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第1部

【23】老人の戯言

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 ドドリーとセイラに一軒、リュグ爺に一軒、新しく家を建てた。幸いなことに聖域にはまだまだ十分な広さがある。何なら、じわじわと聖域が広がっているんじゃないかとさえ思えた。
 これで聖域に住む住人は俺を合わせて七人。しかも、全員がS級指定の危険地帯を一人で生き延びれる紛れもない化け物だ。
 この七人がいれば、恐らく国の一つくらい容易く落とせるだろう。

「よし、家に関してはこれでいいかな。後、希望とかある?」

 ドドリーとセイラは特に無いといった素振りを取る。

「では、儂から一ついいかな?」

 リュグ爺が曲がった腰をそのままに、顔を上げる。
 こうしてみると、本当にただの老人なんだよなあ。強者特有の気配を抑えるようなものも見受けられない。

「儂らは何をすればいいのじゃ?」

「何をって、何が?」

 リュグ爺がはて? とでも言いたげに首を傾げる。

「お主はここの長なんじゃろ? そして、儂らは住人じゃ。何かしら役目を与えられるものだと、思っとったんじゃがのお」

「俺がここの代表? 一体、誰がそんなことを言ったんだ?」

 リュグ爺は俺がこの場所をまとめる役だと思っているわけか。

「違ったんですか?」

「うむ、俺も兄弟が取り仕切っているものだと思っていたぞ」

 セイラとドドリーもリュグ爺に賛同した。つまり、二人も同じ考えだったらしい。
 全く、冗談じゃない。誰が好き好んでそんな面倒な役をしなければいけないんだ。

「今となってはこうして皆がいるけれど、俺は最初、一人でスローライフをするためにここへ来たんだ。ここを何かの組織みたいにするつもりはないよ」

「なんじゃ、そうじゃったのか」

「大体、俺は面倒事が大嫌いなんだ。だから、家を建てるのは俺しか出来ないからやるけれど、後は自分たちで何とかしてくれ」

 聖域は誰のものでもないんだ。皆が好きなように、生きたいように生きればいいだろう。
 住まいとか、食料に関してだけある程度共通管理のような形にすれば、後はいつ誰がどこに行こうが、何をして過ごそうが俺には知ったこっちゃない話だ。
 だから、そろそろ俺にもゆったりとした日々を過ごさせてくれ……。

「うむ、それもまたよかろう!」

「そうですね。そちらの方が余計ないざこざが起きないでしょう。これ以上人が増えたら話は別ですけれども」

 セイラさん、とてつもなくどでかいフラグを立てないでもらえないでしょうか。

「ふむ、それでも皆、何かあったらお主を頼るのじゃろうな」

「おいおい、勘弁してくれよ……」

「ふぉっ、ふぉっ、頼られるのは苦手と見えるのお。何かあればこの老骨も少しくらい相談に乗ってやるわい」

「助かるよ、リュグ爺」

 リュグ爺は相変わらず細い眼をしょぼしょぼさせて笑う。なんだか、サナと母親と暮らしていた時の近所のおじいさんを思いだす。

「私たち、今から昼食をつくろうと思いますけれど、リュグ爺様とロアさんもいかがですか?」

「おぉ、神官の娘や、料理は上達したかの? 昔はそれはもうひどい有様だったような覚えがあるのじゃが」

「ふふっ、リュグ爺様ったら。つくるのは私じゃなくて、ドドリーさんですわ」

「うむ、セイラの料理はいくら俺であっても命を落としかねん」

 錫杖がドドリーの腹に突き刺さる。セイラの変わらぬ笑みにも慣れてきたというものだ。
 ドドリーよ、本当、相談ならいつでも乗るぞ。男の約束だ。

「せっかくのところだけれど、俺は遠慮しておくよ。今からコノハが見つけた川を見に行くからさ」

「そうか、では今夜は川魚で宴だな!」

「まあ、期待せずに待っていてくれ。なんせ、こんな魔素の濃い場所にある川だからな」

 三人と別れ、畑の様子を見に行っていたコノハとサナと合流する。
 二人揃って土で手を汚していた。仲良くやっていそうで安心だ。そもそも、サナは最初からコノハのことを気に入っていたようだから、何の心配もしていなかった。
 コノハに関しては、里での出来事で他人を遠ざける傾向にあると思ったが、どうやら俺の信頼する人はもれなくコノハも信頼に置くようにしているらしい。全く、可愛い奴め。
 サナはもちろん、コノハやユーニャが嫁に行く時も、俺は泣いてしまうんだろうな。

「サナも付いてくるのか?」

「当たり前」

「そんな遠くないところでありまする。ユズリア殿が街から帰って来る夕暮れには、聖域の方に戻れるでありましょう」

 ユズリアには二日前から街の方に買い出しに行ってもらっている。やはり、未だ調味料や衣類などは定期的に買い出しに行かなければならないため、ユズリアには負担をかけてしまっていた。本人はさほど気にしていなそうだが、やっぱり何かしら考えておく方が今後のためだろう。
 やっぱり、商人が近寄れないというのが大きな要因だ。どこかにS級冒険者兼商人なんていう奇特な人物はいないものだろうか。
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