パーティー追放された者同士で組んだら、全員魔剣士だったけど割と万能で強かった件

微炭酸

文字の大きさ
上 下
40 / 79
例えどんな理不尽な世界だとしても

生きたいですか?

しおりを挟む
 ハルトは心の中でぼやき続ける。あーやだやだ。もう帰りたいとか、早く帰ってくれません魔物さん? とか。
 たぶん、ほとんど逃げ回っていたような気もする。なんせ、相手が強すぎるのだ。そうは言ってもCランクの魔物なので、Bランクの冒険者ならば優に倒すであろう。

 でも、しょうがないじゃないですか。魔剣士ですよ? 前張りも中途半端で、魔法も長い時間詠唱しようが、魔導師の三分の一も威力が出ない。下手に戦って三人のうち誰かが負傷しようものならば、たぶん口だけの「帰りたい」が本当に実現してしまいそうだ。
 そんなわけで、ハルトたちは押し寄せる魔物の群の中から、Dランクの魔物を探し出して、隅っこの方で先輩方に迷惑にならないように微力ながら健闘している。……はずだ。

 ハルトたちの他にも、同じようなことをしているパーティーはあった。例えば、マナツの元パーティー。先ほどは助けてもらった身ではあるが、やはりDランクのパーティーということで、Cランクの魔物には歯が立たないようだ。数少ないDランクの魔物を取り囲んでいた。

 彼は恒例のようにちゃらんぽらんすぎるテンションで声をかけて来たが、マナツはガン無視を貫いた。どんまいスミノ。

 体長二メートルはあるかという巨大な蜥蜴とかげのような魔物に終止符を打ち、上がった息を整える。周りを見渡すと、至る所で魔物と戦い合っている冒険者が、おそらく百名以上いた。
 今もなお、増援は増え続けているが、やはり大半はDランク以下の冒険者たちだ。彼らはパーティーの垣根を超えて、二パーティー、時には三パーティーでCランク以上の魔物と奮闘していた。

 では、ハルトたちもそうすればいいのでは? それがおいそれといかないのが、魔剣士という職業だ。今回の件で、改めて認識した。魔剣士は嫌われている。街で助けに入れば、微妙そうな顔をし、街の外で共闘を申し込めば、緊急時でも断られる。

 魔剣士は強くない。

 今の大蜥蜴戦でも、痛切に感じた。前線は脆く、後線は火力がなさすぎて役目を果たせない。他の職業であれば、どんなに楽に倒せたことだろうか。

 それでも、弱くはない。少なくとも魔剣士本人がいうのだから、そうなのだろう。強くないだけで、弱くはないんです。だから一緒に戦ってください。などと首を垂れたところで、断られるのは目に見えてる。
 なんて孤独すぎる職業なのだろうか。

 本当は断った連中の目の前で、魔物をバッタバッタなぎ倒して唖然とさせたいところではある。しかし、依然真の力は目覚めそうにない。

 前方から、エコーイノセントが迫って来た。巨大な鎌を持ったカマキリだ。カマキリといっても、その体長は先ほどの大蜥蜴よりも、さらに大きい。巨大すぎて、鎌でひと撫でされただけで体が真っ二つになることは容易に想像できた。

 ハルトは急いで二人に退却の指示を出す。情けないとため息をつきたくなるが、リーダーとして仲間を危地に晒すことはできない。戦場は例外なく危地ではあるが、それでも気を抜かなければ、そう危なくないところも存在するわけで、ハルトたちはそういったところにつけ込むしかない。

「どけ、うすのろ!」

 尻尾巻いて逃げおおせていると、屈強な冒険者がハルトを押しのけてエコーイノセントに体ごと飛び込んだ。手に持った大きな斧で、カマキリの胸元を一閃。浅く見えた。もちろん、彼はそれで終わりでなく、落下しながら猛然と斧を振り回して、浅い斬撃を重ねた。

 追随して彼の仲間と思しき冒険者三人が、ハルトとすれ違う。
 
 そうだ。これでいい。見栄を張っても、死んでしまえばそれまでだ。それなら、とことん逃げて、何としても生き延びてやる。今更逃げ回っている魔剣士を見て、評価がさらに下がることはない。あぁー、見返してやりてー。

 マナツとモミジはハルトのいうことをすんなりと聞き入れる。マナツは逃げることに反対するかと思ったが、どうやら彼女もまたのようだ。何がとは言わないが、自覚があるのだろう。

 本当にどこにいるんだよ、ユキオ……。

 気がつくと、門のすぐそばまで撤退していた。前線で冒険者たちが奮闘しているため、門の近くにはほとんど魔物の姿がなかった。もちろん、いることはいるが、その魔物も既に他の冒険者たちが渡り合っている。

「これでいい……」

 あえて、口に出した。そうすることで、罪悪感を紛らわせることができる。

「ちょっと! ハルト……!」

 マナツに呼びかけられ、彼女を見る。何やらハルトではない方向を指差しているようだ。指の先をたどるように見ると、ちょうど視界にそれが収まった瞬間、首ごと食べられた。食いちぎったという表現が正しいかもしれない。
 ライオンと獅子を混ぜたような頭部に、毒々しい紫色をした蛇の尾。うわ背は二メートルほどで、まるで筋肉の塊のような引き締まった四肢は血で真っ赤に染まっている。

「バジリスク……」

 相手が思い出深いバジリスクであることなど実はどうでもよくて、マナツが伝えたい真理はハルトにも直感で伝わった。

 バジリスクと対面していた冒険者のパーティーは、一人がやられたことで、まるで緊張の糸が切れたように猛然と声にならない悲鳴をあげて逃げ惑った。そうなると、バジリスクの次の標的は一番近くにいたハルトたちだ。
 巨大な身体をのらりくらり悠然と草原を撫でるように進む。まるで肉食獣が草食獣相手に悦に浸りながらじわじわ追い詰めているようだ。実際、間違っていない気もする。

 この後ろは南門で、そのさらに後ろは街中だ。戦えない民が多くいる。いわば、ハルトたちが最終防衛線。知らず知らずのうちに、重大なポジションに身を置いてしまったのかもしれない。

 なんにせよ、数少ない手段の中から逃げるという大事な一手が失われた。流石にここで、はい無理です、どうぞ街に入ってくださいなんてことは言えない。言えるわけがない。

 まだ距離はある。とはいえ、いつ飛びかかってくるのかわからない。それでもあえて、一度大きく深呼吸をした。体の震えが幾分マシになった。少なくとも、動けずにやられるということはないだろう。

「前線は俺とマナツ。モミジは後方から魔法詠唱。できればジャミング系。とにかく、時間を稼ごう」

「お、おーけー……!」

「わかりました!」

 二人の返事を聞くなり、ハルトは意を決して、地を蹴り上げた。剣を下段後方に構え、勢いをつけて横薙ぎ払い。バジリスクは獰猛な前足で剣を受け止め、同時によだれの滴る巨大なライオンの口をガバッと開き、ハルトを食い殺そうと迫った。
 剣はがっちりホールドされ、迫り来るギロチンを回避する術はハルトにはない。ハルトの頭上が一瞬、光ったように見えた。いや、正確には目にも止まらない速さで振り抜かれた剣の残像だ。

 マナツのスキルだろう。切りつけられたバジリスクの口元が、ぱっくりと裂けて鮮血が溢れ出た。髪の先が血の滝に打たれる。

 瞬間、剣をホールドする力が弱まった。その隙を逃さず、剣を強引に引き抜き、そのままハルトも顔面を斬り裂いた。浅くだろうと、同じ場所を斬り裂けば、無傷の場所を攻撃するよりは効果的なはずだ。

 バジリスクは身をそらしはしたものの、すぐさま前足を振り抜いた。両手で剣を構え、がっちりとガード……したつもりであったが、あまりの衝撃に数歩、横によろける。まるでハンマーで勢いよく殴ってきたような、凄まじい衝撃だった。
 既に二度、死にかけた。たぶん、これが幾度も続く。というか、終わらせられるのだろうか。終わらされるかもしれない。むしろ、そっちの方が高確率だ。

「やぁあーッ!」

 マナツががら空きの横っ腹に突きを見舞った。入る、と思ったのは杞憂で、マナツの剣は毒々しい蛇によってあしらわれる。
 まるで二頭の魔物を相手にしているようだ。大ぶりで力に任せてなぎ倒す前方の魔物と、鋭敏な動きと毒による異常状態で撹乱する後方の魔物。明らかに厄介だ。

 バジリスクはCランク魔物ではあるが、別名は“Cランク殺し”と呼ばれているらしい。Cランクになりたての冒険者では、絶対的に勝てないことから、そう呼ばれているようだ。実際、Bランクのハーピィーの方が楽なのでは? と思うこともなくはない。

 モミジが黒いもやのような魔法を発動した。靄はバジリスクにまとわりつき、形状を鋭い槍のように幾重に変化させ、強靭な皮膚を貫いた。どうやら炎や氷よりかは、靄の方が地味ではあるが効くらしい。
 モミジはバジリスクを素の力でやりあったことがあるのだろうか。でなければ、モミジが靄の魔法を使うなど、珍しいことだ。

 ならばいっそのこと指揮権をモミジに丸投げしてしまいたいが、もちろんそんなことできるわけもなく、ハルトは声を張り上げた。

「――チェンジ!」

 マナツとモミジが瞬時に駆け出し、すれ違いざまにポジションを入れ替える。

 そうだ、これでいい。耐えることはできる……はずだ。いつも通りの作戦で、それでいて、いつも通りに力任せに押し切らない。今は力がない。押せないなら、受け止める。それだけだ。

 いつの間にか、悲観することをやめていた。
 
 戦わなければ、生きられない。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

家の全仕事を請け負っていた私ですが「無能はいらない!」と追放されました。

水垣するめ
恋愛
主人公のミア・スコットは幼い頃から家の仕事をさせられていた。 兄と妹が優秀すぎたため、ミアは「無能」とレッテルが貼られていた。 しかし幼い頃から仕事を行ってきたミアは仕事の腕が鍛えられ、とても優秀になっていた。 それは公爵家の仕事を一人で回せるくらいに。 だが最初からミアを見下している両親や兄と妹はそれには気づかない。 そしてある日、とうとうミアを家から追い出してしまう。 自由になったミアは人生を謳歌し始める。 それと対象的に、ミアを追放したスコット家は仕事が回らなくなり没落していく……。

処理中です...