パーティー追放された者同士で組んだら、全員魔剣士だったけど割と万能で強かった件

微炭酸

文字の大きさ
上 下
29 / 79
例えどんな理不尽な世界だとしても

経験ですか?

しおりを挟む
「きたぁー! 久しぶりのクエスト!」

 マナツは腕を大きく広げ、広大すぎるディザスターを囲みたいのか、腕で何度も円をつくるように空気を抱きしめている。中々に猟奇的だなと思う。

 ディザスターの調査が終わり、冒険者が通常通りクエストを受けられるようになってから程なくして、俺たちはクエストに出ていた。とはいっても、当たり前のようにランクはDのままで、受けたクエストもDランク魔物八体討伐という、パーティーバフが無くても何とかなってしまうクエストだった。

 自惚れるつもりはないが、今回は色々とギルドに貸しを作った手前、ランクも一つばかし上がっているかな、と淡い期待をしたが、物の見事に裏切られた。

 しかし、今回のクエストは最低でも三日を要する。如何せん、こぞってクエストを奪い合うので、残ったクエストは街から遠いディザスターのものしかなかった。
 油断ではないが、気を楽に色々と楽しみたいと思う。というのも、今回の行き先は『エルフの大森林』。本当にエルフがいるわけではないのだが、まるでエルフが住んでいそうなくらい綺麗な森という意味合いから名付けられている。
 大きな湖が森の中にいくつもあり、生息する魔物もある程度の強さのものしかいないため、しばしば疲れ切った熟練冒険者などは鈍らない程度に休暇を謳歌しようと、このエルフの大森林に足を運ぶようだ。

 しかし、何かと色々な問題が起きている最中のディザスターだ。もちろん、最大限に警戒するに越したことはない。無論、三人もそれはわかっているようで、惚けているマナツでさえ、周囲への警戒を怠ることはない。

「馬車で揺られること十二時間、よくそんなに元気だな……」

 日の出る前に出発したというのに、既に辺りは淡く橙色である。暗躍の森のように木々が密集しているわけではないため、十分に空が見える。等間隔に生えた大きな樹木の葉は、見たこともない翡翠色で、ガラスのように透き通っていた。透き通る葉は太陽の光を乱反射させ、まるで星屑のように森一面できらめいている。思わず、「すごっ……」と言葉が漏れる。
 何より、ディザスター特有の息苦しさを全く感じない。魔物臭さというものが無く、空気が澄みわたっている。辺境の地にあるため、わざわざ足を運ぶ冒険者も少ない。

「あの、とりあえず今日の寝床を確保した方がいい……と思う」

「そうだね。僕、一度来たことあるからいい湖の辺り案内できるよ」

「そんじゃ、とりあえずユキオ先導で。ほら、マナツいくぞ」

 一応、というか当たり前に剣を引き抜く。どれだけ心地よい場所でも、魔物が出現する区域だ。冒険者は一瞬の油断で命を落とす。警戒に警戒を重ねることは悪いことではない。

 ユキオの案内で十分ほど森を進むと、大きな湖が見えて来た。

「うわーっ! すっっっごーい!」

 驚いたことに真っ先に声を挙げたのはマナツ……ではなくモミジだった。普段あまり感情を積極的に表に出すタイプではないモミジが、思わず声を張り上げた気持ちはよくわかる。
 透明すぎるほどに透き通った水の中を、縦横無尽に駆け回る色とりどりの魚。一言で表現するのならば幻想的だった。

「なるほど、これは来た甲斐があるな」

「僕も始めて来た時は思わず声が漏れちゃったよ」

 その場に腰を降ろしたい気持ちを堪え、ひとまず水際にテントを張る。女性陣はテントを張っている最中でも、チラチラと湖に目を向けていた。男性のハルトが見入るくらいだ。女性にはさぞ美しく映っていることだろう。

「よっし、それじゃあ目標の『トドラガロウ』は明日巣の場所を探すとして、今日は日も落ちる寸前だし、解散で」

 すっかりリーダーくさくなってしまった。ギルドマスターの前で不本意ながらもリーダー宣言をしてしまって以来、流れではあるがハルトがリーダーとして、諸々の指揮を取っていた。テトラのパーティーの時も司令塔のような役割をしていたので、別に違和感はないが、なんか、こう、ちょっと恥ずかしい。

 解散、とはいったが基本的にはディザスター内は四人一緒に行動する。絶対に一人にはならない。これはディザスター内での冒険者たちの暗黙の了解だ。

「それじゃ、男子はそこらへんふらついて来て」

「はい?」

「いいから」

「うん?」

「汗掻いたの。わかれにぶちん」

「あ、あぁ。へいへい……」

 なんか、たわいもない会話だけど、いいなこういうの。

 男嫌いのマナツもすっかり慣れてくれた。慣れたとはいえ、やはり男に抵抗があるようですぐ悪態付かれることもしばしばあるが、一応は仲間として認めてくれているっぽい。
 ユキオと一時拠点を離れる。

「ふらついて来てっていわれてもなぁ」

「あんまり離れるわけにもいかないよね。パーティーバフの範囲とかよくわかってないし」

「今度、ちゃんと範囲の調査もしないとなぁ。めんどくせ」

 ついで、ということで夜営用の薪を拾い集め、それでもたぶん時間的にはまだまだ暇なので、拠点からあまり離れない位置に腰を下ろす。

 しばし、無言。沈黙。たぶん同じこと考えてる。

「いや、何が楽しくて男二人でこんなメルヘンチックな場所で佇んでんの!」

「ハルトが女役すれば問題ない。ハルト、細いし」

「そういう問題じゃ無くない?」

「じゃあ、あとでモミジと来なよ」

「……ユキオって意外と突然ぶっこむよな」

「そう? 僕も一応、気にはなっているからね」

 抱えたままだった薪を雑に置き、斜面になった草の絨毯の上に横になる。

「あのな、そういうやつじゃないんだよ」

「そういうやつ?」

 同じように首の後ろに手を組んで寝そべるユキオが訪ねた。

「だから、その……恋人とか、そういうやつじゃ……ない。うん」

「やることはやってんのに?」

「やってねぇよッッッ!」

「え? ハルトってもしかして、童貞?」

 ユキオってこんなにズカズカ来るタイプだったのか……。知らなかった……。

「ゔっ……そ、そうだよ! 冒険者なら珍しくもあるまい!」

「そっかー。僕も経験ないから、どんな感じが聞こうと思ったのに」

「は? 恋人いるんだろ? 経験ないのかよ」

、ね。エミリィにも聞いたんだけど、あの人は逆に経験ありすぎて参考にならなかった」

 エミリィ……。あぁ、前に喫茶店で出会った、あのグラマーな人か。

「あの人は、確かにそういうオーラ出てるな」

 なんか、話生々しくない? いや、男同士ならまだピュアな会話か。

「もしかして、ハルトそういう欲ないとか? 男色?」

「バッ! んなわけ! 俺だって、その、やれるならやりてーわ!」

 思わず大きな声を出してしまった。
 
 一瞬、寒気がした。
 空気というのは大層、間が良く読まれるものだ。

 ユキオからの返事は帰ってこない。共通の何かを悟ったのだろう。

 身を起こし、恐る恐る振り返る。
 拳を震わせるマナツと、顔を真っ赤にして俯いているモミジ。
 
 うーん、いつも通りだわ。

「あ、あんたたち、なんちゅー会話してんのよ!」

 瞬間、脳天をマナツの拳が貫いた。

「ぎゃふッ!」

 なんとも間抜けなハルトの潰れるような声が漏れた。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

処理中です...