パーティー追放された者同士で組んだら、全員魔剣士だったけど割と万能で強かった件

微炭酸

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例えどんな理不尽な世界だとしても

星をつかみたいですか?

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 思わずため息をついた。目の前で岩のごとく堅い意志で動くことを拒否しているユキオに聞こえただろうか。聞こえて、バツが悪くなって、顔をあげてくれたら幾分状況は変わるかもしれない。

「あの……ユキオ? そろそろ顔上げない?」

 かれこれ三十分ほどだろうか。ユキオはハルト、モミジ、マナツの目の前でひたすらに頭を地面にこすりつけていた。
 彼の口から出てくる言葉は謝罪の一点張りだ。

「本当にごめん! あの……大通りで怪我した彼女を見かけて、それで僕、完全に我を忘れちゃって……みんなが大変だったのに、見捨てるみたいなことして、本当にごめん!」

「うん、あのね、それもう何回も聞いたから。いや、怒ってないよ? まじで。むしろめちゃくちゃ心配してたし……」

「私たちだって、別に怪我とかしてないし……。そんなに謝らなくてもいい……と思う」

「そうだよ。むしろ彼女さんを護れてよかったじゃん! もし、私が今日みたいな状況で彼氏に護られたら、より一層惚れる自信あるよ! 彼氏いないけど!」

 励ましで言ったのか分からないが、自分で言っておいて半べそかいてるのは若干滑稽だ。

 ようやく、ユキオが顔をあげた。地面に押し付けすぎたせいで、額が赤くなっている。
 マナツがここだ、と言わんばかりに喋り続けた。

「ほら、ハルトだって彼女のモミジと私のどちらか一人しか助けられないってなったら、迷わずモミジを助けるでしょ!? そういうことだよ!」

「ちょっ! ちょ、ちょっ! 私別に彼女なんかじゃない……!」

「うーるさいわね! 今はそういうことにしといて! で、モミジを助けるでしょ、ハルト!」

「いや、自分を犠牲にして二人とも助けるに決まってるじゃん」

「ジーザスッッッ! イケメンかよ! でも、今はそうじゃないの! 空気読め!」

「ほんっとにごめん! 僕なんてパーティーメンバー失格だ……」

 ユキオが再び顔を隠してしまった。なんかまずいこと言ったか? いや、ってかもう、めんどくせ。

「ごめん! ごめん! ごめん!」

「……あの、ほんとに彼女じゃ……」

「なるほど……モミジはこうやって落とされたのね。納得だわ……」

 カオスだ……。傍から見たら茶番にしか見えない。実際、これはもう茶番だろ。

「正直、今回に関しては全員そろっていたとしても、ギルドマスターに助けられるっていう結果は変わらなかったと思うから、ほんとにもういいって。ほら、外真っ暗だし、家の中入って飯にしようぜ」

「そうよ。じゃ、ユキオは罰として夕飯つくってね」

「私は、今度なんかあったときに相談に乗ってもらえれば……ってくらいかな」

 暗くてよくわからないが、顔をあげたユキオは目を潤ませているように思えた。
 何はともあれ、全員無事でよかった。

 もちろん、今日みたいなイレギュラーが起きることも、今後は懸念しなければいけない。氷龍に関しても追い返した程度で、討つまではいかなかったらしい。それでも、今日は一日を乗り切ったことに祝杯を挙げたい。

 マナツの希望通り、ユキオが夕食をつくり、久しく四人とも酒につぶれるまで騒いだ。張り巡らされた緊張の糸が解けた反動もあり、だれも制御が利かなかった。
 いつの間にか浅い眠りについていたハルトは、頬に当たる堅い木の感触で目覚める。うっかり卓で寝落ちしていたようだ。どれくらい意識を落としていたのか分からないが、やけに体中が痛い。完全に筋肉痛だ。

 体を起こし、大きく伸びをする。まだ酒が残っているのか、少しだけクラっとした。
 ユキオは同じように卓に顔を押し付けて、マナツとモミジは部屋の隅にあるソファーで互いにもたれかかるようにして眠りに落ちている。

 このままもう一回眠りに落ちるということは、まぁ無理だ。
 極力音を立てないように庭に出る。芝生で横になり、すっかり澄み渡った空を見上げる。星屑がまるで研がれた銀刃のように輝きを放っていた。雲が取り払われたおかげなのか、いつもよりも幾分近く感じ、思わず手を伸ばした。

「長かったなぁ……」

 たった一日の出来事で、多くの現実を突きつけられた。それと同時に、多くの経験と糧を得た。あまりにも濃い、濃すぎる一日だった。できることなら、しばらくは今日みたいな、いや、もう日付もかわっているだろう――昨日みたいな日は来なくてもいいかな。

 でも、もし再びあの龍が目の前に現れたら、今度は立ち向かうことができるだろうか。
 おそらく、今のままでは十中八九無理だ。

「もっと、強くならなくちゃ……」

 星をつかもうとして伸ばした手で空気を握りしめた。開く。指の隙間から星が覗く。あの龍に立ち向かうということは、この手で天高い星をつかみ取るようなものだ。
 現実的には不可能な話。まさしく次元が違うというやつだ。

 しかし、ギルドマスターは手段はいざ知らず、実際に氷龍に単身で立ち向かい、生きて戻った。倒せなくとも、街を災害から救ったのだ。

 ほんと、デッドリーパーを倒して浮かれていた。そう思っていなくても、意識のさらに奥の深層心理ってやつ? では、浮かれていたんだと思う。でも、デッドリーパーが一だとしたら、氷龍は百かそれ以上だ。

「あー……星をつかむような話だ」

 たとえ星がつかめなくても、星に近づく努力はしなくちゃいけないと思う。だって、星は向こうから寄り添ってはくれないのだから。
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