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第1部
【34】俺だって
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その小さな身体に似合わない大ぶりな剣を担ぎ、繭状態を解いた魔族を圧倒するリュグ爺。魔族が手持ちの武器に対応した瞬間、別の武器に次々と持ち替えて攻撃スタイルを変える。時空の彼方に消えては、不意に現れて魔族を斬り刻み続けた。
「リュグ爺が英雄の一人、それも一番の功労者と言われているあの無頼漢の王だって!?」
セイラは時折、飛んでくる流れ魔弾を都度鬱陶しそうに錫杖で弾く。
「はい。私を育ててくださった先生も英雄がお一方でして、リュグ爺様には昔からよくしてもらっておりました」
「無頼漢の王って、似合わない」
サナがぼそりと呟く。
「先生曰く、リュグ爺様はそれはもう手のつけられない程の荒くれだったそうですよ? それなりの色男だったとか、何とか」
「リュグ爺殿が二枚目とは、何とも想像し難いでありまするな」
「ふふっ、私も半信半疑ではあります。先生の異性の好みは少しだけおかしかったですから」
ドドリーは少しもおかしくないのだろうか。確かに顔は良いが……やはり師弟とは似るものなのかもしれない。
「でも、魔族ってS級冒険者五人でようやく倒せたんでしょ? リュグ爺一人じゃ、勝てないんじゃ……。私、やっぱりサポートに行く!」
「あの魔族はまだ幼体です。リュグ爺様一人で問題ないでしょう」
巨大な風の刃を真っ赤に燃える片刃の大剣で次々と弾くリュグ爺。確かにその表情に苦戦の色は全く見えない。対して、魔族は片翼があらぬ方向にへし曲がり、全身から青黒い血を滴らせていた。最初に比べ、口数も随分と減っている。
しかし、今でこそ魔族をリュグ爺の独壇場となっているが、いまだに魔族の放つ魔法は詠唱速度も、威力も、全てが人類には到底再現のできない化け物じみたものだ。
あれでまだ成体でないと言うのだから恐ろしい。リュグ爺がいなかったらと思うと、心底ゾッとする。
「成体にならんと自己回復は出来んようじゃな」
「ぬぅあぁあぁあああッ! 調子に乗るなよ下等生物ぅううッ!」
魔族の足元を中心に聖域を囲んでしまうほどの巨大な魔法陣が展開する。息苦しいほどの濃密な魔力が練り上げられていくのが分かった。
魔族が掲げた手の先に石ころのような小さな風の魔弾がつくられる。魔弾は高速で回転しながら徐々に大きさを増していく。
「お、おいおい……それは駄目だろ……」
影が地面を覆う。空を埋め尽くすほどに膨れ上がった魔弾が太陽を遮った。強烈な追い風が吹き荒れ、魔弾へと収束していく。身体の小さいコノハが足を浮かす。吸い込まれるように身体の自由を失うコノハを掴み、脇に抱える。
「た、助かったでありまする……」
「それより、あんなものが落ちてきたら止めようがないぞ!?」
そうなれば、もはや被害は甚大だ。聖域など跡形も残らないだろう。それどころか、魔素の森の大部分が消滅しそうな程だ。
「ギャハッハハハッハッ! よくもここまでこけにしてくれたな下等生物。褒美をくれてやろう!」
おそらく、あの馬鹿でかい魔弾にも黒のもやがコーティングされているはず。つまり、俺の『固定』やサナの『解除』はもちろん、その他の魔法も全てが無力だ。止めるには物理的手段で受け止める他ない。
「それはちとまずいのお」
リュグ爺の口ぶりから察するにまだ窮地という感じではなさそうだ。もしかしたら、対抗策を持ちうるのかもしれない。もはや、今の頼みの綱はリュグ爺だけだ。
刹那、追い風が止んだ。一瞬の静寂の後、魔弾の真ん中から上がずるっとズレた。まるで、何かが横一閃に斬ったような……。
ピシッという小さな音が聞こえた。次の瞬間、魔弾が網目上に断割れ、凄まじい風の衝撃を吹き散らして瓦解する。
「な、何が起きたのぉ!?」
飛ばされるサナを俺が、ユズリアを戻ってきたドドリーが手を掴む。体勢を崩したことで足が浮きそうになり、慌てて地面と靴を『固定』する。
目を開けることもかなわない最中、リュグ爺が宙から下ろされて地面に着地した気配がした。
「全員無事かの?」
どうやら、リュグ爺ですら視界を奪われているようだ。全員の声が騒音に紛れて聞こえた。
「リュグ爺がやったのか!?」
「いいや、儂ではないわい。どうやら、簡単にはいかなそうじゃな」
脇に抱えたコノハの手元がぼやっと光るのが薄目で見えた。
「ロア殿、皆の足元に『固定』を――!」
「わ、分かった!」
言われた通り、全員の靴と地面を『固定』。それを確認し、コノハが『異札術』を発動する。下から押し上げるような突風が沸いた。その風が横なぎに吹き荒れる風の流れを強引に上へと変える。竜巻のように渦を巻いて上空へ全ての風が突き抜ける。
ようやく、風の脅威が止まった。
「ま、魔族は!?」
ユズリアの声に上空へと目を向ける。
思わず、息を呑んだ。それと同時にあることを思い出した。湖にあった黒い繭は一つではなかったということを。
傷だらけの魔族の頭を、別の魔族が鷲掴んでいた。その目つきは心臓が凍りつきそうな程冷たく、鋭かった。長い朱色の髪をなびかせ、体格も女性のものだ。
「あ、姉上……。どうしてここに?」
傷だらけの魔族が怯えたように発する。
「愚弟のせいだろう? 私は言った通り人族の国を一つ滅ぼしてきたぞ? それがお前と来たら、何をこんな数人に手こずっておる」
「ご、ごめんなさい……姉上……」
「ここは我らの弱点となる場所だと言っただろう。確実に潰さなければならないのだ。だというのにあのような大仰な魔法、放った瞬間お前はあの年寄りに殺されていたぞ?」
刹那、リュグ爺が動いた。歪みを見せるよりも早くその場から姿を消し、雌型の魔族の背後を取る。雷撃を纏った双剣で斬り放つ。
しかし、雌型の魔族は容易く反応してみせた。鷲掴んだ魔族を斬撃の盾がわりに受け止める。十字に雷鳴が轟き、魔族の身体を深く削り取る。
不快な絶叫が辺りに反響した。
「それとも、死にたかったのか?」
雌型の魔族はリュグ爺を眼中にすら入れない。
それからリュグ爺の縦横無尽の攻撃が雌型の魔族を襲うが、その全てをもう一方の魔族で受けた。片方の魔族はもう息も絶え絶えだ。
「どうしてあんなことを……仲間じゃないの!?」
「俺らからすればありがたい話だが、あの雌型の魔族、リュグ爺の攻撃をああも容易くいなすなんて」
「おそらくは成体でしょうね……」
セイラの表情はいつになく険しい。それだけ、あの雌型の魔族が計り知れない脅威だということだ。
一際、大きな剣が炎の柱を立てて空気とボロボロの魔族を焦がす。その衝撃に乗じて、リュグ爺が空間を飛んで戻ってくる。その額には汗が滲んでいた。
「ふう……まずいのお」
「で、でも、一体の魔族はもう戦えなそうだし、七人いれば何とか倒せるんじゃ……」
ユズリアの言葉にリュグ爺が首を振る。
「あの雌型、おそらく五十年前の魔族よりも手こずりそうだのお。それにな、成体の魔族の厄介なところは回復魔法にも長けているところじゃ」
雌型の魔族が黒いもやで己ともう一方の魔族を包み込む。球体状となった隙間から黒い光が漏れる。
「ふっはっはっ! 久々に腕がなるというものよ!」
「即死以外ならば私が回復しましょう」
「某も戦うでありまする!」
黒いもやが晴れる。そこにはもちろん二体の魔族。雌型の魔族と、先ほどまでの傷痕が綺麗さっぱり消えた雄型の魔族。表情こそ固いものの、どうやらリュグ爺の与えたダメージは回復してしまったようだ。
「愚弟、次はしっかりやれよ?」
「は、はい……姉上」
雌型の魔族がその場を離れた。くるっと踵を返し、森の奥へと消えていく。
「ドドリーさん! 見失わないよう、接敵しすぎないように追ってください!」
セイラが間髪入れずに判断を下した。
「うむ、任された!」
ドドリーが雌型を追って森に入る。いかに魔族とて、森の中でエルフから逃げ切ることはできないだろう。
「儂らは雌型の魔族を追う。あの幼体はお主たちに任せることになるが、良いか? 決して無茶はするでないぞ? 無理だと思ったら、とにかく攻撃をいなし続けて儂らを待つのじゃ」
「分かった。リュグ爺たちも気を付けてくれ」
ユズリアとサナを一瞥する。二人とも異論はないようだ。
「某はリュグ爺殿たちについていくでありまする。あの雌型、三人では厳しいでありましょう?」
「コノハさん、助かります。それでは、お三方とも陽光神様の御加護があらんことを」
リュグ爺が俺に目を向ける。
「おそらく、魔族と一番相性が悪いのはお主じゃ」
「……だろうな」
黒いもやのせいで『固定』はほとんど機能しない。今の俺に出来ることは何だろうか。
「英雄になりたいか?」
リュグ爺の質問の意図は分からない。でも、そんなの決まっているだろう?
「興味ない。俺はここでみんなと平穏に暮らしたいんだ」
リュグ爺が相好を崩す。
「ふぉっ、ふぉっ、それで結構。ならば、いざという時はあの魔法も視野に入れよ」
あの魔法とは『消滅』のことだろう。リュグ爺がなぜ知っているのかは分からない。けれど、確かに意味は伝わった。
どんな手だろうと、この場所を魔族なんかに壊させはしない。この生活を、聖域を、そしてみんなを守れるのならば、俺はユズリアとの約束を破ることになろうとも、もう一度『消滅』を使う。
「そんなことはさせないわ! 私が、ロアを守る!」
「お兄にあれはもう使わせない。あんな奴、私だけで十分」
二人が息巻く。頼もしい奴らだ。
「やれやれ、いっつも何か起きる変な場所だよ、ここは!」
俺だって二人の笑顔を守りたい。だから、全力で抗うんだ。この理不尽に――!
「リュグ爺が英雄の一人、それも一番の功労者と言われているあの無頼漢の王だって!?」
セイラは時折、飛んでくる流れ魔弾を都度鬱陶しそうに錫杖で弾く。
「はい。私を育ててくださった先生も英雄がお一方でして、リュグ爺様には昔からよくしてもらっておりました」
「無頼漢の王って、似合わない」
サナがぼそりと呟く。
「先生曰く、リュグ爺様はそれはもう手のつけられない程の荒くれだったそうですよ? それなりの色男だったとか、何とか」
「リュグ爺殿が二枚目とは、何とも想像し難いでありまするな」
「ふふっ、私も半信半疑ではあります。先生の異性の好みは少しだけおかしかったですから」
ドドリーは少しもおかしくないのだろうか。確かに顔は良いが……やはり師弟とは似るものなのかもしれない。
「でも、魔族ってS級冒険者五人でようやく倒せたんでしょ? リュグ爺一人じゃ、勝てないんじゃ……。私、やっぱりサポートに行く!」
「あの魔族はまだ幼体です。リュグ爺様一人で問題ないでしょう」
巨大な風の刃を真っ赤に燃える片刃の大剣で次々と弾くリュグ爺。確かにその表情に苦戦の色は全く見えない。対して、魔族は片翼があらぬ方向にへし曲がり、全身から青黒い血を滴らせていた。最初に比べ、口数も随分と減っている。
しかし、今でこそ魔族をリュグ爺の独壇場となっているが、いまだに魔族の放つ魔法は詠唱速度も、威力も、全てが人類には到底再現のできない化け物じみたものだ。
あれでまだ成体でないと言うのだから恐ろしい。リュグ爺がいなかったらと思うと、心底ゾッとする。
「成体にならんと自己回復は出来んようじゃな」
「ぬぅあぁあぁあああッ! 調子に乗るなよ下等生物ぅううッ!」
魔族の足元を中心に聖域を囲んでしまうほどの巨大な魔法陣が展開する。息苦しいほどの濃密な魔力が練り上げられていくのが分かった。
魔族が掲げた手の先に石ころのような小さな風の魔弾がつくられる。魔弾は高速で回転しながら徐々に大きさを増していく。
「お、おいおい……それは駄目だろ……」
影が地面を覆う。空を埋め尽くすほどに膨れ上がった魔弾が太陽を遮った。強烈な追い風が吹き荒れ、魔弾へと収束していく。身体の小さいコノハが足を浮かす。吸い込まれるように身体の自由を失うコノハを掴み、脇に抱える。
「た、助かったでありまする……」
「それより、あんなものが落ちてきたら止めようがないぞ!?」
そうなれば、もはや被害は甚大だ。聖域など跡形も残らないだろう。それどころか、魔素の森の大部分が消滅しそうな程だ。
「ギャハッハハハッハッ! よくもここまでこけにしてくれたな下等生物。褒美をくれてやろう!」
おそらく、あの馬鹿でかい魔弾にも黒のもやがコーティングされているはず。つまり、俺の『固定』やサナの『解除』はもちろん、その他の魔法も全てが無力だ。止めるには物理的手段で受け止める他ない。
「それはちとまずいのお」
リュグ爺の口ぶりから察するにまだ窮地という感じではなさそうだ。もしかしたら、対抗策を持ちうるのかもしれない。もはや、今の頼みの綱はリュグ爺だけだ。
刹那、追い風が止んだ。一瞬の静寂の後、魔弾の真ん中から上がずるっとズレた。まるで、何かが横一閃に斬ったような……。
ピシッという小さな音が聞こえた。次の瞬間、魔弾が網目上に断割れ、凄まじい風の衝撃を吹き散らして瓦解する。
「な、何が起きたのぉ!?」
飛ばされるサナを俺が、ユズリアを戻ってきたドドリーが手を掴む。体勢を崩したことで足が浮きそうになり、慌てて地面と靴を『固定』する。
目を開けることもかなわない最中、リュグ爺が宙から下ろされて地面に着地した気配がした。
「全員無事かの?」
どうやら、リュグ爺ですら視界を奪われているようだ。全員の声が騒音に紛れて聞こえた。
「リュグ爺がやったのか!?」
「いいや、儂ではないわい。どうやら、簡単にはいかなそうじゃな」
脇に抱えたコノハの手元がぼやっと光るのが薄目で見えた。
「ロア殿、皆の足元に『固定』を――!」
「わ、分かった!」
言われた通り、全員の靴と地面を『固定』。それを確認し、コノハが『異札術』を発動する。下から押し上げるような突風が沸いた。その風が横なぎに吹き荒れる風の流れを強引に上へと変える。竜巻のように渦を巻いて上空へ全ての風が突き抜ける。
ようやく、風の脅威が止まった。
「ま、魔族は!?」
ユズリアの声に上空へと目を向ける。
思わず、息を呑んだ。それと同時にあることを思い出した。湖にあった黒い繭は一つではなかったということを。
傷だらけの魔族の頭を、別の魔族が鷲掴んでいた。その目つきは心臓が凍りつきそうな程冷たく、鋭かった。長い朱色の髪をなびかせ、体格も女性のものだ。
「あ、姉上……。どうしてここに?」
傷だらけの魔族が怯えたように発する。
「愚弟のせいだろう? 私は言った通り人族の国を一つ滅ぼしてきたぞ? それがお前と来たら、何をこんな数人に手こずっておる」
「ご、ごめんなさい……姉上……」
「ここは我らの弱点となる場所だと言っただろう。確実に潰さなければならないのだ。だというのにあのような大仰な魔法、放った瞬間お前はあの年寄りに殺されていたぞ?」
刹那、リュグ爺が動いた。歪みを見せるよりも早くその場から姿を消し、雌型の魔族の背後を取る。雷撃を纏った双剣で斬り放つ。
しかし、雌型の魔族は容易く反応してみせた。鷲掴んだ魔族を斬撃の盾がわりに受け止める。十字に雷鳴が轟き、魔族の身体を深く削り取る。
不快な絶叫が辺りに反響した。
「それとも、死にたかったのか?」
雌型の魔族はリュグ爺を眼中にすら入れない。
それからリュグ爺の縦横無尽の攻撃が雌型の魔族を襲うが、その全てをもう一方の魔族で受けた。片方の魔族はもう息も絶え絶えだ。
「どうしてあんなことを……仲間じゃないの!?」
「俺らからすればありがたい話だが、あの雌型の魔族、リュグ爺の攻撃をああも容易くいなすなんて」
「おそらくは成体でしょうね……」
セイラの表情はいつになく険しい。それだけ、あの雌型の魔族が計り知れない脅威だということだ。
一際、大きな剣が炎の柱を立てて空気とボロボロの魔族を焦がす。その衝撃に乗じて、リュグ爺が空間を飛んで戻ってくる。その額には汗が滲んでいた。
「ふう……まずいのお」
「で、でも、一体の魔族はもう戦えなそうだし、七人いれば何とか倒せるんじゃ……」
ユズリアの言葉にリュグ爺が首を振る。
「あの雌型、おそらく五十年前の魔族よりも手こずりそうだのお。それにな、成体の魔族の厄介なところは回復魔法にも長けているところじゃ」
雌型の魔族が黒いもやで己ともう一方の魔族を包み込む。球体状となった隙間から黒い光が漏れる。
「ふっはっはっ! 久々に腕がなるというものよ!」
「即死以外ならば私が回復しましょう」
「某も戦うでありまする!」
黒いもやが晴れる。そこにはもちろん二体の魔族。雌型の魔族と、先ほどまでの傷痕が綺麗さっぱり消えた雄型の魔族。表情こそ固いものの、どうやらリュグ爺の与えたダメージは回復してしまったようだ。
「愚弟、次はしっかりやれよ?」
「は、はい……姉上」
雌型の魔族がその場を離れた。くるっと踵を返し、森の奥へと消えていく。
「ドドリーさん! 見失わないよう、接敵しすぎないように追ってください!」
セイラが間髪入れずに判断を下した。
「うむ、任された!」
ドドリーが雌型を追って森に入る。いかに魔族とて、森の中でエルフから逃げ切ることはできないだろう。
「儂らは雌型の魔族を追う。あの幼体はお主たちに任せることになるが、良いか? 決して無茶はするでないぞ? 無理だと思ったら、とにかく攻撃をいなし続けて儂らを待つのじゃ」
「分かった。リュグ爺たちも気を付けてくれ」
ユズリアとサナを一瞥する。二人とも異論はないようだ。
「某はリュグ爺殿たちについていくでありまする。あの雌型、三人では厳しいでありましょう?」
「コノハさん、助かります。それでは、お三方とも陽光神様の御加護があらんことを」
リュグ爺が俺に目を向ける。
「おそらく、魔族と一番相性が悪いのはお主じゃ」
「……だろうな」
黒いもやのせいで『固定』はほとんど機能しない。今の俺に出来ることは何だろうか。
「英雄になりたいか?」
リュグ爺の質問の意図は分からない。でも、そんなの決まっているだろう?
「興味ない。俺はここでみんなと平穏に暮らしたいんだ」
リュグ爺が相好を崩す。
「ふぉっ、ふぉっ、それで結構。ならば、いざという時はあの魔法も視野に入れよ」
あの魔法とは『消滅』のことだろう。リュグ爺がなぜ知っているのかは分からない。けれど、確かに意味は伝わった。
どんな手だろうと、この場所を魔族なんかに壊させはしない。この生活を、聖域を、そしてみんなを守れるのならば、俺はユズリアとの約束を破ることになろうとも、もう一度『消滅』を使う。
「そんなことはさせないわ! 私が、ロアを守る!」
「お兄にあれはもう使わせない。あんな奴、私だけで十分」
二人が息巻く。頼もしい奴らだ。
「やれやれ、いっつも何か起きる変な場所だよ、ここは!」
俺だって二人の笑顔を守りたい。だから、全力で抗うんだ。この理不尽に――!
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