パーティー追放された者同士で組んだら、全員魔剣士だったけど割と万能で強かった件

微炭酸

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例えどんな理不尽な世界だとしても

災難ですか?

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 テトラは思わず唸った。ロイン、シャンディ、アカメも同じように苦渋の息を吐く。
 四人はギルドの卓を囲み、ひたすらに唸る。

「ガロが、尽きる……」

 テトラは言い切った。三人は無言だ。

 ディザスターが封鎖されて一ヶ月。つまり、全冒険者は稼ぐ術を失い、手元に残した金で生き延びているわけだが、ついにテトラのパーティーは貯金に底が尽きそうであった。
 何も、無駄遣いをしていたわけではない。それに、貯金もCランクパーティーにしてはそこそこあったと思う。それでも、生活が苦しくなって来ている。

 街はすでに安穏としていなかった。金が尽き、度々暴動を起こす冒険者。店を開いていると襲われる可能性を危惧して、一部の店をのぞいて露店などはほとんど出ていない状況だ。端的に言えばかなり荒れている。

 仕方のない話だ。冒険者は魔物を倒さなければ金を稼げない。その魔物がいる場所がずっと封鎖されている。死活問題だ。

「いよいよまずいですね……」

 小柄な青年――ロインは卓に立てかけた大剣に目を向ける。

「かぁー! やばい。肉食べたい……。無理だ! 死ぬ!」

 シャンディが女性とは思えない、汚れた口調で誰もいない謎の空間を睨みつける。大方、お偉いさんを見立てて睨みつけているのだろう。

「私たちはまだ大丈夫ですけど、その、ハルトさんは大丈夫なのでしょうか……。まだパーティーを結成してすぐですし、そこまで蓄えがあるとは限らないのでは……?」

 アカメがうつむきながら言う。セミロングの赤い髪がいつもよりも若干暗く見える。

 ハルトと最後に話したのは、追放を言い渡した次の日の夜が最後だ。それ以来、バツが悪く、テトラは会いに行くことはなかった。ギルドでたまに見かけはしたものの、どうにも近寄れなかった。三人の様子を見る限り、やはり誰もハルトとは接触していないようだ。
 風の噂では魔剣士同士で新たにパーティーを結成して、まぁ暮らすことはできているようだが……。

「ハルトか……あいつ、魔剣士だから苦労するわな……なんとかうまく生活できてるといいんだけど」

 普段は人の心配など全くしないシャンディが珍しく気にかけているようだ。
 ハルトは、やはり背負わされた呪いとも言える魔剣士という職業のせいで、パーティーにいた頃も色々苦労していた。それでも、ムードメーカーとは決して言えないが、パーティーには必要不可欠の存在だった。
 縦横無尽に前衛と後衛を駆け回り、臨機応変に指示を出す、いわば司令塔として十分に活躍してくれた。名目上はテトラがリーダーだったが、戦闘中に関してはハルトがリーダーといっても語弊はなかった。
 
 もちろん三人もハルトは十分に信頼し、誰一人としてパーティーにいらない存在だとは微塵も思っていなかった。

「今度、ハルト先輩に会いに行きましょう!」

 ロインはなぜか声を張り上げて立ち上がった。もどかしさと後ろめたさを無理やり振り払ってやった、そんな感じであった。

 ギルドを出て、すっかり人がまばらになった夕暮れの大通りを歩く。ほんの二週間前であれば、この時間だろうと、歩くのに苦労するくらいに人はいた。しかし、今は露店も少なく、治安が悪いため出歩く人の数はかなり少なかった。

「ほんっとにピリついてますよね。仕方ないのかな……」

 街を歩くのは正直、少し怖い。少なくとも一人で歩くとなると、荒れ狂った冒険者に荷物を狙われる恐れがある。テトラたちは極力四人で行動し、防具こそ身につけていないものの、各自武器だけは携帯するようにしていた。

「しっかし、お偉いさん方はいつまで調査をしてんだろうね。冒険者は完全放置でちんたらやりやがって」

「まぁ、そう言うな。俺たちだって一回、バジリスクと遭遇しただろ。頻繁にあのような現象が起きている原因など、そう簡単にはつかめまい」

 本日も結局、蓄えを削ってまた明日……同じような日々の繰り返しに思われたが、は突然空からテトラたちの目の前に舞い降りる。

 激しく地面を揺らし、石畳の地面にヒビを入れたそいつは人の身なりをして、両手が翼と化していた。足の先もいわゆる鳥のかぎ爪のような形状をしている。

「なっ!? ハーピィー!」

 テトラは忘れかけていた冒険者の意識を無理やり叩き起こし、背負っていた大きな盾と剣をとっさに引き抜く。三人も遅れてそれぞれ武器を握りしめる。

「な、なんで街の中に!」

 ロインは走り出しながら口にする。

「わ、わかりません。前に南門にデッドリーパーが二体出現したことは聞きましたが、もしかしたら何か関係してるかも……」

 そして、全く同じようにハーピィーがもう一体、後方に降り立つ。前方のハーピィーに走り出していたロインとテトラは思わず急停止する。後方には魔法詠唱のためにシャンディとアカメがいる。このままでは二人が後方のハーピィーに襲われることになる。

「お前はそのハーピィーを相手にしろ! 俺は後ろを相手する!」

 テトラはロインの返事を待たずに身を翻し、走り出す。シャンディとアカメも状況を汲み取り、テトラとロインの中間に移動する。

 Bランク魔物のハーピィーが二体同時に目の前に舞い降りる。Cランクのテトラのパーティーでは撃破どころか、一体だけでも相手にできない。
  
 誰かが悲鳴をあげた。おそらく、広場にいた通行人だろう。悲鳴は伝染し、辺りは騒然とし出す。
 不幸か幸いか、ここはディザスターではなく、街の中である。冒険者だっていっぱいいる。誰かが助けに来るまでしのげばいいだけの話だ。

 けど、どうして街に急にハーピィーが? これまで、つい最近のデッドリーパーを除き、ディザスター外に魔物が出現することはなかった。
 疑問は次から次へと沸き出すが、それを頭の隅に強引に追いやり、眼前に構えるハーピィーに今一度目を向ける。
 
 後方から激しい金属音が聞こえて来る。どうやらロインは既に交戦を繰り広げているようだ。

 ピィイイイッ! と奇声をあげて、ハーピィーが両手もとい両翼を羽ばたかせる。翼の前方に小さな竜巻が出現し、テトラに迫り来る。小さいと行っても、テトラの身長を優に超える大きさだ。
 テトラは盾を前方に突き出し、首を引っ込める。遅れて激しい衝撃。体が浮き上がりそうなのを必死に耐える。防具は身につけていない。一瞬でも体が浮いてしまえば、一気に隙間から入り込むかまいたちにズタボロに引き裂かれるだろう。

「ロインッ! 耐えるだけでいい。援軍を待つんだ! アカメ! シャンディ! 阻害魔法とデバフ魔法を中心に詠唱!」

 耐えろ。ロインにはそう言ったが、彼は重戦士だ。盾を所持しておらず、大剣だけでは全ての攻撃を防ぎきることは不可能だろう。本来であれば積極的に剣で受け止めずに回避を選択するのだが、今回は後衛との距離が近すぎる。それに周りには逃げ惑う民間人もいる。避けることはあまりにもリスクがでかい。

 引っ込めた首を後ろに回してロインを見る。鎧を着ていないむき出しの体は既に傷がついており、血がポタポタと滴っている。

 第二波の衝撃。再び押しつぶされそうな、それでいて気をぬくと逆に体を浮かせようと縦横無尽に風の向きを変える竜巻がテトラを襲う。

 援軍はもちろん、まだまだ来ないだろう。Bランクの魔物相手に防具なしで戦う冒険者は命知らずだ。街にいる冒険者は多いとはいえ、みんな防具などつけていないはず。防具をつけていたとしても相手はBランク。面と向かって助けに入ることのできる冒険者など数少ない。

 あれ? これって、本気でやばいよな?

 引き返せない災難に見舞われたことを切に恨めしく思った。
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