パーティー追放された者同士で組んだら、全員魔剣士だったけど割と万能で強かった件

微炭酸

文字の大きさ
上 下
64 / 79
召喚される者、召喚した者

大丈夫ですか?

しおりを挟む
「ハルトさんッ! 早くしないと日が暮れてしまいます!」

 神妙な面持ちで帰ったハルトへのシェリーからの第一声は、まるで今から冒険にでも行きます、とでもいうような発言だった。

 散々、ハルトからかける言葉を模索しつつ帰宅したと言うのに、どうやら彼女は先手を奪い取ってしまったようだ。
 ライズさん……これも予測済みなんでしょうか。

「あ、あの……シェリー?」

「はい、シェリーです。どうかしましたか?」

「いや、その……ちょっとお話を」

 シェリーが素早くハルトの後ろに回り込み、背中をぐいっと押した。

「時間が勿体無いので、歩きながら話しましょう」

 強引に歩かされ、結局話の裾を広げることはできなかった。しかし、今日のシェリーは常に笑顔だ。
 まるで、何かを押さえ込み、無理やり紛らわせているような。

 北門をくぐり抜け、街の外に出る。雑踏は消え、ただただ心地よい風が全身を撫でる。

「うーん! 今日も風が気持ちいいですね、ハルトさん!」

 シェリーは両手を大きく広げ、斜め上にあげて全身で感情を表現した。大げさすぎるほどに。
 下を向いていることに気がつき、慌てて顔を上げる。さっき、言われたばかりなのに、やはり人間はそんなに早くは変われない。環境に順応するには、それ相応の時間が必要だ。

 だから、彼女もまた変われていないのだ。変わろうとしているだけ。そう努力はして、自分の心を騙すけど、実際にはまだ何も変わっていない。

「……シェリー」

 数歩先にいる彼女の動きが止まる。ようやく、話ができる。そう思った矢先、彼女はまたしても繕った。

「きょ、今日はもう遠くまでいけないので、ここら辺で魔法の練習でもしましょう」

「シェリー……」

「魔物がいないのは残念ですが、大丈夫です! 魔力は使えば使うだけ、徐々に伸びていくとユキオさんが言っていました!」

「――シェリーッ!」

 突然、赤毛の少女は振り返った。白い肌に大粒の涙が伝って、彼女の足元にこぼれ落ちる。
 胸が締め付けられて、息苦しい。本当は、今すぐにでもなかったことにしたい。それでも、転機は起こってしまったのだ。

 シェリーは人を殺した。
 不躾な言い方だが、まぎれもない事実だ。

 ライズは、シェリーはハルトよりも強く見えたと、はっきり言いのけた。確かにうじうじとしているハルトよりは、事実を受け止めて振り切ったシェリーの方が強い。
 しかし、ライズは彼女と向き合えとも言った。それがどういう意味を示すのか。今、こうして直面して初めてわかった気がする。

「ごめん……。怖かったよな……。寂しかったよな。…………辛かったよな」

 まだ十五歳。しかも、つい最近までは殺生という行為とは程遠い村娘。事実を受け止め、前に進んだところで、傷は癒えないのだ。
 
 シェリーの嗚咽まじりのすすり泣く声だけが、風に乗ってハルトを染めた。

「シェリーの罪は、俺の罪だ。一人で抱え込むなよ……。俺も、背負うからさ」

「ぞれでも……! わだじの魔法で……うぅ……殺したんです!」

「俺の魔力を使って、だ。シェリーは俺を使って殺したんだ。同罪だろ?」

「でも! ――ッ!」

 思わず、彼女を抱きしめた。小さな体を力一杯、包み込んだ。小刻みに震えているのが伝わる。
 時が止まったように、風がピタリと止む。一瞬で訪れた静寂に互いの心音だけが残った。

「――大丈夫」

 この言葉の真意をハルトは知らない。それでも、自然と口を衝いた言葉はその一言だった。
 赤毛の少女は再び、解き放たれたように痛々しい程の苦痛と安堵を乗せて啼泣する。顔をハルトの胸に押し付け、きつくハルトの服を握りしめて、長い間、泣いて、泣いて、泣きじゃくった。

 その間、ハルトはひたすらにシェリーを抱きしめた。

 両手にすっぽりと収まってしまう少女を抱きしめ、どうしようもなくこの世界が恨めしくなった。それでも、彼女に出会えたことに感謝もした。

 涙が枯れるまで泣き尽くした彼女は、やがて自分から離れた。もう、その瞳に涙は溜まっていない。悲しみも、強がりも見て取れない。そして、ハルトを見上げて素直な笑顔をつくり、反芻するように一言。

「大丈夫!」

 ハルトも自然と笑みが溢れた。

 とんでもなく理不尽で、まるで想像も付かない世界だけど、今は素直にありがとうと言いたい気分だ。

「よしっ! 今日は泣く練習をしたからな。もう、帰ろう」

「明日からはビシバシ行きましょうね!」

「それは、俺のセリフだからね」

「関係ないです! ビシバシ! ビシバシ!」

 ハルトは前を走るシェリーを見て思う。

「運が良いのかもしれないな」

「えっ? なんですか?」

「いやぁ、クールで熱血な先輩の言葉」

 シェリーはキョトンとして、面白おかしそうに笑った。

「それ、どんな先輩ですか?」

「だから、クールなのに熱ーい先輩だよ」

 二人で見合い、同時に吹き出した。
 バレたら、きっと怒られるだろうな。

 二人はまだ陽の高い草原から踵を返し、街に戻るのであった。

 不意に二人の周りをゆらゆらと漂う半透明の蝶が、スーッと彼らを追い抜いて主人の元へと帰還する。
 後日、ハルトがライズに呼び出されることになるのだが、それはまた別のお話。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

えっ、じいちゃん昔勇者だったのっ!?〜祖父の遺品整理をしてたら異世界に飛ばされ、行方不明だった父に魔王の心臓を要求されたので逃げる事にした〜

楠ノ木雫
ファンタジー
 まだ16歳の奥村留衣は、ずっと一人で育ててくれていた祖父を亡くした。親戚も両親もいないため、一人で遺品整理をしていた時に偶然見つけた腕輪。ふとそれを嵌めてみたら、いきなり違う世界に飛ばされてしまった。  目の前に浮かんでいた、よくあるシステムウィンドウというものに書かれていたものは『勇者の孫』。そう、亡くなった祖父はこの世界の勇者だったのだ。  そして、行方不明だと言われていた両親に会う事に。だが、祖父が以前討伐した魔王の心臓を渡すよう要求されたのでドラゴンを召喚して逃げた!  追われつつも、故郷らしい異世界での楽しい(?)セカンドライフが今始まる!  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

処理中です...