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第1部

【14-2】初めての気持ち

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 洗い物を済ませ、大きく伸びをする。冒険者をやっているおかげで、庶民的な家事や作業については問題ないことが救いだろうか。
 天窓から差し込むたおやかな陽射しに、まだ昼下がりだというのに気分がぽやっとする。
 寒さも落ち着き、そろそろ暖かくなってきた。魔素の森に四季は見られず、気温でしか判別が付かないのは中々に厄介だ。

 外に出ると、一面に広がる芝生にぽつんと二人。いや、今は一人と一匹かもしれない。
 足を投げ出して空をぼんやり仰ぐロアと、その腿に頭を乗せて眠たげな目をしぱしぱさせるコノハ。ロアが頭を撫でる度に、狐耳と二股の尻尾が微かに反応を示す。

「だらしない顔しちゃってるわよ」

 ロアの隣に座ってみる。その横顔が、動かないまま私に意識を向ける。

「いいんだよ。誰が見てるわけでもない」

「私が見ているじゃない」

「寝顔までばっちり見られているんだ。なおさら、問題はないね」

 そう言いつつ、大きな欠伸をするロア。
 異性が近くにいるというのに、この気の抜けた表情。貴族の男性では絶対にありえない態度だ。

「かっこいいところを見てほしいと思わないの?」

 私の質問にロアは潤んだ眼を擦り、軽く声を漏らす。

「うーん、そりゃ、かっこ悪いよりかっこいいと思われた方が得だよな」

「損得の話?」

「いや、違うけど。なんて言うんだろうな、とにかく俺は疲れるから自分を繕うのは好きじゃないんだよ」

「変な人……。私はいつでもロアに可愛いって思われたいわよ?」

 ロアの肩に頭を預ける。ちょっと、ドキドキした。
 でも、師匠が男なんて過剰にスキンシップしておけば簡単に堕ちるって言ってたし。うん、私が変なだけなんだろう。
 ロアは苦笑いでちょっとだけ困ったようにしていた。
 師匠、中々堕ちてくれないんですけど。
 ふと、思いだした。そういえば、師匠ってしょっちゅう男性に逃げられて、私を愚痴相手にしていたっけ。

「いや、そりゃユズリアはいつでも可愛いけれど」

「んぐっ……!?」

 喉が詰まって軽くせき込んだ。どうして、こうも奇をてらったように変なタイミングで押してくるのだろう。

「わ、私だってロアのこと、いつもかっこいいと思ってますけどぉ?」

「さっき、呆れてたじゃないか……。それに最初からかっこつけてたら、気抜けた時に幻滅されるだろ? だから、むしろ自分の駄目なところを積極的に見せる。それでもついてきてくれる女が、本当に良い女だ」

「おぉ~、なんだか納得しちゃった」

「って、酒場の飲んだくれ爺が泥酔しながら語ってた」

「なるほど、年の功ってやつね!」

 そのおじいさん、私にも恋愛の極意的なやつを教えてくれないかしら。師匠の教えじゃ、不安すぎる。

「いや、ここは人の受け売りかい、ってツッコむところね」

「でも、私は良い方法だと思うわ! 今度、紹介して頂戴!」

「やめとけ。セクハラ魔だからな」

 と言いつつ、ロアは笑った。
 コノハはいつの間にか、小さな寝息を立てている。雲花のふんわりとした甘い匂いが陽気な風に揺られて香った。
 こんなゆったりした時間は、今まで経験したことが無かった。
 朝、少し遅く起きて三人で優しい味付けの朝食を取る。コノハは森へ狩りに、ロアは畑をいじりに行く間、私は家を掃除する。コノハとロアが戻って来たら遅めの昼食を取って、昼下がりはこうしてごろごろ。夜は気合を入れてつくった夕飯を囲み、長くお風呂に入って、温かいままに眠りにつく。
 なんだか、駄目人間にでもなってしまったみたいだ。でも、こういう生活も悪くない。
 現に、ずっと何かから逃げるように生活していた時より、胸中がずっと穏やかだ。まあ、別の意味でざわつくことも多々あるけれど。

 意識がすっと微睡むのが分かる。
 今ならまだ起きれるけど、どうしようかなあ。
 不意に頭を優しい手つきで撫でられる。
 ほら、そういうところだぞ……。
 温もりに包まれながら、軽い眠りについた。
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