パーティー追放された者同士で組んだら、全員魔剣士だったけど割と万能で強かった件

微炭酸

文字の大きさ
上 下
8 / 79
例えどんな理不尽な世界だとしても

使いみちは◯◯らしいですよ?

しおりを挟む
 ハルトの家は狭い。いや、むしろ冒険者三年目で一人暮らしをできているのだから、順調に稼げている証拠だろう。
 冒険者は共同で部屋を借りて、複数人で住まうことの多い職業だ。パーティー全員で大部屋を借りて住むことも珍しくはない。その要因としてはやはり金銭的問題だ。
 冒険者は他の職業に比べ、一攫千金はあるが、収入が安定しない。加えて、装備やアイテムなどの費用がこれまた馬鹿にならない。そういった理由で、ホームシェアをすることは珍しくなく、むしろ一般的なことだ。

 しかし、ハルトはあえて一人を選択した。もちろん、元パーティーメンバーで一緒に住むという話も出てはいたが、あえて否定した。駆け出しにはやはり金銭的に厳しいものがあったが、頑なに一人を好んだ。
 理由は単純、ハルトは他人と寝食を共同することが苦手だった。

 それを聞いていたテトラが言及することは無かった。話さないという事は話したくないという事だ。
 しかし、ハルト自身もテトラに本当の理由を隠していることが、バレている事はわかっていた。だからといって話す気はさらさら無い。彼は誤魔化すようにこう言った。

「――めんどくせ」

 


「しゅ、しゅごい……どうしようこれ」

「落ち着けモミジ。なんか言葉すごいぞ」

「いやいや、ハルトこれ実際やばいよ。やばいってレベルじゃ無いくらいやばいよ」

「お前も落ち着けユキオ。そんなやばい連呼するな。耳痛いわ」

「わ、私はこんなんじゃ、浮かれないよ。いや、ほんとに」

「わーこいつ目が泳ぎまくってやがるぜ」

 狭い空間にベッドと木のテーブル、小さな収納箱しかない簡素な部屋に、四人は集まっていた。
 テーブルには溢れんばかりの金貨の山。乗せきれなくて床にジャラジャラと落ちている。

「はぁー。お前ら、少しは落ち着けよ」

 ハルトの吐くため息を飲み込むように、三人はブツブツと何かを呟き続ける。

「スライム様ありがとうございます。このマナツ、もう一生あなたを倒す事はないと誓います。ありがとうございます。ありがとうございます」

「これだけガロがあれば、お菓子をどれだけ買えるでしょうか……」

「やばいやばいやばいやばいやばいやばい」

 黄金色のスライムジェネラルを特大魔法の四連撃でぶっ倒した結果、ギルドから報酬として受け取った金額は、なんと驚きの一千万ガロ。四人で平等に分けても一人当たり二百五十万ガロ。五年は何もしなくとも暮らしていける額。それどころか、軽く屋敷が立ってしまうような冒険者が持つにはあまりに多すぎる量だ。

「とりあえず五年は自宅警備で過ごそうかな俺……」

「何言ってんのハルト! Sランクパーティー目指すんでしょ!」

「誰もそんなこと一言も言っとらん。俺はめんどくさいことは嫌いなんだよ。寝てること以外は全部めんどい!」

「私はこのお金は、何かパーっと使うのがいい……と思います」

「僕もどのみち分けて渡されても使い道ないからなあ」

 どうやらモミジとユキオは平等分けではなく、何か大きなことに使いたいようだ。ハルト個人としては正直なところ、目の前にある大量の金貨がどのように使われようと、実はあまり気になっていない。
 金に執着が無いわけではないが、使い道を巡って口論を交わす行為がすでに億劫に感じた。

「んーでも、一千万ガロをパーっと使うって、実際かなり難しいよね」

「そうだね。私たち駆け出し冒険者はこんな大金扱ったことないし」

「冒険者が必要なものと言えば装備、アイテム、居住くらいしかないもんね」

 マナツとモミジは使い道に関して相談している。ユキオも一人でうーんと唸っていた。

「ちょっと散歩でもしてくる。使い道は三人で決めてどーぞ」

「もーテキトーね。男ってやっぱりみんなこうよね」

「ちょ、僕はちゃんと話し合いに参加するからね」

 協調性が無いな、とは思う。けれど、ハルトにとってそのくらいドライな関係でいたかった。深入りをすれば、失った時にそれだけ傷つくことになるのだから。


「あ、ようやく帰って来た!」

 部屋のドアを開けるや否や、マナツの顔が至近距離に迫る。少し顔を前に出せば肌が触れてしまいそうなほど近い距離に、思わず胸が跳ねる。頬が少し火照るのを感じ、慌ててのけぞった。

「近ぇよ! そんで、使い道は決まったの?」

 ふふんと言いたげに腕を組んで、仰々しく胸を張るマナツ。その後ろには長い間議論を重ねたのであろう、疲れ切った表情のモミジとユキオの姿がある。ちょっとだけ罪悪感が芽生えた。

 ややあって、マナツは金貨の山を指差しながら言い放つ。

「家を買うわ!」

「だが、断るッ!」

「はぁ!? なんでよ!」

 即答のハルトにマナツは青筋を立てる。それも当然、勝手に決めろと言っておきながら、頭ごなしに却下したのだから。

「俺は一人暮らしがいいの。住むなら三人で住めよな。俺はこの部屋にそのまま残るから」

「なーんでそんなこというの! 私たちパーティーはハルトも含めての四人よ! リーダーのハルトが住まないでどうすんの!」

「リーダーじゃねぇ! ……とにかく、家は駄目だ」

 ハルトは頑なに拒む。

「ハルト君は私たちのこと、嫌い?」

 モミジが少し悲しそうな顔を見せる。流石にその表情にはハルトも若干気圧された。

「い、いや、別に嫌いじゃないけど……」

「じゃあ、いいじゃない! というかもう物件も決めてあるし」

 マナツは一枚のビラをハルトに半ば押し付けるように渡す。
 冒険者が住むには十分なくらい大きな一軒家のイラストが描かれていた。金額までご丁寧に五百万ガロと書かれている。これ、貴族用の物件なのではないだろうか。

「ちなみにもう五百万ガロは装備とかをハイパー強化するための資金ね」

「ちょ、だから俺は住まないって――」

「勝手に決めていいって言ったよね? そもそも、ハルトに拒否権ないから」

「なっ……、うっ、確かに……」

 このパーティーの本当のリーダーはマナツなのでは? と心の中でぼやきながら、めんどくさがってしまったことを心底後悔するハルトであった。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

処理中です...