大好きな許嫁の弟と結婚することになりました

藤原ライラ

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十七、兄さんのもの

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 翔の名前を付けたのは、死んだ母だという。

 長男には「どこまでも尊くあれ」と祈り、次男には「どこへでも翔けて」と願う。この無意識の区別の間に潜む醜悪さに、誰も彼も気づかない。

 けれど、一体、どこに行けばいいのだろう。
 翔の名を呼んでくれた鈴のなるような声は、艶めいた喘ぎに変わってしまった。

「あっあっ……だめっ……」

 隣の部屋からは絶え間なく嬌声が聞こえてくる。久しぶりに家に戻ったのは、どうしても必要な参考書があったからだ。彩恵が来ると知っていたら当然、来なかった。

 耳を塞いでも、その声は鮮烈に飛び込んでくる。抱き寄せた布越しの温度を、この腕はまだ覚えている。

 濡れたハンカチから、髪と同じ甘い匂いがする。ふらふらと引き寄せられるようにそれを掴んでいた。

「……っく」

 顔に当てて、すうっと息を吸い込む。血が、下半身に集まっていくのが分かる。翔は女性経験がない。だから、ここから先はほとんど妄想だ。

 あの服の下の彼女の肢体は、どれほどやわらかいのだろう。どれほど、あたたかいのだろう。
 自然と、己の中心に手が伸びる。ぐっと握りしめて扱く。みるみる間にそれは、硬さを増してどくどくと脈打っていく。

 どんなふうに、彩恵は乱れるのだろうか。

 想像しただけで頭が沸騰しそうだ。太ももが引き攣るほどに張り詰めている。自分で処理することがないわけではないが、こんなにも昂ったことはなかった。

「んあっ……よすぎて、こわれ、ちゃう……ああああっ!」

 肌と肌がぶつかる音までもが聞こえる。その合間に、獣じみた己の荒い息が混じる。

「はあ……はあっ……」
 あんなにも可憐な人を、醜い欲求の捌け口にしてしまう。怒張を擦り上げる手が止まらない。

「ああっ」

 一際高い、女の声。ぐっと握り込んだら、右手の中で己が爆ぜた。粘性のある欲液が放たれる。
 脱力して畳に垂れ込んで天井を仰いだ。漂う、独特の青臭い匂い。

 ちり紙を引っ掴んで乱暴に手を拭う。それでも、ぬちゃりとした感覚がへばりつくように手に残っている。
 翔はこれがたまらなくきらいだった。

 しばらくして、ふと気配を感じて、ぴったりと閉じた襖に隙間を空けた。

 尊に抱き上げられた彼女は、くったりと力なくされるがままになっている。情事の後特有のしどけなさが、どうしようもないほどに蠱惑的だった。

 彩恵が振り返ったから、すっと襖を閉めた。

 分かっている。ちゃんと、分かっている。
 あれは、兄さんのものだ。
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