【完結】呪いを解いて欲しいとお願いしただけなのに、なぜか超絶美形の魔術師に溺愛されました!

藤原ライラ

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第一部

7.失敗

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「……ぁ…ごほっ……ごほっ…かはっ…」

 血を飲み込んだ喉が、急に刺さるように痛い。口の中から焼かれているような。
 咳が止まらない。白いナイトウェアに、血が点々と飛んでいく。ひゅーひゅーっと変な音が漏れた。

「やっぱり、そう簡単にはいかないか」
 大きく傾いだ体をしっかりとした腕に抱きとめられた。

「大丈夫。ゆっくり息をして」
 ふわりと横抱きに抱き上げられて、ハーディの手が背中に触れた。触れた場所からじんわりと温かさが広がって、痛みが和らいでいく。呼吸を促すように、とんとんと優しく背中を叩いてくれる。

 こんな風に誰かに抱きしめられたのはいつぶりかしら。知らない人の匂いがした。透き通った夜の風の匂い。けれど、不思議と嫌な心地はしなかった。

「………気分はどう?」
「……ぁ……ぃ…」

 痛みはなくなったと思ったのに、掠れた小さな声しか出ず、代わりにわたしは頷いた。

「そう。あまりしゃべらないほうがいいよ。とりあえずは治癒したけど」
 さっきの痛み……あれは一体。
  そんなわたしの思いが聞こえたように、ハーディは答えた。

「あれは呪いの一部なのか、君の体自体がおれの血を拒んだのか、それは分からない。ただなんにせよ君の、おれの血を飲むっていう案は没だ」

 縋りつくようにハーディの首に腕を回していたことに気が付いて戻そうとしたけれど、「あんまり暴れないで」と笑われた。仕方なくそのままにする。

「方法はいくつかあるって言っただろう? 続きはまた明日の夜にね」

 ハーディがわたしをそっと寝台に下ろす。大きな手がくしゃりと髪を撫でた。母親が子供を寝かしつける時にするような、そんな手つきで。

 それを合図にしたかのように、急激な眠気がわたしを襲った。



「おはようございます、姫様」
  いつものように、コルネリアがわたしを起こしに来てくれる。
「……おはよう、コルネリア」
 咄嗟に喉を押さえたけれど、声は普通に出た。
 あの、刺さるような痛みもない。

 ブランケットをめくって、ナイトウェアを確かめる。そこには血なんて飛んでいなくて、真っ白なままだった。

「姫様、本日の朝食で」
「頂くわ。先に着替えをお願い」

 コルネリアの瞳が一瞬驚いたような色を見せて、すぐいつもの顔に戻った。コルネリアはとても仕事のできる侍女だけど、表情は乏しい。

 とりあえず何か食べないとやってられない。珍しくお腹が空いていた。
 続き、が何を意味するのかは分からないけど。魔術師と対峙するならまずはしっかり食べないと。
 そう思って、わたしはとても久しぶりの朝食を摂ることにした。
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