上 下
6 / 9

6.快楽の予感

しおりを挟む
「すみません、俺、力が強くて。痛かったですか?」
 レオンハルトはささやかな谷間からはっと顔を上げる。違う、そうではない。

「……痛くは、ないよ」
 電気が走ったかと思う位、体が跳ねた。こういうものだと、作法は知っている。けれど、与えられる刺激に、体は慣れてはいない。

「あの……」
「続けて」

 宥めるように頭を撫でたのに、見えない耳がぺたんと垂れた。この犬は何か悲しいことがあるのだろうか。

 口元に当てた右手を、掴まれた。そのままシーツに縫い付けられるようにして繋がれる。

「フランツィスカさん」
 いつも穏やかなレオンハルトが顔を曇らせる。

「声、聞きたい」
 囁かれる低い声。耳元にかかる吐息の熱さに心臓が跳ねた。顔に血が上っていくのを感じる。これが羞恥なのかなんかのか、フランツィスカには分からない。けれど、彼には知られたくなかった。

 こんなに近くにいて、隠すことなどできないと分かっているのに。

「聞いてどうするんだい」
 だからこれはどちらかと言えば本心ではなくて、ただの虚勢だった。

「わかんないです。でも、聞きたい」

 潤んだ瞳が駄々っ子のように言う。子供のようだと思ったところで、子供はこんなことをしない。

「っぁあ」
 ざらつく舌は這うように首筋を舐めて、胸元まで続けた。そのまま硬くしこった頂きを口に含む。飴玉でもしゃぶるように転がされたら、もう我慢ができなかった。まだ一度も触れられていない奥がぎゅうと締まる気気がする。

「んあっ……ゃ……だめっ」
 抗議の声を上げたところで、レオンハルトはやめてはくれない。身を捩っても快楽からは逃れられなくて、大きな手に揺れる腰を押さえつけられた。

 脇腹にまでちゅっと音を立て、雨のように口づけが降ってくる。剥ぎ取るように下穿きを脱がされた。

「よかった、ちゃんと濡れてる」

 そうして辿り着いて最も秘めたる場所を、節くれだった指がなぞった。ぬるりと滑ったそれが教えてくれる。目の前の男を受け入れるべくして、自分の内から溢れたものだと。

「ちゃんとくしたいんです、俺」
 さっきからずっと感じていた、足に当たる欲望の証。もう十分に硬いそれは、フランツィスカの裡に押し入ることなど容易いだろう。けれどまだレオンハルトはそうしない。

 代わりにつぷりと、指が一本突き立てられる。

「きっつい」

 解すように掻き混ぜるように、ゆっくりと抜き差しされる。その度に蜜が奥から零れてくる。あの大きな手ならこんなところまで届くのかと思った。

「ひゃあっ……ああっ……ぁああ」

 けれど、足りない。もっと一番奥が、埋まらない。
 そうだ。あれを挿れてもらわなければならない。そうすれば、この空洞は埋まる。欲しい。

 強請るように腰が揺らめいて、宙に放り出されるような感覚が迫りくる気がした。大きな背にしがみつくことしかできなくて、体が弓なりに反っていって、それで。

 フランツィスカは未知の快楽の予感に、ぎゅっと目を瞑った。

 けれど、何も起こらなかった。
 恐々目を開けると、捨てられた迷子の子犬がいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

唯一の味方だった婚約者に裏切られ失意の底で顔も知らぬ相手に身を任せた結果溺愛されました

ララ
恋愛
侯爵家の嫡女として生まれた私は恵まれていた。優しい両親や信頼できる使用人、領民たちに囲まれて。 けれどその幸せは唐突に終わる。 両親が死んでから何もかもが変わってしまった。 叔父を名乗る家族に騙され、奪われた。 今では使用人以下の生活を強いられている。そんな中で唯一の味方だった婚約者にまで裏切られる。 どうして?ーーどうしてこんなことに‥‥?? もう嫌ーー

[完結」(R18)最強の聖女様は全てを手に入れる

青空一夏
恋愛
私はトリスタン王国の王女ナオミ。18歳なのに50過ぎの隣国の老王の嫁がされる。最悪なんだけど、両国の安寧のため仕方がないと諦めた。我慢するわ、でも‥‥これって最高に幸せなのだけど!!その秘密は?ラブコメディー

当て馬令嬢からの転身

歪有 絵緖
恋愛
当て馬のように婚約破棄された令嬢、クラーラ。国内での幸せな結婚は絶望的だと思っていたら、父が見つけてきたのは獣人の国の貴族とのお見合いだった。そして出会ったヴィンツェンツは、見た目は大きな熊。けれど、クラーラはその声や見た目にきゅんときてしまう。    幸せを諦めようと思った令嬢が、国を出たことで幸せになれる話。 ムーンライトノベルズからの転載です。

夫の不倫劇・危ぶまれる正妻の地位

岡暁舟
恋愛
 とある公爵家の嫡男チャールズと正妻アンナの物語。チャールズの愛を受けながらも、夜の営みが段々減っていくアンナは悶々としていた。そんなアンナの前に名も知らぬ女が現れて…?

洗浄魔法はほどほどに。

歪有 絵緖
恋愛
虎の獣人に転生したヴィーラは、魔法のある世界で狩人をしている。前世の記憶から、臭いに敏感なヴィーラは、常に洗浄魔法で清潔にして臭いも消しながら生活していた。ある日、狩猟者で飲み友達かつ片思い相手のセオと飲みに行くと、セオの友人が番を得たと言う。その話を聞きながら飲み、いつもの洗浄魔法を忘れてトイレから戻ると、セオの態度が一変する。 転生者がめずらしくはない、魔法のある獣人世界に転生した女性が、片思いから両想いになってその勢いのまま結ばれる話。 主人公が狩人なので、残酷描写は念のため。 ムーンライトノベルズからの転載です。

王子に婚約破棄を申し出た仮面令嬢は彼の愛に絡め取られる

月下 雪華
恋愛
ここは100年おきに聖女が落とされる国、フルール。この国では落とされた聖女とこの国と深く縁づく者と婚約することが決められていた。 その慣習を元にした王太子と聖女の婚約までの仮の婚約者としてリリー・ブランシュは立てられる。 とあるきっかけから始まった表情筋の硬直と付けられた顔の切り傷を隠すために付けられた仮面から言われるようになったリリーのあだ名は「仮面令嬢」。 聖女のことも、自分の正妃らしくない見た目も、何もかも色々と問題がある。これ以上完璧な彼の隣に居続けてはいけない。 聖女が現れた100年目の今年、リリーは相手側から離縁申し付けられるのが嫌で離縁をこちらから突きつけた。なのに、婚約者であるルアン・フルールの反応がどこか変で…… 慣習を殴り捨て愛するものとの結婚を求めた溺愛の第1王子×初恋を吹っ切ろうとしたのに何故か結婚が約束されていた無表情の公爵令嬢

私に毒しか吐かない婚約者が素直になる魔法薬を飲んだんですけど、何も変わりませんよね?そうですよね!?

春瀬湖子
恋愛
ロヴィーシャ伯爵家には私ことクリスタしか子供がおらず、その為未来の婿としてユースティナ侯爵家の次男・テオドールが婚約者として来てくれたのだが、顔を合わせればツンツンツンツン毒ばかり。 そんな彼に辟易しつつも、我が家の事情で婚約者になって貰った為に破棄なんて出来るはずもなく⋯ 売り言葉に買い言葉で喧嘩ばかりの現状を危惧した私は、『一滴垂らせば素直になれる』という魔法薬を手に入れたのだが、何故かテオドールが瓶ごと一気飲みしてしまって!? 素直になれないツンデレ令息×拗らせ令嬢のラブコメです。 ※他サイト様にも投稿しております

【完結】妻至上主義

Ringo
恋愛
歴史ある公爵家嫡男と侯爵家長女の婚約が結ばれたのは、長女が生まれたその日だった。 この物語はそんな2人が結婚するまでのお話であり、そこに行き着くまでのすったもんだのラブストーリーです。 本編11話+番外編数話 [作者よりご挨拶] 未完作品のプロットが諸事情で消滅するという事態に陥っております。 現在、自身で読み返して記憶を辿りながら再度新しくプロットを組み立て中。 お気に入り登録やしおりを挟んでくださっている方には申し訳ありませんが、必ず完結させますのでもう暫くお待ち頂ければと思います。 (╥﹏╥) お詫びとして、短編をお楽しみいただければ幸いです。

処理中です...