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第1部

【22-1】新規村人と謎の老人

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「ロア……?」
「お兄……?」

 二人がぐいっと顔を近づけてくる。

「「どっちを選ぶの?」」

 さらに距離を縮める二人。もう、二人の唇が俺の顔に触れそうだ。
 聞こえてくる鼓動が、俺のか二人のものか分からない。
 どうすんの、俺!? どうしちゃうの!?

「――って、そんなん選べるかあ!」

 自分の声が耳に伝わった。当たり前のことなのに、何かがおかしい。
 そうか、これは夢か。
 そして、今発した言葉は寝ぼけて現実の俺が口にしたものだ。
 というか、普通に考えて妹は駄目だろう。
 
 窓から差し込む朝陽が眩しすぎて、ほんの少し開けた眼を閉じて反対を向く。
 額にコツっと何かが触れた。規則的に聞こえてくる鼓動。そして、温かく、そこはかとない柔らかな感触。
 おやおや、やってしまいましたかね。まあ、朝っぱらだから事故だよな。ただの不可抗力だ。それにしても、おっぱいって案外柔らかくないんだなあ。
 昨日はユズリアとサナ、どっちと寝たんだっけ? うーむ……この控えめ過ぎる、なんなら少し硬いんじゃないかとすら思える感触。さては、サナだな?
 やれやれ、実の妹に欲情するわけにもいかない。バレる前にさっさと起きるか。

 名残惜しさを感じつつ、ゆっくりと目を開ける。
 視界一杯に広がる大きな胸板。褐色の肌。なぜかオイリーな筋肉。

「ふーっはっはっはっはッ! 兄弟よ! 寝坊か!?」

 ……なんだ、まだ夢か。やれやれ、悪夢を見ない魔法でもないもんかね。
 ゆっくりと目を閉じ、また開ける。
 うん、なるほどね。
 静寂の後、朝から喉が裂けんばかりの絶叫を発したのは、言うまでもないだろう。

           *

「ロア殿、どうしたでありまする?」

 朝から全員の居る前で十二歳の少女に縋りついてめそめそと泣く二十二歳の無職。
 悲しいかな、俺のことだ。

「お兄、大丈夫。まだ汚れていない」

 サナのよく分からない慰めがやけに染みる。

「うむ、ユズリアに頼まれて起こして来いと言われたが、随分にやけ面で幸せそうに寝ているものだから、起こすに起こせなかったぞ!」

「あらあら、ロアさん夢でも見ていたんですか?」

 セイラさん、深く追求しないでください。この場でその発言は非常に危ないんです。
 隣にびたっと椅子をくっつけるサナ。それを見て、反対側で同じように対抗するユズリア。
 あの、狭いんですけれど。

 サナが聖域に来てから二週間。なぜかことあるごとにサナとユズリアは小突き合っている。
 思考が似ているのか、やっぱり二人は案外相性が良いのかもしれない。二人とも友達少なそうだし、仲良くしてもらいたいものだ。

「そんなことより、何で二人がここにいるんだよ。街に戻ったんじゃなかったのか?」

「うむ。実はな、セイラと二人で逃げてきたのだ」

 なぜか平然とユズリアがつくった朝食をかき込むドドリー。エルフは肉を食べないと聞いていたけれど、こいつ普通にベーコン頬張ってやがる……。

「逃げてきたって、何からだよ?」

「ふぉれふぁだふぁ。ふぁふぇへふほぉ」

「食い終わってから話せ。コノハの教育に良くないだろ」

「あの……某は子供じゃないでありまする……」

 結局、セイラが状況を語った。
 なんでも二人はセイラの所属する教会から逃げてきたらしい。
 すっかり忘れていたことだが、聖職者は生涯未婚を貫かなければいけないという掟がある。結婚してはいけないというオブラートに包んだ言い回しだが実のところ、純潔を保て、清い身体と魂であれ、ということが核心だ。
 しかし、この掟は平民の俺でも知っているように、あってないような古いしきたり。実際、教会内部では司祭が新米の女性神官を食い物にするなんて話はしょっちゅう耳にする。
 無欲を精神とする教会は献金と称した巻き上げ、聖水の独占販売、そしてこのような劣情に塗れた組織なのだ。
 二人が逃げてきた理由もその卑しい情欲が原因らしい。

 その司祭は他国の教会から臨時で来た知れ者で、セイラがただの神官ではなく、S級冒険者かつ山のような巨岩を笑いながら粉砕するクレイジーな人だと知らなかったようだ。
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