パーティー追放された者同士で組んだら、全員魔剣士だったけど割と万能で強かった件

微炭酸

文字の大きさ
上 下
13 / 79
例えどんな理不尽な世界だとしても

油断、じゃないと思うんだけど?

しおりを挟む
 さて、かっこつけて第二ラウンドだ、などと言い放ったはいいものの、正直一緒に逃げればよかったのかなと思う。というか、今街に助けを呼びに行って、デッドリーパーに勝てる冒険者などいるのだろうか。

 あー、しんどい。アンラッキーだ。帰ってこの重たい体を解放してあげたいと切に思う。

 ハルトは前方の死神から意識をそらすことなく、仲間の様子を確認する。あまり動いていないにも関わらず、三人とも息が荒い。デッドリーパーの放つ威圧のせいだろう。
 たぶん、元々の魔剣士の状態では恐れおののき、地面に膝を着いてしまっているのではないだろうか。理不尽すぎるパーティーバフが付与されているとはいえ、あまりにも素の実力に差がありすぎる。

 怠惰を極めすぎたなと、遅ればせながら感じた。

 だってしょうがないじゃん。このパーティーになってから、どの魔物もワンパンだったのだから。

 眼前で悠々と漂うデッドリーパーは黒交じりの赤いオーラを身に纏っている。肌を刺すような感覚も、脳を激しく揺らす早鐘も、先ほどまでとは比べ物にならない。
 刹那、本当に一瞬だけ目をそらした。コンマ一秒にも満たない、微弱な視線の動きだった。

「――ハルト、前!」

 不意に鋭利な刃が首元へ迫る。喉元を切り裂く寸前のところで、反射的に体を後ろに反らして避ける。
 
 数コンマかかってようやく理解する。デッドリーパーはハルトめがけて、鎌を思い切り投げつけていたのだ。
 主の手を離れた大鎌は虚空を切り裂いて、そのまま宙を浮かぶ。

 そして、当の死神の手には新たに二本目の鎌が存在していた。

「コピー魔法と操作魔法……どちらも高度な魔導士が覚える魔法を、しかも同時展開なんて……」

 マナツの説明じみた発言でようやく仕組みを理解した。

 焦るな、鎌が二つに増えただけだ。落ち着けば対処できる。

 一瞬、四人は目配せを交わす。言葉は出さなくとも、事前に決めた通りの動きを瞬時に実行する。

 ユキオが最前線を切り開き、ハルトはユキオのサポート、隙があれば剣で直接攻撃を仕掛ける。マナツとモミジは再度、魔方陣を展開した。

「どっせーいッ!」

 独特の掛け声でデッドリーパーが振り下ろす鎌を受け止めるユキオ。やはり、先ほどよりも数段パワーアップしているのか、ユキオの体が沈む。なんとか受け止めた、というような具合であった。
 ユキオの背後に宙を漂っていた鎌が迫りくる。

「させねーよ!」

 ハルトはユキオと鎌の間に体を滑り込ませ、鎌を弾き飛ばす。思ったよりも軽い。どうやら、操作魔法で操っている方の鎌に関しては、さほど威力はなさそうだ。とはいっても、たぶんまともに喰らえば、人間の体など紙切れのごとく両断されるだろう。
 
 弾かれた鎌は自我を持っているかのように、一度ハルトたちから距離を取り、スーッと怪しげに宙を漂う。

「くそ、敵が二人いるみたいだ」

 何とか隙を見てユキオの加勢に行きたいところだ。ユキオはかなり押されている。猛烈に迫りくる鎌の連打を間一髪で弾いている状況だ。しかし、下手に今の距離感を崩してしまえば、今度は主無き鎌が魔法詠唱組に突っ込んでいくだろう。
 ユキオを信じ、どちらにも動けるような中間にポジションを取る。

「魔法行くよ! 3、2、1――!」

 パーティーを組んで幾度となく聞いた、マナツの独特な魔法を知らせる掛け声が聴こえてきた。

 ハルトとユキオは迫りくる鎌をそれぞれ大きく弾き飛ばし、左右に避ける。

 巨大な火球が地面を焦がしながらデッドリーパーに迫り、大きな爆音とともにデッドリーパーの目の前で爆発する。
 土煙が晴れないうちに、デッドリーパーの足下に紫色の魔方陣が浮かび上がる。禍々しい、大きな魔人の手が魔方陣から飛び出し、デッドリーパーを鷲掴みして握りつぶす。

「――チェンジ!」

 すかさずハルトは叫んだ。ユキオとハルトは後方に下がり、魔法を詠唱。マナツとモミジが前線に変わり、鎌と対峙する。このチェンジにより、魔法のクールダウンを待たずしてすぐさま次の魔法に繋げることができる。前衛も後衛もできる魔剣士パーティーだからできる戦術だ。

 ハルトは剣を地面に突き刺し、目を閉じる。魔法は精神の集中が必要。詠唱中は無防備になってしまう。そのため、仲間の絶大な信頼が無ければ戦闘中に目をつぶって集中など、できたものじゃない。

 頭の中でひたすら術式を羅列する。体の奥底がじんわりと熱くなるのを感じた。その熱は徐々に火力を増し、身が内側から焦げるのではないかと思うくらい、ひたすらに熱くなる。

 そして、魔法の詠唱が完了した。最後の一単語を脳内でつぶやいた瞬間、灼熱に火照った体から魔力を開放する。

「魔法いくぞ!」

 宙に巨大な魔方陣が展開され、眩いほどの光の刃が射出される。文字通り光速で発射された刃はデッドリーパーに直撃し、その体を光の縄でがんじがらめにする。
 攻撃と束縛の両方を備えた光魔法――『ラストレルスカージ』だ。

 一拍遅れて、ユキオの魔法が炸裂する。ユキオの足元の地面が隆起し、そのまま前方に波打つ。速度は速くはないが、デッドリーパーはハルトの魔法によって身動きが取れない。そして、デッドリーパーの足元の地面がボコっと膨らみ、地面からマグマの剣が勢いよくデッドリーパーを貫いた。

 灼熱魔法――『トリッドランジ』。命中率こそ低いものの、すさまじい破壊力を秘めた魔法だ。

「――チェンジ!」

 ハルトは叫ぶ。無我夢中だった。でも、微かに勝てそうな気がした。気のせいかもしれない程度の本当に微かなものではあったが、その希望が体を動かした。

 再びユキオとハルトが前線に踊り立つ。モミジとマナツは既に目を閉じて魔法の詠唱を始めている。

 宙を漂い、隙あらばユキオの背中を狙い飛び込んでくる鎌をハルトが叩き落す。ユキオは相も変わらずデッドリーパーと刃を交えている。しかし、先ほどよりも辛くなさそうだ。というか、デッドリーパーの方が押され始め、ユキオの剣が浅くではあるがデッドリーパーの身を削り始めた。

 A級魔導士の魔法に匹敵する魔法を四発叩き込んだのだ。普通であれば魔法のクールタイムなどを加味して、二人のA級魔導士のいるパーティーで二十分かかるところを、ハルトたちはスワップによって十分で行った。
 準災害級以上の魔物は自動再生能力が著しく高いため、時間をかければかけるほど回復されてしまう。つまり、魔剣士パーティーの効率的な魔法のローテーションは今までのどのパーティーよりも魔物を苦しめるものであった。

 目に見えてデッドリーパーの動きが鈍っている。ローブは所々破れ、不気味に浮かび上がる深紫の眼光が弱まる。

 これは、行けるのでは……? 
 油断ではない。現実的に状況を見ての感想だ。無意識に感じていたこと。おそらく、他の三人も感じているだろう。確かな手ごたえというのだろうか。なんとなく感じる冒険者特有の感覚。

 ユキオに背を向ける形で、目の前に迫りくる鎌を叩き落とす。

 そして、不意に身を貫く殺気と歪む視界。
 後方で魔法を詠唱するモミジの背後に、そいつは忍び寄っていた。

 視界がスローモーションになる。息が詰まり、声が出ない。いや、出したとしてももう遅い。地獄の刃は既に振り下ろされている。

 意識を置き去りにして体が動き出す。何のスキルを使ったのかわからない。視界が薄暗い森を置き去りにする。

 それでも、鎌の方が早い。

 どうして――?

 なんで……。


 どうしてもう一体いるんだよッ!

 無我夢中でモミジを押しのける。
 間に合ったのかもわからない。
 視界が揺れる。――涙?

 一瞬、焦点が合う。
 モミジと目が合った気がする。その体に傷は一つもない。

 ああ、よかった。

 ――? どうしてモミジが泣くんだよ。

 
 遅れてハルトの全身を燃えるような痛みが貫いた。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

家の全仕事を請け負っていた私ですが「無能はいらない!」と追放されました。

水垣するめ
恋愛
主人公のミア・スコットは幼い頃から家の仕事をさせられていた。 兄と妹が優秀すぎたため、ミアは「無能」とレッテルが貼られていた。 しかし幼い頃から仕事を行ってきたミアは仕事の腕が鍛えられ、とても優秀になっていた。 それは公爵家の仕事を一人で回せるくらいに。 だが最初からミアを見下している両親や兄と妹はそれには気づかない。 そしてある日、とうとうミアを家から追い出してしまう。 自由になったミアは人生を謳歌し始める。 それと対象的に、ミアを追放したスコット家は仕事が回らなくなり没落していく……。

処理中です...