35 / 61
第1部
【31】温泉
しおりを挟む
聖域の隅で、俺は石造りの小さな墓に手を合わせる。隣でサナも同じようにしていた。彼女がゆっくりと目を開いたのを見て、立ち上がる。
「そろそろ行くぞ」
「うん……」
少しして、振り返る。本当は母親と同じ墓に眠らせてあげたかった。だけど、俺とサナの故郷は遥か遠い。だからせめて、俺たちはずっと近くにいてあげようと思う。
「父さん、また明日ね」
あの戦いの後、意識を覚ました俺の傍らにはユズリア、そして少し離れたところにベイクの姿があった。誰かがローリックの手から彼を解放してくれたのだ。
他人の魔法による所有物を勝手に解き放つことなんて、それこそS級の冒険者の聖属性の魔法じゃなきゃ考えられない。ユズリアの怪我が治っていたことも考えるに、十中八九セイラのおかげだろう。
肝心の彼女は数日前からどこかへ行ってしまっているわけで、未だ感謝を伝えられていないわけだが。
夕暮れ前にドドリーが狩りから戻って来た。いつもはほぼ必ず七獣鳥や蛇骨牛を仕留めてくるのだが、珍しいことに今回は成果が無かったみたいだ。
ドドリーはやけに神妙な顔つきだった。言っては何だが、とても似合わない。人柄を知らなければ、美形が物憂げでミステリアスなオーラを放っているように見えるのだろう。しかし、俺たちは普段のドドリーを知っているわけで、それこそ明日にでも空から槍が降るんじゃないかと思わされる。
「らしくないな。不調だったか?」
「うむ、もしかしたらそうかもしれん。しかし、妙ではあるな」
もしかしたら、先ほど感じ取った魔力のことだろうか。しかし、それはつい先ほどのことだ。朝から狩りに出ていたドドリーならば早いうちに獲物を見つけ出していたはずだ。
「セイラがいないと調子も出ないか?」
「十年や二十年くらい、何てことはあるまいよ」
流石は長寿種族。人間との感覚のずれが桁違いだ。
ドドリー曰く、なぜか森から生き物の気配が薄くなっているらしい。息をひそめているのか、それとも本当に個体数が何らかの原因で急速に減っているのか、はっきりとは分からないみたいだ。しかし、それと相反するように植物が普段よりもざわついているらしく、その両方がドドリーは今まで経験したことがないと言う。
長い生涯の大半を自然と共に過ごすエルフが経験したことのない事態とは、聞いているこちらまでつい良くない方向に考えてしまう。
「まあ、俺もエルフの中では赤子同然の若輩者。たったの百五十年しか生きていないのだ。知らないことがあってもおかしくはなかろう」
「それにここは何が起きてもおかしくはない人類圏の外側だしな。常識が通用しないことも多々ある話なんだろ」
それでも聖域にいれば安全に思える。なんせ、ここには魔物が一匹でも近寄ってきたことはない。一帯が浄化されているとはいえ、普通ならば魔物だって迷い込んでくるもの。それがただの一度もないとなると、やはり泉の浄化能力は一般的な聖水や『浄化魔法』とは比べ物にならないという証だ。
結局、その日は何も起こらなかった。やはり、気にし過ぎなのだろう。
次の日の夕方、セイラとリュグ爺が帰って来た。セイラは満足げな表情で、対してリュグ爺はいつも以上に背中が丸っこく感じた。疲れているのだろうか。
「二人してどこに行ってたんだ? こっちは大変だったんだぞ?」
錫杖の先端に赤がこびりついているのは追及しないでおこう。藪は突かないに限る。
「本当ならばとっくに帰って来れているはずだったんだがのお。この娘っ子が興に乗りおってな……」
「うふふっ、調教のし甲斐がある羊でした。年甲斐にもなくはしゃいでしまってお恥ずかしい限りですわ」
一体、何の話やらさっぱりだが、これ以上聞いてはいけない気がした。俺が長年一人で冒険者を続けてこれた危険を察知するセンサーが、それはもう盛大に鳴り響いている。
「ふぅ……それにしても疲れたわい。お主、すまぬが風呂を沸かしてもらっていいかの?」
「おっ? リュグ爺は風呂を所望か? ちょうど今日、露天の大きな風呂をつくったところだ」
今日は自分でも珍しく、朝から一度も腰を落ち着けていない。
普段の重い腰を持ち上げてまでつくったもの、それが吹き抜けの大きな風呂だ。大陸の北方では〝温泉〟というらしい。せっかく誰のものでもない広大な敷地があるんだ。有効活用させてもらおうという魂胆である。
もちろん、各家に風呂場は設けている。しかし、やっぱり広い風呂に清々と入りたいじゃないか。
そこで、まだ未開拓だった平原の西を丸々と使い、巨大な温泉をつくった。ドドリーとユズリアも手伝ってくれたおかげで、一日で完成までこぎ着けた。内装などはあまり気にしなくていい分、家一軒建てるよりも簡単だった。なんせ『固定』さえあれば、大きさなどは問題じゃない。
源泉とはいかないのが多少残念ではあるが、生活魔法で出したお湯に泉の水を少し垂らすだけで、抜群の浄化と疲労回復の効能を持った温泉の完成だ。疲れを取るどころか、元気になってしまいそうだ。
「おぉ! これはまた大層な仕上がりじゃのお!」
石畳を敷き詰め、一方を木彫りの浴槽に、もう片方を石堀の浴槽に仕立てた。これにはリュグ爺も年甲斐もなく声を荒げるというものだ。
「日ごとに男女入れ替えようと思ってさ、どうせなら楽しみがあったほうがいいだろ?」
目の前の景色が少し味気ないのが残念ではある。そこはまた追々センスのある人たちに考えてもらうとしよう。温泉での俺の仕事はこれまでだ。
せっかくなので、皆で入ってみることにした。娯楽が薄い分、こういうのは皆で感想を共有するに限る。
「ふぃ~、疲れが吹き飛ぶわい」
「うむ、エルフは水浴びしかせんが、これはこれでまた良いものだ!」
湯船は男三人が入っても十分に広さが残る。どうせなら、とことん開放的にしてやろうと思って少し大きく作りすぎたかもしれない。しかし、念には念を入れて、というやつだ。もしかしたら、これからまだまだ人が増えるかもしれないだろうし。
「しかし、若いのに温泉なんて文化、よく知っておったのお。これはごく一部の国にしか伝わっていなかったはずじゃが」
「数年前に偶然依頼で立ち寄った村で教えてもらったんだ。標高の高い場所だったから、温泉からの明媚な景色がすごくてさ、こうやって風呂に入るのも良いなあって思ったんだ」
仕切りを隔てた向こうの風呂から声が聞こえてきた。無論、変な気は無いにしろ、否応なしに耳を傾けてしまう。悲しい男の性だ。ぴたりと男湯から会話が途絶える。
「あらぁ~、広い浴場ですね」
「これが庶民の文化なのね。ちょっと恥ずかしいわ……」
ふむ、確かに貴族のユズリアには他人と風呂に入るなんて習慣は無いのかもしれない。あってもメイドとかくらいだろう。
俺とサナなんて小さい頃は毎回一緒に入っていたもんだ。田舎では節約が基本。魔力持ちのいない家庭では風呂を沸かすのだって一苦労なのだ。
「ロア殿ー! そちらはどうでありまする?」
「コノハ、お兄が欲情する。あんまりはしゃがない」
「するわけないだろっ!」
思わず返事をしてしまった。少しだけ気まずいのは何故だろうか。
その後も男湯は相変わらず会話が少なく、ひたすら女性陣の会話が筒抜けで聞こえてきた。ちょっと仕切りが薄すぎたかもしれない。もちろん、そこは信頼関係だ。間違いがあってはならない。というか、覗く勇気などあるはずもない。
サナにバレたらその日が命日だ。そんなリスクを冒してまで見たい相手がいるわけでもあるまい。
理想の年上のお姉さんがいれば、それはまた話は別だが。
「むっ、お兄の不純な気配」
だから、どうして分かるんだ妹よ。
「ロアー! 私のならいつでも見ていいんだからねー!」
「その胸はお兄の教育に良くない。セイラも」
「ロア殿は胸部の大きな方が好きなのでありまするか?」
「うふふっ、男性とは皆、そういうものです」
人の聞こえるところで何て話をしているんだ。聞いてるこっちが恥ずかしくなる。
「はっはっはっ! 兄弟は人気者だな!」
「全くけしからんのお。ちなみに儂は貧相なのも良いと思える派じゃ」
聞いてないよリュグ爺……。ちなみに俺もどちらでもいける派だ。静かにリュグ爺と握手を交わすと、なんとドドリーまで手を重ねてきた。
やれやれ、向こうの女性陣は大きな勘違いをしている。男という生き物は大抵、どちらでもいける派だ。
「今夜は良い酒が飲めそうじゃな」
「酒は無いぞ」
「ふむ、今度エルフの秘酒をつくってやろう。皆で呑み交わすぞ」
「なるべく早く頼む!」
馬鹿げた話で盛り上がれる。これもまた、男の特権というもの。下世話な話だが、こういうことは一人じゃ出来なかったことだ。
改めて、一人で暮らそうと思っていた自分がどれだけ間違っていたのか痛感する。俺は一人じゃ何も出来ない。皆がいるから、こんな素晴らしい暮らしが出来るのだ。もっと感謝しなきゃな。
こんな会話でそれを痛感するのもどうなんだって話だけど。
「あっ、そうだ、リュグ爺」
「なんじゃ?」
すっかり忘れていた。昨日の違和感をリュグ爺が帰ってきたら聞いてみようと思っていたんだ。謎の魔力の気配のこと、ドドリーが感じた森の異変のこと。リュグ爺ならば、何か知っているかもしれない。なんとなく、リュグ爺が聖域に留まっている理由に関係している気がした。
「昨日、変なことがあ――」
「ロアー! 私たち、そろそろ出るわよー!」
話を遮るように仕切りの向こうから声が飛んでくる。
「俺たちももう出るよ!」
別に早急に話すことでもないか。良い雰囲気を壊すのも気が引ける。
また明日にでも話してみよう。
次の日、俺は遠くで魔力が弾ける気配で目が覚めた。
「そろそろ行くぞ」
「うん……」
少しして、振り返る。本当は母親と同じ墓に眠らせてあげたかった。だけど、俺とサナの故郷は遥か遠い。だからせめて、俺たちはずっと近くにいてあげようと思う。
「父さん、また明日ね」
あの戦いの後、意識を覚ました俺の傍らにはユズリア、そして少し離れたところにベイクの姿があった。誰かがローリックの手から彼を解放してくれたのだ。
他人の魔法による所有物を勝手に解き放つことなんて、それこそS級の冒険者の聖属性の魔法じゃなきゃ考えられない。ユズリアの怪我が治っていたことも考えるに、十中八九セイラのおかげだろう。
肝心の彼女は数日前からどこかへ行ってしまっているわけで、未だ感謝を伝えられていないわけだが。
夕暮れ前にドドリーが狩りから戻って来た。いつもはほぼ必ず七獣鳥や蛇骨牛を仕留めてくるのだが、珍しいことに今回は成果が無かったみたいだ。
ドドリーはやけに神妙な顔つきだった。言っては何だが、とても似合わない。人柄を知らなければ、美形が物憂げでミステリアスなオーラを放っているように見えるのだろう。しかし、俺たちは普段のドドリーを知っているわけで、それこそ明日にでも空から槍が降るんじゃないかと思わされる。
「らしくないな。不調だったか?」
「うむ、もしかしたらそうかもしれん。しかし、妙ではあるな」
もしかしたら、先ほど感じ取った魔力のことだろうか。しかし、それはつい先ほどのことだ。朝から狩りに出ていたドドリーならば早いうちに獲物を見つけ出していたはずだ。
「セイラがいないと調子も出ないか?」
「十年や二十年くらい、何てことはあるまいよ」
流石は長寿種族。人間との感覚のずれが桁違いだ。
ドドリー曰く、なぜか森から生き物の気配が薄くなっているらしい。息をひそめているのか、それとも本当に個体数が何らかの原因で急速に減っているのか、はっきりとは分からないみたいだ。しかし、それと相反するように植物が普段よりもざわついているらしく、その両方がドドリーは今まで経験したことがないと言う。
長い生涯の大半を自然と共に過ごすエルフが経験したことのない事態とは、聞いているこちらまでつい良くない方向に考えてしまう。
「まあ、俺もエルフの中では赤子同然の若輩者。たったの百五十年しか生きていないのだ。知らないことがあってもおかしくはなかろう」
「それにここは何が起きてもおかしくはない人類圏の外側だしな。常識が通用しないことも多々ある話なんだろ」
それでも聖域にいれば安全に思える。なんせ、ここには魔物が一匹でも近寄ってきたことはない。一帯が浄化されているとはいえ、普通ならば魔物だって迷い込んでくるもの。それがただの一度もないとなると、やはり泉の浄化能力は一般的な聖水や『浄化魔法』とは比べ物にならないという証だ。
結局、その日は何も起こらなかった。やはり、気にし過ぎなのだろう。
次の日の夕方、セイラとリュグ爺が帰って来た。セイラは満足げな表情で、対してリュグ爺はいつも以上に背中が丸っこく感じた。疲れているのだろうか。
「二人してどこに行ってたんだ? こっちは大変だったんだぞ?」
錫杖の先端に赤がこびりついているのは追及しないでおこう。藪は突かないに限る。
「本当ならばとっくに帰って来れているはずだったんだがのお。この娘っ子が興に乗りおってな……」
「うふふっ、調教のし甲斐がある羊でした。年甲斐にもなくはしゃいでしまってお恥ずかしい限りですわ」
一体、何の話やらさっぱりだが、これ以上聞いてはいけない気がした。俺が長年一人で冒険者を続けてこれた危険を察知するセンサーが、それはもう盛大に鳴り響いている。
「ふぅ……それにしても疲れたわい。お主、すまぬが風呂を沸かしてもらっていいかの?」
「おっ? リュグ爺は風呂を所望か? ちょうど今日、露天の大きな風呂をつくったところだ」
今日は自分でも珍しく、朝から一度も腰を落ち着けていない。
普段の重い腰を持ち上げてまでつくったもの、それが吹き抜けの大きな風呂だ。大陸の北方では〝温泉〟というらしい。せっかく誰のものでもない広大な敷地があるんだ。有効活用させてもらおうという魂胆である。
もちろん、各家に風呂場は設けている。しかし、やっぱり広い風呂に清々と入りたいじゃないか。
そこで、まだ未開拓だった平原の西を丸々と使い、巨大な温泉をつくった。ドドリーとユズリアも手伝ってくれたおかげで、一日で完成までこぎ着けた。内装などはあまり気にしなくていい分、家一軒建てるよりも簡単だった。なんせ『固定』さえあれば、大きさなどは問題じゃない。
源泉とはいかないのが多少残念ではあるが、生活魔法で出したお湯に泉の水を少し垂らすだけで、抜群の浄化と疲労回復の効能を持った温泉の完成だ。疲れを取るどころか、元気になってしまいそうだ。
「おぉ! これはまた大層な仕上がりじゃのお!」
石畳を敷き詰め、一方を木彫りの浴槽に、もう片方を石堀の浴槽に仕立てた。これにはリュグ爺も年甲斐もなく声を荒げるというものだ。
「日ごとに男女入れ替えようと思ってさ、どうせなら楽しみがあったほうがいいだろ?」
目の前の景色が少し味気ないのが残念ではある。そこはまた追々センスのある人たちに考えてもらうとしよう。温泉での俺の仕事はこれまでだ。
せっかくなので、皆で入ってみることにした。娯楽が薄い分、こういうのは皆で感想を共有するに限る。
「ふぃ~、疲れが吹き飛ぶわい」
「うむ、エルフは水浴びしかせんが、これはこれでまた良いものだ!」
湯船は男三人が入っても十分に広さが残る。どうせなら、とことん開放的にしてやろうと思って少し大きく作りすぎたかもしれない。しかし、念には念を入れて、というやつだ。もしかしたら、これからまだまだ人が増えるかもしれないだろうし。
「しかし、若いのに温泉なんて文化、よく知っておったのお。これはごく一部の国にしか伝わっていなかったはずじゃが」
「数年前に偶然依頼で立ち寄った村で教えてもらったんだ。標高の高い場所だったから、温泉からの明媚な景色がすごくてさ、こうやって風呂に入るのも良いなあって思ったんだ」
仕切りを隔てた向こうの風呂から声が聞こえてきた。無論、変な気は無いにしろ、否応なしに耳を傾けてしまう。悲しい男の性だ。ぴたりと男湯から会話が途絶える。
「あらぁ~、広い浴場ですね」
「これが庶民の文化なのね。ちょっと恥ずかしいわ……」
ふむ、確かに貴族のユズリアには他人と風呂に入るなんて習慣は無いのかもしれない。あってもメイドとかくらいだろう。
俺とサナなんて小さい頃は毎回一緒に入っていたもんだ。田舎では節約が基本。魔力持ちのいない家庭では風呂を沸かすのだって一苦労なのだ。
「ロア殿ー! そちらはどうでありまする?」
「コノハ、お兄が欲情する。あんまりはしゃがない」
「するわけないだろっ!」
思わず返事をしてしまった。少しだけ気まずいのは何故だろうか。
その後も男湯は相変わらず会話が少なく、ひたすら女性陣の会話が筒抜けで聞こえてきた。ちょっと仕切りが薄すぎたかもしれない。もちろん、そこは信頼関係だ。間違いがあってはならない。というか、覗く勇気などあるはずもない。
サナにバレたらその日が命日だ。そんなリスクを冒してまで見たい相手がいるわけでもあるまい。
理想の年上のお姉さんがいれば、それはまた話は別だが。
「むっ、お兄の不純な気配」
だから、どうして分かるんだ妹よ。
「ロアー! 私のならいつでも見ていいんだからねー!」
「その胸はお兄の教育に良くない。セイラも」
「ロア殿は胸部の大きな方が好きなのでありまするか?」
「うふふっ、男性とは皆、そういうものです」
人の聞こえるところで何て話をしているんだ。聞いてるこっちが恥ずかしくなる。
「はっはっはっ! 兄弟は人気者だな!」
「全くけしからんのお。ちなみに儂は貧相なのも良いと思える派じゃ」
聞いてないよリュグ爺……。ちなみに俺もどちらでもいける派だ。静かにリュグ爺と握手を交わすと、なんとドドリーまで手を重ねてきた。
やれやれ、向こうの女性陣は大きな勘違いをしている。男という生き物は大抵、どちらでもいける派だ。
「今夜は良い酒が飲めそうじゃな」
「酒は無いぞ」
「ふむ、今度エルフの秘酒をつくってやろう。皆で呑み交わすぞ」
「なるべく早く頼む!」
馬鹿げた話で盛り上がれる。これもまた、男の特権というもの。下世話な話だが、こういうことは一人じゃ出来なかったことだ。
改めて、一人で暮らそうと思っていた自分がどれだけ間違っていたのか痛感する。俺は一人じゃ何も出来ない。皆がいるから、こんな素晴らしい暮らしが出来るのだ。もっと感謝しなきゃな。
こんな会話でそれを痛感するのもどうなんだって話だけど。
「あっ、そうだ、リュグ爺」
「なんじゃ?」
すっかり忘れていた。昨日の違和感をリュグ爺が帰ってきたら聞いてみようと思っていたんだ。謎の魔力の気配のこと、ドドリーが感じた森の異変のこと。リュグ爺ならば、何か知っているかもしれない。なんとなく、リュグ爺が聖域に留まっている理由に関係している気がした。
「昨日、変なことがあ――」
「ロアー! 私たち、そろそろ出るわよー!」
話を遮るように仕切りの向こうから声が飛んでくる。
「俺たちももう出るよ!」
別に早急に話すことでもないか。良い雰囲気を壊すのも気が引ける。
また明日にでも話してみよう。
次の日、俺は遠くで魔力が弾ける気配で目が覚めた。
412
お気に入りに追加
1,541
あなたにおすすめの小説
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?
妹に出ていけと言われたので守護霊を全員引き連れて出ていきます
兎屋亀吉
恋愛
ヨナーク伯爵家の令嬢アリシアは幼い頃に顔に大怪我を負ってから、霊を視認し使役する能力を身に着けていた。顔の傷によって政略結婚の駒としては使えなくなってしまったアリシアは当然のように冷遇されたが、アリシアを守る守護霊の力によって生活はどんどん豊かになっていった。しかしそんなある日、アリシアの父アビゲイルが亡くなる。次に伯爵家当主となったのはアリシアの妹ミーシャのところに婿入りしていたケインという男。ミーシャとケインはアリシアのことを邪魔に思っており、アリシアは着の身着のままの状態で伯爵家から放り出されてしまう。そこからヨナーク伯爵家の没落が始まった。
【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する
土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。
異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。
その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。
心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。
※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。
前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。
主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。
小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした
カレイ
恋愛
「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」
それが両親の口癖でした。
ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。
ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。
ですから私決めました!
王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
【完結】初夜の晩からすれ違う夫婦は、ある雨の晩に心を交わす
春風由実
恋愛
公爵令嬢のリーナは、半年前に侯爵であるアーネストの元に嫁いできた。
所謂、政略結婚で、結婚式の後の義務的な初夜を終えてからは、二人は同じ邸内にありながらも顔も合わせない日々を過ごしていたのだが──
ある雨の晩に、それが一変する。
※六話で完結します。一万字に足りない短いお話。ざまぁとかありません。ただただ愛し合う夫婦の話となります。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる