パーティー追放された者同士で組んだら、全員魔剣士だったけど割と万能で強かった件

微炭酸

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例えどんな理不尽な世界だとしても

怖いですか?

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 ライズはひたすらに前方から逃げ惑う群衆をかき分け、流れに逆らって進む。まるで、波のように次から次へと流れてくる人々は恐怖におびえ切った表情をしている。

 全く、鬱陶しくてかなわない。しかし、仕方のないことか。
 なんたって、過去に国一つを滅ぼした災厄の魔物が、街のすぐそばに現れたのだから。
 しかし、冒険者も民と共に敵から背いて逃げている様子は、どうにも腹立たしい。国から義務的に同じ職業に定められている身からすると、恥ずかしい話だ。

「ったく、冒険者がなに我先に逃げてんだよ。こいつらにはプライドってもんがねーのか?」

 ライズの後ろを追随するヤヒロがすれ違う冒険者一人一人に唾を吐き散らす。
 ヤヒロの横にはイアンとコマチ、そしてそのさらに後方をハルトたちが続く。

 ハルトたちの様子を一目する。緊張しているのか表情はこわばっているが、逃げ惑う民たちのように恐怖を感じている様子はない。

 一度相対しているからか? いや、それなら逆にもっと恐怖を感じていてもおかしくはない。何か、恐怖を感じないだけの自信があるのだろうか……。

 かく言うライズは自分の肌が粟立っていることに気が付いた。
 Aランク冒険者などと言われていても、やはりAランクの魔物と対峙することは怖い。そもそも、Aランクの魔物は過去の被害規模などから測定される推定のランクである。それもそうだ。明確に強さでランク付けするには、その魔物よりも強い人物が決めるしかない。
 Aランクの魔物よりも強い人物など、この世界ではごく少数しかいない。

 つまり、EランクやDランクの魔物に比べて、BランクやAランクの魔物の強さにはムラがある。言ってしまえば、大体がいい加減なのだ。

 つい先日、一か月かけてようやく討伐した炎龍は、ライズの冒険者人生の中で一番の強敵だった。実際、下調べや行動パターンにほとんどを費やし、炎龍と対峙していたのは二日ほどだが、正直、死んでもおかしくない場面が何度もあった。
 デッドリーパーに関しては、実際に対峙したことはないが炎龍ほどの強さはないと思っている。

 しかし、そうは言っても相手はAランクの魔物。どうしても体は正直に恐怖を表していた。

 感情を押し殺し、ひたすら流れてくる人の流れを断ち切るように突き進む。
 ギルドを飛び出して十五分。ようやく南門にたどり着いた。南門付近は既に閑散としている。門の手前では銀甲冑に身を包んだ兵士が、震える足を必死に押さえつけていた。

「けっ、冒険者なんかより国の兵士の方がよっぽど度胸がありやがるぜ」

「んー負の感情に染まり切ったあの顔、最高だねぇ」

「あの、とりあえず謝ってきましょうかね? すみません」

「やかましいわ! このパーティーにまともな人間はヤヒロ様しかいないのかぁ?」

「あら、どの口が言ってるのかしら」

 こんな時まで、どうしてこいつらは普段通りにしていられるんだ……。
 
 ライズはハルトたちに視線を向けられていることに気が付く。

 なるほど、確かに強そうだ。見た目じゃなくて、あふれ出る闘志? 魔力? よくわからないが、そこら辺のDランク冒険者ではないことはハッキリとわかる。

 ライズは無言で首肯し、先陣切って門をくぐり抜ける。一面に広がる草のじゅうたんが地平線を作り上げている。

 街を飛び出して左手にそいつはいた。足下には既に息を引き取った銀甲冑の兵士が数えきれないほど倒れており、そいつの周囲はまさに血の海と化していた。

「ライズ! 後ろ!」

 コマチの声につられ、視線を反対方向に向ける。

 いる。

 もう一体。

「なーんでこいつらは毎回二体で来るんだぁ? よし! 俺様が一体相手にしてやるから、お前らはそっちをしっかり倒しとけよ」

「な、なに言ってるんですかヤヒロさん。ひ、一人は絶対に無理です。はい、すみません」

 ヤヒロは「あったりめーだろ、死ぬわ」とぶっきらぼうに返し、ハルトたちをまじまじと見つめる。いや、ガンを飛ばしていた。

「とはいってもよ、こいつらにもう一体を相手させんのか? Dランクだぞ。死なれたら胸糞わりぃんだよなぁ」

 背中に備えた大きな弓を手に取りながら、コマチが「ふふっ」と笑う。

「ごめんなさいね。これでもヤヒロはあなたたちのことを心配してるのよ。ほんっとにツンデレさんよねぇ」

「うーるせぇな! 心配なんかしてねぇっつーの!」

 Aランクの魔物を前にして茶番じみた行動をとる二人に、ハルトは思わず苦笑いを浮かべる。しかし、それと同時に彼らがおちゃらけながらも全方位に殺気じみた魔力を放っていることに気が付く。

 彼らの中では、既に戦闘は始まっているのだろう。デッドリーパーもただならぬ気配を感じ取ってか、その場から動こうとはせず、じっと深紫に光る眼光をライズらに向けるばかりだ。

「お気遣いありがとうございます。でも、たぶん僕たちなら大丈夫です。一度、対面しているので」

 ハルトはユキオ、マナツ、モミジと三人をゆっくりと一人ずつ見渡す。三人はそれぞれ深く頷き、それぞれお揃いの魔剣を手に取る。魔剣といっても、魔剣士用の剣の略で、いわゆる伝説の武器などというわけではない。刀身が紫色のオーラをうっすら帯びていて、魔法の発動が若干早くなる程度の能力を備えているだけだ。

 不安はある。しかし、デッドリーパーのうち一体は彼らに任せるほか、選択肢はなかった。この街にデッドリーパーと渡り合える冒険者は、この場にいる八人の他にいない。

 ゆっくりと全体を見渡し、最後に両側で羨望的な視線を送るデッドリーパーに目を向ける。

「よし、俺らは左手のデッドリーパーを、お前らは右手のデッドリーパーを処理。不測の事態が起きたら、早急に大声を挙げろ。すぐに助けに入る。それから――」

 続く言葉は何気に重い言葉だ。言うのも実行するにも覚悟が必要だ。一度、深く息を吸い込み、吐き出す。

「――死ぬなよ」

 さて、行こうか。準災害級魔物デッドリーパー狩りに……。

 ライズは腰元に備えた鞘から、金色のオーラを放つ剣を抜き取った。
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