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本編

6.俺がいつから

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 繊細な手つきで、するするとロジータを包む鎧にも似たドレスが脱がされていく。こんなに大きな手のくせに器用なことだと思ったところで、やはりどこか引っかかる。

「随分と手慣れているのね」
「あなたのせいですよ」

 そう言いながら、手は止まらない。少しずつ剥ぎ取られていく衣服とは対照的に、ジェラルドの目はさらに熱を帯びていくようだった。寒いわけではないのに肌が粟立つような気がする。

「やれリボンを結び直せだのドレスの編み上げがきついだの、散々文句を言ったじゃないですか」

 言った。確かに言った。
 侍女がいないところでそういうことを頼むと、ジェラルドはいつも遠くを見るような目をして一つ大きな大きな溜息をついて。それでも、必ずロジータの言うとおりにしてくれた。どんな侍女よりも、ジェラルドは蝶々結びが上手だった。

「まったく、人の気も知らないで」
「どういう気だったの?」
 訊ねると、

「ずっと、こうしたらどうなるかなって思ってました」

 最後の砦のようなコルセットまで取り去られてしまったら、もう隠すものはなくなる。まろび出た白い乳房にジェラルドは息を呑んだ。やわやわと揉まれ、手の中で豊潤な果実のような胸が形を変える。頂きに触れられたら、思わず声が漏れた。

「……っあ」
「ロジータ、声を聞かせて」

 立ち上がり始めた頂を、ジェラルドは口に含んだ。舌で探るように舐られたら電流にも似た刺激が走る。絡め取られるように快楽を与えられる。間違いない、彼は巧い。

 目を閉じたら浮かんできてしまった。ジェラルドが他の女と睦み合うところ。相手の女の顔は見えない。けれど、こんな風に酔いしれた目を向けるのだと思ったらいたたまれなかった。

「誰にだって……っ……こうするの?」

 とうとう言ってしまった。我ながら負け惜しみがすぎる。だって、わかっている。彼からすればロジータはあまりに幼かった。

「まさか」

 眉間に皺を寄せてジェラルドは言う。シャツ越しに感じる体温はそれでも高くて、縋ってしまいそうになる。くしゃりとロジータと彼の間に横たわる布きれがじれったい。

「他の女を抱いた手で、俺があなたに触れるとでもお思いで?」

 かりっ、硬くなった頂に歯を立てられたら、腰がぴくぴくと跳ねるのを止められなかった。大きな手に逃さないとばかりに押さえつけられて、するりと内腿を撫でられる。

「俺がいつからあなたのことを好きだったか知らないでしょう」

 一体いつからだったのだろう。けれどこちらだっていつから惹かれていたなんてわからない。共にいるのが当然で、求めるのは必然だった。

「ずっとあなただけ見てきました」

 下穿きも全て魔法のように脱がされて、生まれたままの素肌に愛の言葉だけが降り積もっていく。
 この男の内側にずっとあったもの。
 ロジータが今の今まで、知らなかったもの。

「ばかみたい」

 その思いの一途さに息が苦しくなった。ジェラルドの顔を直視できなくなったロジータは、枕に顔を埋めた。それでも、頬が熱くなっていくのはどうしようもない。

「俺は確かにばかですが」

 伸びてきた手はしゅるりと頭のリボンも解いてしまった。ああ、これで本当にこの身を包むものはなにもない。

「そうさせたのはあなただ」

 それを見届けたジェラルドは満足げに微笑んで、手早く己の衣服も脱いで寝台の下に投げ捨てた。
 現れた鍛え抜かれた鋼のような体に見惚れていたら、その腕の中に囲い込まれていた。きつく抱き締められて身動きが取れない。そうして感じる、彼の熱く硬い怒張。

 望まれている。求められている。一人の女として。

「あなたを俺のものにしたい」

 首筋を噛まれるように強く吸いあげられて、赤い花が幾つも散った。刻まれた所有の証を、ロジータはそっと確かめるように指で撫でた。

「いいですか」

 その黒い瞳の中に映る自分もまた、蕩けた女の顔をしていた。もう頷くことしかできなかった。
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