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第8話: 「繋がりの断絶」
しおりを挟む冷たい風が吹きつける戦場の大地。リナは再び楽器を手に、音色で兵士たちを操る役目を果たしていた。戦いは熾烈を極め、王軍と敵軍が入り乱れた中、血と泥がリナの目にも飛び込んでくる。
「これが、また……」
小さく呟くリナの手は震えていた。それでも王の命令が頭に響き、指を動かして音色を紡ぐ。奏でられる音が戦場全体に広がり、兵士たちは次々と狂気のように戦意を上げて敵に斬りかかった。
そのときだった。
敵軍の中央にいる大将が、大きな声を張り上げた。
「リナ!」
その声に、リナは思わず弦を弾く手を止めた。音色が一瞬途切れ、戦場の喧騒の中にその名前だけがはっきりと聞こえた。
「どうして……?」
リナは敵軍の大将を見つめる。その顔はどこか見覚えがあった。戦場の荒々しさをまといながらも、優しさを感じさせる表情――彼は、かつてリナの家族と親しかった人物だった。
「リナ! 私だ! 覚えているか!」
彼の声に、リナの胸に微かな温かさが広がる。
「助けに来たんだ……!」
彼は剣を振るいながら、リナに向かって進んできた。その姿はまるで戦場の混乱をものともせず、彼女を守ろうとするように見えた。
「こんなところにお前がいるなんて、許せない……!」
彼の言葉に、リナの目に涙が浮かぶ。
「私は……」
助けたいと言われても、リナには自分がその手を取れる未来が想像できなかった。それでも、彼の言葉は確かに彼女の心に届いていた。彼が手を伸ばして私を抱き抱えようとした時。
しかし、その希望は一瞬にして奪われた。
「この戦場に情けは不要だ」
冷たい声が響き、王カイゼルが戦場の中心に現れた。彼は無表情のまま剣を構え、大将を一瞬で斬り伏せた。
「……っ!」
リナの目の前で倒れる大将。その目は驚きと無念に満ち、そして静かに閉じられた。血が地面に広がり、その赤がリナの視界を覆った。
リナの心は引き裂かれるようだった。
「どうして……どうしてこんなことに……」
口元が震え、涙が溢れそうになる。それでも、王が冷たい目で振り返ると、リナはその感情を押し殺さなければならなかった。
「お前の音色が弱まったせいで、戦場が乱れた。もう一度奏でろ」
王の冷たい命令に、リナはかすれた声で「……はい」と答えるしかなかった。
再び指を弦に置き、音色を奏でる。だが、その音には力がなかった。それでも、戦場の兵士たちは音に従い、敵軍を次々に追い詰めていく。
「私は……ただ命令に従うだけの……」
涙がこぼれるのを止められなかった。音色は戦場を制圧し、王軍は勝利を収めた。しかし、リナの胸には深い絶望が残った。
戦いの後、リナは幕舎で一人座り込んでいた。大将の最後の表情が何度も頭に浮かぶ。
「助けてくれると言ってくれたのに……私は何もできなかった……」
リナは膝を抱えて静かに泣いた。心の中で、家族を思い出しながら。
「私がいる限り、誰かが傷つく……」
その言葉は小さく震えて、夜の冷たい空気の中に消えていった。
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