パーティー追放された者同士で組んだら、全員魔剣士だったけど割と万能で強かった件

微炭酸

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例えどんな理不尽な世界だとしても

終わりましたか?

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 北の空がぼんやり輝いた。夜だと言うのに、まるで朝焼けのような明るさを放っている。目を凝らさなければわからないほどの遥か遠くの空だが、明らかに普通の現象ではないことは確かだ。

「ふぃー、もうクッタクタだ」

 ヤヒロが部屋に一つのベッドに思い切りダイブした。窓の外を眺めていたライズは部屋の中へと向き直り、疲弊した三人に目を向ける。

「それにしても、今回の魔物の群は何だったのでしょうか……」

 イアンが何やら怪しげな薬品の入ったビンを左右に軽く揺すりながら言った。

「魔物の群は二回に渡って街を襲い、それ以降は、特に何も起きていないね」

 コマチは自慢の銀弓の手入れを念入りにしながら続けた。

「現れた魔物はDランクまでが最高。この程度なら、私たちはいらなかった気もするけどねぇ」

「今回の件はイレギュラーで、クエスト内容には含まれていない。明日からはまた日に数度、高ランクの魔物が現れるだろうな」

「あーあ! ボランティアかよ! こんなに疲れたってーのによ。臨時報酬くらいもらわないとやってらんねーよなぁ」

 イレギュラー。この件に関しては、この街だけの出来事なのだろうか。もしかしたら、別のところでも同じように魔物の群が出現しているかもしれない。
 今一度、窓の外に目を向け直す。
 豆粒くらいの遥か果ての空。暗闇の絨毯にぼんやりと浮き出す光。自然的ではないのは明らかであるが、その光の正体に心当たりはなかった。
 
 距離や正確な位置が定かではないため何とも言えないが、この街のずっと北には数日前までライズたちのいたイルコスタがある。
 悪い予感とまでは言わないが、胸のざわめきがしばらく止まずにいた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ロイドが壁の向こうに姿を消してから、どれくらいが経過しただろうか。決して短くはなかったと思う。
 紫色の壁が徐々に色あせていき、最後は透明になって消え去った。手をかざして見ると、そこに物質と思わしき存在はなく、空気を撫でただけであった。

 壁があったであろう場所の向こう側には、ひとりの老人が立っていた。まっすぐに天空を見つめている。悠然と立っているが、右腕からは血が滴っており、その足元には真っ二つに折れた樫の杖が転がっていた。

 ゼシュがいち早く動き出し、すぐさま老人の元へと足早に駆け寄る。

「――ロイド様! ご無事ですか」

 ロイドは動かない。寸分のブレもない立ち姿はとても大きく、そして威圧を放っていた。

「……問題ない。龍は逃してしまったがな……」
 
 俄かに信じ難い話だ。あの氷龍を退けた? 一体、どんな手段を用いて逃したというのだろうか。
 周りを見渡すと、誰一人としてその事実を受け止められないと言ったようにぽかんとしている。

「なんじゃ。お主ら、生きれたんじゃぞ? ほれ、命があることを喜ばんか! わしらの勝利じゃ」

 なぜか、胸の奥底がじんわりと暖かくなった。そして、不意に全身から力が抜けた。

「助かった……? 助かった……! うおぉぉ助かったぞぉぉお!」

 誰かが凱旋の雄叫びを挙げた。すると、すぐさま拡散するようにみんなが騒ぎ始めた。それはもう、まるで祭りのような賑やかさで、耳をすませると、街の中からも騒ぎ声が聞こえてきた。

「あぁー……よかったぁ……」

 すぐ横でマナツが地面に座り込む。モミジも同じように安堵の表情を浮かべている。
 ハルトだけは、いまいち状況が飲み込めていなかった。

 ロイドが去り際、ハルトの肩に軽く手を置いた。防具の上からでもわかる、優しく、温かみのある手だった。
 不意に、泣きそうになってしまった。唇を強く噛み、なんとか堪えた。その瞬間、感情の波が押し寄せた。
 
 昼間から一秒たりとも緩めることのなかった神経がやけに過敏となっているようで、何だかよくわからなかった。嬉しさ、安堵、不甲斐なさ、解放感。色々な感情が混ざり合って、たぶん変な顔になっていたと思う。

 それでも、いまだに胸に引っかかることがある。

「ユキオ……大丈夫かな?」

 マナツとモミジは互いに見合い、揃って街の方も振り返った。
 結局、ユキオが南門に来ることはなかった。最後に見た姿は中央広場で血相を変えているところだ。確実に何かあったに違いない。
 
 お前がいなかったせいで危なかったんだぞ。とか、なんで来なかったんだよ。そんな子供みたいなことを言うつもりはない。ただただ、ユキオが心配だ。人助けに手間を食われすぎて、動けなかったのであれば全然良い。ただ、途中で魔物にやられていたら……?

 人間はとてつもなく脆い。たとえAランクの冒険者だろうが、油断すればゴブリンの一撃で死に至ることもある。戦えば戦うほど、命が増えるわけではない。もちろん、技術や使える魔法、力などは経験として蓄積していく。しかし、体はいつでも一つであり、命は鍛えることができない。

「でも、大丈夫だよ。あいつなら……。きっと、戦えない人を助けてるだけだって」

 微妙な雰囲気になってしまったまま、その日は家に帰ることにした。途中、見知らぬ冒険者の団体に祝賀会に誘われたが、さも当たり前のように断った。

 家の目の前、暗闇に包まれた路地にひとりの男性が立っていた、正確には立っているシルエットがぼんやりと見えた。
 ずんぐりとした体型ということしかわからないが、ひどく肩が落ちていることが遠目からでも察せた。

「……ユキオ?」

 マナツとモミジも気が付いたようだ。シルエットはハルトに名を呼ばれると、ハッと顔をあげるようなモーションを取り、ものすごい勢いで駆け寄ってきた。

 そして、顔が見えるくらいの位置まで走って来ると、ユキオはやけに真剣な面持ちであることがわかった。

「よかったー。ユキオ無事じゃん!」

「ほんと、よかったと思う……。うん、よかった……」

 ホッと胸をなでおろすマナツとモミジ。ハルトも軽く息を吐き、体の力がスッと抜ける感覚を味わった。
 
 しかし、眼前の大柄な彼は突然、勢いよく膝を付いて土下座をしたのであった。
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