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例えどんな理不尽な世界だとしても
羨ましいですか?
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「ひょえぇぇ~!」
シャンディがなんとも間抜けな声を出す。しかし、気持ちはわかる。
「追放した先輩が、実は超絶強くて屋敷持ちで美人と住んでいた件!」
ロインに至っては何を言っているのだろうか。
テトラは今一度、眼前に身を置く四人に目を向ける。左からユキオ、ハルト、モミジ、マナツだ。軽い自己紹介を受け、事の経緯を聞いたのだが、いまいちピンと来ない。
「そもそも、パーティーバフなんて言葉、聞いた事ないのですが……」
隣に座るアカメが質問を投げかける。
すると、ハルトたちは少し困ったように全員苦笑いを浮かべる。
「えーっと、パーティーバフっていうのは自分たちで付けた呼称であって、実際は何もわかってない超常現象的な……」
「確かにパーティーメンバーの構成による微力ながらのステータス上昇という噂は聞いたことがありますが、ハルトたちのパーティーは少し異常ですね」
「そうなんだよなぁ。ギルドマスターにわざわざ呼び出されて、研究というか実験に付き合わされるし、個人的にはそこまで大ごとにしたくなかったんだけど」
実際にハルトたちの異常なまでの戦闘力を目の当たりにしては、パーティーバフという仮名の存在を信じるほかない。Bランク魔物のハーピィーを魔法詠唱一回分の時間で倒したのを見てしまうと、なんだか自分たちが恥ずかしいような気もするが、それはまた別の話だ。
実際、ハルトのことは心配していたわけだし、結果的に圧倒的差を付けて追い越されてしまったけれど、それでもとにかくよかった。その一言に尽きる。
「――と、まあハルトはこう言ってるわけだけど、私たちはSランク冒険者を目指してるの!」
マナツが胸に手を置き、自信ありげに少しだけドヤる。
「いや、僕はSランクなんてそんな恐れ多い……ライズさんたちの方がすごいと思うし……」
「私も、Sランクは……考えてなかったと思う」
「んなっ! 本気にしてたの私だけ!?」
ふと、ハルトの顔を見た時、テトラは今まで抱いていた罪悪感が消え去った気がした。自分たちのパーティーにいた時と同じような――いや、それ以上に気の抜けた軽い笑顔。
ハルトは自分の領域を自ら広げるようなことは積極的にはしない。他人を無意識に突き放す癖がある。これは長い間、ハルトとパーティーを組み、リーダーとしてよく見てきたからわかることだ。
一見、めんどくさがりなだけなように見えるが、たぶんハルトは他人を遠ざける癖がある。どうしても、人を信用しないようなイメージ。過去に何かトラウマのようなものがあったことは明白だが、もしかしたら今のパーティーでそのトラウマを払拭できたのかもしれない。
「いえ、先輩方はぜひSランクを目指すべきっす!」と興奮気味のロイン。
「おっ! ロインわかってるじゃん! あんた男だけどちょびっっっとだけマシな男だね」
「いやマナツ、男嫌いなのに彼氏欲しいとか、よく考えると矛盾だよな」
「シャラ――プッ! 私は紳士でかっこいい彼氏を所望しているの。あんた達みたいな男は論外よ!」
「あ、あの……ハルト君は、その、意外と紳士っていうか……」
「はいそこぉ! 惚気んな!」
テトラはそっと席を立つ。どうも、賑やかなのは苦手だ。嫌いなわけじゃない。けど、性格的に混ざれないっていうのが大きい。
庭先に出て、すっかり暗くなった街並みを眺める。結局、ハーピィーの件に関しては後日詳しく報告をギルドにすることになった。ライズさんたちにもお礼をしておきたかったが、どうやら急ぎの用事があったようで、そそくさとどこかへ行ってしまった。
生ぬるい風が今のテトラには心地よい。右腕はイアンさんに治療してもらったが、まだ少し痛む。
今日は死にかけた。いや、半分死んだといっても良いだろう。それくらい、本当に危機一髪であった。
突然、ハーピィーが街に出現した理由は、正直冒険者の端くれでしかない自分にはわからない。けれど、今日みたいなイレギュラーな事態は増えると思う。そうなった時、このままでよいのだろうか……。
今日だって、自分たちのパーティーがもっと強ければ事足りた話だ。
パーティーを抜けたハルトは既に手の届かないような位置にまで登り詰めている。
たとえ、その強さが偶然の産物だろうと、関係ない。大事なのは、自分がどれだけ魔物と渡り合うだけの強さを持っているかだ。
たぶん、ハルト達のイレギュラーな強さをズルだとか、卑怯だ、という人々も少なからずいるであろう。でも、悪いことなんかじゃない。むしろ誇るべきことだ。その強さで守れる人がいるのだから。
無意識に星屑の散りばめられた夜空を見上げていた。
「……強くならなくちゃな」
テトラのつぶやきは、扉の開く音によってかき消された。
シャンディがなんとも間抜けな声を出す。しかし、気持ちはわかる。
「追放した先輩が、実は超絶強くて屋敷持ちで美人と住んでいた件!」
ロインに至っては何を言っているのだろうか。
テトラは今一度、眼前に身を置く四人に目を向ける。左からユキオ、ハルト、モミジ、マナツだ。軽い自己紹介を受け、事の経緯を聞いたのだが、いまいちピンと来ない。
「そもそも、パーティーバフなんて言葉、聞いた事ないのですが……」
隣に座るアカメが質問を投げかける。
すると、ハルトたちは少し困ったように全員苦笑いを浮かべる。
「えーっと、パーティーバフっていうのは自分たちで付けた呼称であって、実際は何もわかってない超常現象的な……」
「確かにパーティーメンバーの構成による微力ながらのステータス上昇という噂は聞いたことがありますが、ハルトたちのパーティーは少し異常ですね」
「そうなんだよなぁ。ギルドマスターにわざわざ呼び出されて、研究というか実験に付き合わされるし、個人的にはそこまで大ごとにしたくなかったんだけど」
実際にハルトたちの異常なまでの戦闘力を目の当たりにしては、パーティーバフという仮名の存在を信じるほかない。Bランク魔物のハーピィーを魔法詠唱一回分の時間で倒したのを見てしまうと、なんだか自分たちが恥ずかしいような気もするが、それはまた別の話だ。
実際、ハルトのことは心配していたわけだし、結果的に圧倒的差を付けて追い越されてしまったけれど、それでもとにかくよかった。その一言に尽きる。
「――と、まあハルトはこう言ってるわけだけど、私たちはSランク冒険者を目指してるの!」
マナツが胸に手を置き、自信ありげに少しだけドヤる。
「いや、僕はSランクなんてそんな恐れ多い……ライズさんたちの方がすごいと思うし……」
「私も、Sランクは……考えてなかったと思う」
「んなっ! 本気にしてたの私だけ!?」
ふと、ハルトの顔を見た時、テトラは今まで抱いていた罪悪感が消え去った気がした。自分たちのパーティーにいた時と同じような――いや、それ以上に気の抜けた軽い笑顔。
ハルトは自分の領域を自ら広げるようなことは積極的にはしない。他人を無意識に突き放す癖がある。これは長い間、ハルトとパーティーを組み、リーダーとしてよく見てきたからわかることだ。
一見、めんどくさがりなだけなように見えるが、たぶんハルトは他人を遠ざける癖がある。どうしても、人を信用しないようなイメージ。過去に何かトラウマのようなものがあったことは明白だが、もしかしたら今のパーティーでそのトラウマを払拭できたのかもしれない。
「いえ、先輩方はぜひSランクを目指すべきっす!」と興奮気味のロイン。
「おっ! ロインわかってるじゃん! あんた男だけどちょびっっっとだけマシな男だね」
「いやマナツ、男嫌いなのに彼氏欲しいとか、よく考えると矛盾だよな」
「シャラ――プッ! 私は紳士でかっこいい彼氏を所望しているの。あんた達みたいな男は論外よ!」
「あ、あの……ハルト君は、その、意外と紳士っていうか……」
「はいそこぉ! 惚気んな!」
テトラはそっと席を立つ。どうも、賑やかなのは苦手だ。嫌いなわけじゃない。けど、性格的に混ざれないっていうのが大きい。
庭先に出て、すっかり暗くなった街並みを眺める。結局、ハーピィーの件に関しては後日詳しく報告をギルドにすることになった。ライズさんたちにもお礼をしておきたかったが、どうやら急ぎの用事があったようで、そそくさとどこかへ行ってしまった。
生ぬるい風が今のテトラには心地よい。右腕はイアンさんに治療してもらったが、まだ少し痛む。
今日は死にかけた。いや、半分死んだといっても良いだろう。それくらい、本当に危機一髪であった。
突然、ハーピィーが街に出現した理由は、正直冒険者の端くれでしかない自分にはわからない。けれど、今日みたいなイレギュラーな事態は増えると思う。そうなった時、このままでよいのだろうか……。
今日だって、自分たちのパーティーがもっと強ければ事足りた話だ。
パーティーを抜けたハルトは既に手の届かないような位置にまで登り詰めている。
たとえ、その強さが偶然の産物だろうと、関係ない。大事なのは、自分がどれだけ魔物と渡り合うだけの強さを持っているかだ。
たぶん、ハルト達のイレギュラーな強さをズルだとか、卑怯だ、という人々も少なからずいるであろう。でも、悪いことなんかじゃない。むしろ誇るべきことだ。その強さで守れる人がいるのだから。
無意識に星屑の散りばめられた夜空を見上げていた。
「……強くならなくちゃな」
テトラのつぶやきは、扉の開く音によってかき消された。
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