらぬ速さで刺し出しながら落下していく。
 地面に軽やかに女性が降り立った瞬間、レイピアがより一層強く輝いた。刹那、氷龍の翼や胴体の鱗が縦一直線に砕け散る。

 宙を振りまいたぼんやり光る群青色の鱗が、まるであられのように降り注いだ。
 幻想的なその光景に浸る間もなく、氷龍の鉤爪がゼシュとその後方に位置取るロイドに向けて振り抜かれた。空を切る鉤爪は辺り一帯を包み込む冷気のもやを凝縮させ、無数の刃となって二人に降り注ぐ。

 視界を染める刃の渦を、ロイドとゼシュは危なげなくくぐり抜ける。
 走り抜いたまま詠唱を続けたロイドが魔法を解き放つ。氷龍の上空をどこからともなく木の葉がヒラヒラと舞い出す。ロイドが樫の杖を振り抜いた瞬間、自由に舞っていた木の葉はピタッと止まり、氷龍の顔面へとまるで剣のように一斉に鋭く舵を切った。

 ――ドドドドドッ!

 無数の葉剣が氷龍の右眼に突き刺さり、その青い炎を打ち消した。

「ゴォォォアァァァァ――ッ!」

 氷龍が堪らず唸り声を高らかにあげた。

 それぞれ最高の一撃を開幕にぶち込んだ二組は、既に陣形を整え直し、一様にハルトたちに視線を振った。まるで、次はお前たちの番だと言わんばかりに。

 ハルトは一度、大きく深呼吸をして改めて氷龍に目を向けた。街の時計塔よりも背丈があり、見上げなければいけないほど巨大で、常に発される殺気は今でも気を緩めれば膝をついてしまいそうになるが、それでも不思議と恐くはなかった。
 
「ハルトくん!」

 モミジが名を呼んだ。振り返ると、彼女は自信に満ちた良い表情でこちらを見ていた。見ると、マナツとユキオ、そしてシェリーも同じような表情でハルトの号令を待っているようだった。

 ハルトは一度、大きく頷くと、シェリーを手招きで近寄らせた。

「シェリー、遠慮はいらない。デカいのぶちかますぞ!」

 シェリーはハルトの真意を理解し、大きく頷いた。

「はい!」

 シェリーの手がハルトの手を取る。冷え切った手をじんわりとした温かさが包み込む。

「――魔力吸収!」

 ぐわんと大きく視界が揺らいだ。虚脱感が襲いかかり、魔力が手を介して外へと勢いよく流れ出していく感覚が襲いかかる。しかし、それに負けじと胸の奥底が溶けるほど熱くなり、魔力が沸いて出てくる。

 シェリーはもう片方の手を氷龍へ向けて掲げた。巨大な魔法陣が展開する。

てぇえええええええええええ――ッ!」

 視界を魔法の渦が埋め尽くした。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

処理中です...