パーティー追放された者同士で組んだら、全員魔剣士だったけど割と万能で強かった件

微炭酸

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召喚される者、召喚した者

いつも通りですか?

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 今日は天気が良い。
 まるで、空が、風が、この世界がさっさと外に出て来いとでも呼んでいるようだ。

 窓から差し込む日差しを右半身で受け止めている。ちょうど体の真ん中、いわゆる鼻辺りを起点として陰陽ができる。
 半分光で、半分闇。

 ちょっとカッコよくない?

 右目がちかちかして、肌もチリチリしてきたので隣に席を移す。店主はチラッとこちらを見たが、何も言わない。
 それもそうだ。客はハルトしかいない。ハルトが席を動こうが、何の問題もない。ただ、視界の端で動かれたのが気になったのか、木彫りをする手と体を少しだけ、ハルトから遠ざけるように左に向けた。

 埃っぽい店内、古ぼけた内装、ボロボロのイスとテーブル。外からの音はほとんど聞こえず、ひたすら店主の木を彫るナイフの音が小さく、規則的に響く。
 ハルトは何をするわけでもなく、ただひたすら窓の外を眺めている。窓といっても壁の高い位置にあるので、そこから覗く景色は群青で染められた空だけだ。

 頼んだ珈琲はいつも通り薄い。そして、すっかり冷めきってしまっている。口をつける気にもなれないが、残すのも何だかよくないことだよなと思い、ぐいっと勢いよく煽って飲み干す。
 
 ふと、思うことがある。
 もしかしたら、今日死ぬかもしれないのに、こんなところで時間を費やしてよいのだろうか。
 今日死ぬ? 何を突拍子もないこと言ってるんだ。人に言えば、そう返されるかもしれない。でも、実際冒険者は短命がほとんどだ。……いや、そもそも人間はいつしか絶対に死ぬ。死なないことはありえない。冒険者よりも早くに死ぬ人もたくさんいるし、今日死なないなんて保証は誰にもないのだ。

 不意に左手に刻まれた痣が目に入る。生まれつき、いくら時間が経とうとも消えることがない呪縛。黒や紫などではなく、うっすら光る淡い黄色。十四歳まではただの丸い形をしていたが、今では奇妙な形になり果てている。見かたによっては魔女の帽子に剣が突き刺さっているように見えなくもない。
 
 ――勇者の印。
 
 大層な名前で呼ばれる痣であるが、ハルトからしたらただの自分自身を縛り付ける頑丈な鎖だ。鎖なんてぬるいものではないかもしれない。呪いだ。

 確認されている印の種類は、原形の丸型を除いて十二種類。それぞれの印によって、使える魔法やスキルが違う。厳密には同じ印でも、使える魔法が人によって若干変わってくる。

「そろそろ行こうかなぁ……」

 のっそり、怠惰に席を立つ。もちろん、店主は何も言わない。それに対して、とりたてて腹を立てることもない。いつものことだ。

「……お代、ここに置いておきますね」

 珈琲代をテーブルに置き、店を出る。生ぬるい風が頬を撫でた。最悪の出足だ。太陽はてっぺんを少し越えたくらいで、まだまだ高い位置にある。
 入り組んだ裏路地を慣れた足取りで抜けて大通りに出ると、人が溢れんばかりにいる。

 一か月前、魔物の大群が街を襲ったというのに、街から人はほとんど減っていない。

 ――魔軍侵略。

 今ではそう呼ばれている、一件。ハルトたちが拠点を置くソーサルでは、死者五百九人、負傷者約二千五十人という損害で終幕した。この被害が甚大か、そうでないかと言われれば、実は他の街に比べると、そうでもない。

 魔軍侵略は他の街でも起きていた。ライズさんたちが出向いていたイルコスタでは、死者七百人。さらにイルコスタのちょうど真東に存在するエイレーンでは、死者千四百人。この他にも人間が多く集う場所に魔物の大群は押し寄せた。

 被害は少なかった。それでも、一番絶望を突き付けられたのは間違いなくソーサルであろう。天より現れた氷の龍。他の魔物とは別次元の存在。あれは、人という種族の敵う相手ではない。

 魔軍侵略以後は、ソーサルに関しては平和なものだった。時折、街の外でCランクの魔物が出現するくらいで、それ以外は特に何も起きていない。ライズさんたちが長期クエストとして滞在しているイルコスタは、今でも数日に一回、Bランク程度の魔物が街を襲うらしい。

 雑踏をかき分け、街の北門へ向かう。
 集合時間にはまだ余裕があるはずだったが、既に待ち人は三人とも集まり、門の横で談話を広げていた。

「みんな、早いな……」

 背を向けていた、金髪のロングヘア―が特徴的な少女が振り向く。整った顔立ちで、一見するとどこかの貴族の令嬢を思わせる容姿だが、性格はなかなかの男勝りだ。

「おっそーい! おそい! おそい!」

 マナツは眉間にしわを寄せて、いつも通り頬を栗鼠みたいに膨らます。

「まだ、時間より少しだけ早い……と思う」

 特徴的な語尾を付ける少女はモミジ。肩にかからない程度のディアムヘアーで、前髪は目を隠すように長い。思えば、出会った頃よりもかなり伸びているようだ。伸ばしていると言ったほうがいいのかもしれない。特徴的な薄桃色が陽光に照らされて透き通る。

「そうだね。僕たちが早すぎただけだよ」

 大柄な男性はユキオ。細目ではあるが、どこか優しさを感じる瞳とずんぐりした巨体が、緩いオーラを醸し出している。ちなみに彼女持ち。うらやま――おっと、私情を挟んでしまった。

「それじゃ、ちょっと早いけど行こうか」
 
 ハルトはあくびを噛み殺して、のっそりと門を出た。外壁で囲われた草原が視界を埋め尽くし、心なしか、風が冷たく感じた。

 予約していた馬主の元へと向かい、ディザスターへの旅路を切る。ちなみに今回の馬主は以前、デッドフロッグに襲われたときに助けた人で、それ以降やけに気に入られてしまい、結構割引してくれる馬主だ。助けたというか、自衛が主の目的だったわけだけども……。

 馬車で揺られること四時間。空が夕焼けに包まれたころ、目的のディザスターに到着した。

「うっひゃー。ここがトロット荒野かー!」

 マナツが馬車を降りるなり、駆け出した。既にディザスター内であるため、止めようと思ったが、その必要もなさそうだ。
 トロット荒野は、視界を遮る草木が一切なく、一面の赤土だ。所々、むき出しになった岩がゴツゴツと存在する以外、本当に何もない。ディザスターの境界も曖昧だ。
 それでも、ある一定の場所を魔物は超えない。まるで見えない檻があるようだ。

 ハルトは周囲を見回すが、魔物の存在は見受けられない。

「本当に、何もないね……」

「僕はてっきり、山みたいになってると思ったけど、ずいぶんと平坦だねぇ」

 二人の発言にまとめて一つの頷きで返答する。

 ハルトは依頼用紙を今一度、確認する。

「……ワイバーンの瞳」

 今回の依頼の条件はただ一つ。Bランク魔物のワイバーンの瞳の納品。傷がついていない純正な品が厳守のようだ。

「ワイバーンの瞳なんて、何に使うんだろうね」

「それは俺たちが考えてもしょうがない。それより、今日はもう暗くなるから野営を組んでしまおう。ワイバーンは早朝に活発に活動するから、早めに体を休めないと」

 普段であればワイバーンの瞳の納品依頼など、あるはずがない。しかし、最近は訳の分からない内容の納品依頼がやけに増えている。
 ハーピィ-のかぎづめ。ホワイトウルフの牙。雷獣の毛皮。どの素材もこれまで必要とされてこなかったものだ。

 納品系の依頼はたいてい、何かの薬に必要とされる素材が主だ。しかし、最近では薬に使用できなそうな素材を求める依頼が多く張り出されている。
 これは何を意味しているのだろうか。

 まぁ、どれだけ考えたところで、一端の冒険者であるハルトたちには知る由もない。別に知りたいとも思わないわけだし、深く考えないことにしよう。

 野営を組み、軽い作戦会議と夕食を並行して行い、早いうちに睡眠をとることにした。

 その日の夜、少しだけ雨が降った。
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