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第一部
30.月のない夜
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「やあ」
月のない夜に、ハーディが舞い降りる。
月明りがないと、ランプの灯りだけでは心許ない。けれど長い脚はローブの裾をさっと払って、迷いなくわたしの座る寝台に近づいてくる。何度も繰り返しみた、いつもの彼。
やっと呪いが全部解けるというのに、わたしは自分がちっとも嬉しいと思っていないことに気づいた。
「呪いが解けたら、君は晴れて自由の身だ」
最後の呪いを解くのにはどうしたらいいのだろう。昨日の調子だと、ハーディは呪いを解く方法とやらを知っているはずだ。
「三つ目の呪いが発動する条件は何だと思う?」
わたしの呪いは普段は何もしないものだ。特定の条件下でのみ発動する。その時以外、わたし自身もその存在を忘れていることさえある。
けれど、そんなの、わたしにわかるはずもない。
仕方なくわたしは首を横に振った。
「じゃあ解く方法は何だと思う?」
「それが分かったら苦労しないわよ」
「それは確かにそうだな」
ハーディの手がするりと、ナイトウェアの上からわたしのお腹を撫でた。
「三つ目の呪いを解く方法はね、ここに精を受け入れること」
誰も受け入れたことのない場所に、ハーディを迎え入れる。
純潔を、彼に捧げる。
「その……わたしを抱くの?」
「そういうことになるね」
まるで、シチューを作るためにはじゃがいもの皮を剥かないといけないというように。平坦な声が言った。
「おれに抱かれて」
こういう展開を一度も考えなかったと言えば嘘になってしまう。
「犯されて、穢されて、傷物になった王女様はもうどこにも嫁げないかもしれない」
だけど、それはもっと幸せでやわらかで、あたたかな一つの終着点で、わたしはそれを夢見ていたと言ってもいい。
「それでも呪いを解きたい?」
少なくても、ハーディがこんな世界の終わりのような声で語るようなものではなかった。
「ハーディ?」
いつもとハーディの様子が違う気がした。銀の頭は俯いていて、表情が読めない。
「……いや、何でもない。忘れて」
覗き込もうとしたのに、ハーディはランプの灯を消してしまった。途端に、真っ暗闇になる。ランプの灯に慣れた目には何も見えない。
ばさりと、ハーディがローブを脱ぐ音がした。寝台が軋んで、見えない大きな手に押し倒される。
「ねえ、ハーディったら」
闇の中を探るように手を動かしたら、ハーディのシャツに触れた。それを掴んでぶんぶん振ると、静かな声が言った。
「だめだよ、王女様。大人しくして」
わたしの手首をハーディが掴む。ハーディにはわたしの姿が見えているんだろうか。もう片方の手も掴まれて、頭の上でまとめられた。
そのまま、ハーディはわたしの両手首をぎゅっと強く掴んだ。
「ちょっと、これ、なに」
両手が魔法で寝台に縫い付けられて、動かせなくなる。
「おれもあんまり余裕がないんだ」
パチンと指が鳴る。
ナイトウェアの感覚がなくなって、夜の空気が素肌に触れた。ついでに言うと下穿きもない。
太ももをハーディの手が撫でていく。たったそれだけのことで背筋がぞくぞくとした。何をされるのかわからない恐ろしさが、余計に官能を煽る。
月のない夜に、ハーディが舞い降りる。
月明りがないと、ランプの灯りだけでは心許ない。けれど長い脚はローブの裾をさっと払って、迷いなくわたしの座る寝台に近づいてくる。何度も繰り返しみた、いつもの彼。
やっと呪いが全部解けるというのに、わたしは自分がちっとも嬉しいと思っていないことに気づいた。
「呪いが解けたら、君は晴れて自由の身だ」
最後の呪いを解くのにはどうしたらいいのだろう。昨日の調子だと、ハーディは呪いを解く方法とやらを知っているはずだ。
「三つ目の呪いが発動する条件は何だと思う?」
わたしの呪いは普段は何もしないものだ。特定の条件下でのみ発動する。その時以外、わたし自身もその存在を忘れていることさえある。
けれど、そんなの、わたしにわかるはずもない。
仕方なくわたしは首を横に振った。
「じゃあ解く方法は何だと思う?」
「それが分かったら苦労しないわよ」
「それは確かにそうだな」
ハーディの手がするりと、ナイトウェアの上からわたしのお腹を撫でた。
「三つ目の呪いを解く方法はね、ここに精を受け入れること」
誰も受け入れたことのない場所に、ハーディを迎え入れる。
純潔を、彼に捧げる。
「その……わたしを抱くの?」
「そういうことになるね」
まるで、シチューを作るためにはじゃがいもの皮を剥かないといけないというように。平坦な声が言った。
「おれに抱かれて」
こういう展開を一度も考えなかったと言えば嘘になってしまう。
「犯されて、穢されて、傷物になった王女様はもうどこにも嫁げないかもしれない」
だけど、それはもっと幸せでやわらかで、あたたかな一つの終着点で、わたしはそれを夢見ていたと言ってもいい。
「それでも呪いを解きたい?」
少なくても、ハーディがこんな世界の終わりのような声で語るようなものではなかった。
「ハーディ?」
いつもとハーディの様子が違う気がした。銀の頭は俯いていて、表情が読めない。
「……いや、何でもない。忘れて」
覗き込もうとしたのに、ハーディはランプの灯を消してしまった。途端に、真っ暗闇になる。ランプの灯に慣れた目には何も見えない。
ばさりと、ハーディがローブを脱ぐ音がした。寝台が軋んで、見えない大きな手に押し倒される。
「ねえ、ハーディったら」
闇の中を探るように手を動かしたら、ハーディのシャツに触れた。それを掴んでぶんぶん振ると、静かな声が言った。
「だめだよ、王女様。大人しくして」
わたしの手首をハーディが掴む。ハーディにはわたしの姿が見えているんだろうか。もう片方の手も掴まれて、頭の上でまとめられた。
そのまま、ハーディはわたしの両手首をぎゅっと強く掴んだ。
「ちょっと、これ、なに」
両手が魔法で寝台に縫い付けられて、動かせなくなる。
「おれもあんまり余裕がないんだ」
パチンと指が鳴る。
ナイトウェアの感覚がなくなって、夜の空気が素肌に触れた。ついでに言うと下穿きもない。
太ももをハーディの手が撫でていく。たったそれだけのことで背筋がぞくぞくとした。何をされるのかわからない恐ろしさが、余計に官能を煽る。
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