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第2部
【59】生まれ持った才能
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「帰りたい……」
ゴンザレスの背中でうなだれる俺。そのままどさりと艶やかな鱗に顔を押し付ける。滑り落ちそうな態勢でも、もちろん俺の身体はぴたりとゴンザレスにくっついたままだ。
空は脅威が多い。怪翼鳥のゴンザレスが後れを取る相手は少ないとはいえ、俺たちは今から龍を倒しに行くのだ。念のため、聖域を出発してからゴンザレスには『固定』をかけ続けている。
「それにしても、速いでありまするなぁ」
ゴンザレスの頭の上にちょんと乗ったコノハが、真下を見て感心していた。つられて下を覗けば、時速百㎞の空飛ぶ魔物と並走して走るユズリアと、背にリュグ爺を担いだミスティアの姿。いやね、普通に化け物。
聖域を出てから、もう既に八時間が経過していた。その間、休憩無し。もはや体力がうんぬんの話ではないような気がする。
ユズリアは『雷撃魔法』で速度を上げているからまだしも、何とミスティアは『身体強化魔法』しか使えないらしい。それで、さらにリュグ爺を背負ってなお余裕の表情――いや、リュグ爺に怯えた顔ではあるが、そこに疲労は見えなかった。
そもそも、『身体強化魔法』は一般的な魔法で、冒険者には使うものも多い。しかし、通常は身体能力を二倍程度まで上げるもので、ユズリアやミスティアのように何十倍にもなることは無い。
「いるんだよなぁ、たまに」
「何が?」
俺の背中にがっしりしがみついたサナが耳元で呟く。こいつ、今がコノハと俺しかいないからって、これ見よがしに引っ付いてきやがる……。
「天才って奴だよ。そもそも、冒険者ってのは生まれ持った才能――つまり、固有の魔法である程度ランク付けされてしまうものなんだよ。低級の火属性系魔法しか持たない冒険者が、例えば何属性もの魔法を使えるコノハには敵わないだろ?」
「もちろん」
結局、魔法は努力ではどうにもならない。だから、S級冒険者のほとんどはその人にしかない個性を大半が持っている。俺で言えば『固定』。サナは『解除』。コノハの『異札術』は他にも使える人が多いが、彼女の才能と言うのは、使える魔法の圧倒的な多さだ。
このように、生まれつきの才能で格付けが終わってしまう。冒険者とは至って理不尽なものなのだ。
「でもさ、たまに大したことの無い魔法しか持たなくても、ずば抜けて強い冒険者がいるんだよな。その代表例がユズリアとミスティアかもしれないな」
誰が見ても、彼女たちの使っている魔法が『身体強化魔法』と『雷撃魔法』だとは思わないだろう。
「見えてきたでありまするよ」
空に星が瞬きだした頃、コノハが前方を指さす。聖域とロトゥーラの街の中間をちょうど東へ。一面平野だった緑色の景色が、いつの間にかごつごつとした岩肌に囲まれていた。
山岳地帯の中でも、ひときわ天に高い火山。そこに宝玉龍が巣をつくっているらしい。
一つ手前の山でゴンザレスを降ろすようにコノハに頼む。ユズリアが聖域に連れて行くと言ったのに、今では完全にコノハがゴンザレスのご主人様だ。
「やっと着いたか」
「長かったでありまするねぇ」
怪翼鳥に乗って来た俺を含む三人が、大きく伸びをする。それを息切れ一つせずに待つユズリアとミスティア。本当、この二人って人間か……? ちなみに一番人間離れしているであろうリュグ爺は、ミスティアの背でのんびり眠りこけていた。
安全な一帯で夜を明かす。冒険者は夜間に行動をしない。絶対的共通認識だ。
「それでは、さっさと終わらせようかのぉ」
朝一番、リュグ爺が珍しく剣の手入れをしていた。それだけで、龍という存在がどれだけ脅威足り得るかが、俺たちにはよく分かる。
「そうは言っても、この中で龍を倒したことがあるのってリュグ爺とミスティアだけだろ? 流石にちょっと不安なんだけど」
本当はドドリーとセイラに付いて来てもらいたかったのだが、彼らは今や人類圏を追われるお尋ね者だ。そして、ここは山岳地帯で人通りが皆無とは言え、大きな街も近くにある。流石に連れてくるわけにはいかなかった。
ちなみにユーニャとシグもお留守番だ。彼らに最上位の魔物はまだ早い。
「大丈夫、きみはユっちゃんの前で龍のかぎ爪を身に刻めばいいだけだから」
ぐっと親指を突き立てるミスティア。
「あの、それだと死ぬの確定だと思うんだけど……」
いや、死なないけどね。『固定』あるし。
「うん、頼むよ!」
何笑顔でとんでもないこと言ってんだこの人。
「ミスティアさん、お姉さん……お兄が好きそう」
「冗談言うなってサナ。俺が好きなのは花も喜ぶようなお淑やかさで、包み込むような母性を持った聖女のようなおねえさ――痛でてっ!? 取れる! 耳取れちゃうッ!」
俺とサナのやり取りを見ていたミスティアが、不思議そうに首を傾げる。
「ねえ、ユっちゃん、本当に彼のことが好きなの? 何だかすごい頼りなさそうだし、別にイケメンってわけでも無いのに……」
やっぱり、早く帰りたい……。
ユズリアと目が合う。すると、彼女はにんまりと笑って腕を組んでくる。あの、止めてください。隣の妹の殺気が怖いので。
「師匠、昔から本当に男の人を見る目が無いですね。ロアはどんな時だって、一番頼りになるんですから」
「ほんとぉ?」
「もちろん。私だけじゃないですよ、ここにいる全員、ロアがいれば何の問題も無いって信じていますよ」
コノハが大きく頷いていた。サナは……よく分からん。いつも通り無表情だ。
期待されるのには慣れてないんだけどなぁ。
「ふぉっ、ふぉっ、そうじゃな。なあに、これだけの面々じゃ。何も問題無かろう」
「リュグ爺、それフラグって言うんだぞ」
とにかく、宝玉龍とやらを見てから考えるしか無さそうだ。リュグ爺の言う通り、面子は過剰と言えるのだから。
ゴンザレスの背中でうなだれる俺。そのままどさりと艶やかな鱗に顔を押し付ける。滑り落ちそうな態勢でも、もちろん俺の身体はぴたりとゴンザレスにくっついたままだ。
空は脅威が多い。怪翼鳥のゴンザレスが後れを取る相手は少ないとはいえ、俺たちは今から龍を倒しに行くのだ。念のため、聖域を出発してからゴンザレスには『固定』をかけ続けている。
「それにしても、速いでありまするなぁ」
ゴンザレスの頭の上にちょんと乗ったコノハが、真下を見て感心していた。つられて下を覗けば、時速百㎞の空飛ぶ魔物と並走して走るユズリアと、背にリュグ爺を担いだミスティアの姿。いやね、普通に化け物。
聖域を出てから、もう既に八時間が経過していた。その間、休憩無し。もはや体力がうんぬんの話ではないような気がする。
ユズリアは『雷撃魔法』で速度を上げているからまだしも、何とミスティアは『身体強化魔法』しか使えないらしい。それで、さらにリュグ爺を背負ってなお余裕の表情――いや、リュグ爺に怯えた顔ではあるが、そこに疲労は見えなかった。
そもそも、『身体強化魔法』は一般的な魔法で、冒険者には使うものも多い。しかし、通常は身体能力を二倍程度まで上げるもので、ユズリアやミスティアのように何十倍にもなることは無い。
「いるんだよなぁ、たまに」
「何が?」
俺の背中にがっしりしがみついたサナが耳元で呟く。こいつ、今がコノハと俺しかいないからって、これ見よがしに引っ付いてきやがる……。
「天才って奴だよ。そもそも、冒険者ってのは生まれ持った才能――つまり、固有の魔法である程度ランク付けされてしまうものなんだよ。低級の火属性系魔法しか持たない冒険者が、例えば何属性もの魔法を使えるコノハには敵わないだろ?」
「もちろん」
結局、魔法は努力ではどうにもならない。だから、S級冒険者のほとんどはその人にしかない個性を大半が持っている。俺で言えば『固定』。サナは『解除』。コノハの『異札術』は他にも使える人が多いが、彼女の才能と言うのは、使える魔法の圧倒的な多さだ。
このように、生まれつきの才能で格付けが終わってしまう。冒険者とは至って理不尽なものなのだ。
「でもさ、たまに大したことの無い魔法しか持たなくても、ずば抜けて強い冒険者がいるんだよな。その代表例がユズリアとミスティアかもしれないな」
誰が見ても、彼女たちの使っている魔法が『身体強化魔法』と『雷撃魔法』だとは思わないだろう。
「見えてきたでありまするよ」
空に星が瞬きだした頃、コノハが前方を指さす。聖域とロトゥーラの街の中間をちょうど東へ。一面平野だった緑色の景色が、いつの間にかごつごつとした岩肌に囲まれていた。
山岳地帯の中でも、ひときわ天に高い火山。そこに宝玉龍が巣をつくっているらしい。
一つ手前の山でゴンザレスを降ろすようにコノハに頼む。ユズリアが聖域に連れて行くと言ったのに、今では完全にコノハがゴンザレスのご主人様だ。
「やっと着いたか」
「長かったでありまするねぇ」
怪翼鳥に乗って来た俺を含む三人が、大きく伸びをする。それを息切れ一つせずに待つユズリアとミスティア。本当、この二人って人間か……? ちなみに一番人間離れしているであろうリュグ爺は、ミスティアの背でのんびり眠りこけていた。
安全な一帯で夜を明かす。冒険者は夜間に行動をしない。絶対的共通認識だ。
「それでは、さっさと終わらせようかのぉ」
朝一番、リュグ爺が珍しく剣の手入れをしていた。それだけで、龍という存在がどれだけ脅威足り得るかが、俺たちにはよく分かる。
「そうは言っても、この中で龍を倒したことがあるのってリュグ爺とミスティアだけだろ? 流石にちょっと不安なんだけど」
本当はドドリーとセイラに付いて来てもらいたかったのだが、彼らは今や人類圏を追われるお尋ね者だ。そして、ここは山岳地帯で人通りが皆無とは言え、大きな街も近くにある。流石に連れてくるわけにはいかなかった。
ちなみにユーニャとシグもお留守番だ。彼らに最上位の魔物はまだ早い。
「大丈夫、きみはユっちゃんの前で龍のかぎ爪を身に刻めばいいだけだから」
ぐっと親指を突き立てるミスティア。
「あの、それだと死ぬの確定だと思うんだけど……」
いや、死なないけどね。『固定』あるし。
「うん、頼むよ!」
何笑顔でとんでもないこと言ってんだこの人。
「ミスティアさん、お姉さん……お兄が好きそう」
「冗談言うなってサナ。俺が好きなのは花も喜ぶようなお淑やかさで、包み込むような母性を持った聖女のようなおねえさ――痛でてっ!? 取れる! 耳取れちゃうッ!」
俺とサナのやり取りを見ていたミスティアが、不思議そうに首を傾げる。
「ねえ、ユっちゃん、本当に彼のことが好きなの? 何だかすごい頼りなさそうだし、別にイケメンってわけでも無いのに……」
やっぱり、早く帰りたい……。
ユズリアと目が合う。すると、彼女はにんまりと笑って腕を組んでくる。あの、止めてください。隣の妹の殺気が怖いので。
「師匠、昔から本当に男の人を見る目が無いですね。ロアはどんな時だって、一番頼りになるんですから」
「ほんとぉ?」
「もちろん。私だけじゃないですよ、ここにいる全員、ロアがいれば何の問題も無いって信じていますよ」
コノハが大きく頷いていた。サナは……よく分からん。いつも通り無表情だ。
期待されるのには慣れてないんだけどなぁ。
「ふぉっ、ふぉっ、そうじゃな。なあに、これだけの面々じゃ。何も問題無かろう」
「リュグ爺、それフラグって言うんだぞ」
とにかく、宝玉龍とやらを見てから考えるしか無さそうだ。リュグ爺の言う通り、面子は過剰と言えるのだから。
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