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ミネットは僕の五つ年下の妹だ。今は魔術師学校に通っている。
やっと僕の膝から下りてくれた彼女は、今は大人しく向かいの席に座って朝食を食べている。
普段は学校の寮にいるのだけれど、時々彼女は思いついたように突然の帰宅をする。ミネットは魔法の中でも空間転移魔法が大の得意なのだ。この国でも満足に使える者なんて、そうそういないだろうに。
つまりミネットは、行動と言動は色々アレなのだが、結構なエリート魔術師の候補だったりする。
「お兄ちゃんの作ってくれたスクランブルエッグが、一番おいしい」
「それは、どうも」
それにひきかえて僕はといえば、いたって普通の“人間”でしかない。魔法も使えないし、頭が特段いいということもない。まあ、小さい頃からしてきたから掃除洗濯料理と言った家事全般は、少しだけ得意だけれど。
朝食を食べ終えたら、僕は仕事に向かわなければならない。
「ねえ、お兄ちゃん。魔石掘りなんてもうやめにしようよ。危ないよ」
ぼさぼさだった金髪をきれいに片方でまとめて三つ編みにしながら、ミネットは言う。なんでも髪をしばっているとうまく魔法が使えないらしい。何をどうしても魔法なんか使えない僕には縁のない話だ。
「うーん。でも割に稼げる仕事だから」
魔石掘りは危険で過酷な仕事だ。あまりやりたがる人はいない。
その分だけ給料はいい。何の特別な技能も持たない二十四歳が稼げる額としては破格と言える。
「でも」
ミネットは眉を下げて心配そうな顔をする。
「大丈夫だよ。ちゃんとお前がくれたお守りも持ってるし。それより、あんまりゆっくりしてると遅刻するぞ」
僕は、シャツの下に隠して首から提げている守護石を見せる。ミネットの瞳の色と同じ、青色だ。祈りの魔力を込めて結晶化させたもので、なんでも授業の課題で作ったらしい。
「あ、そうだった!」
バタバタと身支度をする彼女を尻目に、僕も出かける用意をする。
「それじゃあ、また」
「うん、またね。お兄ちゃん」
家の鍵を閉めて別れの挨拶を手短に済ませたら、二人背を向けて、仕事場と学校へ向かう。
ふと振り返ったらもう、ミネットの姿はそこにはなかった。きっと彼女は魔法を使ったんだろう。
やっと僕の膝から下りてくれた彼女は、今は大人しく向かいの席に座って朝食を食べている。
普段は学校の寮にいるのだけれど、時々彼女は思いついたように突然の帰宅をする。ミネットは魔法の中でも空間転移魔法が大の得意なのだ。この国でも満足に使える者なんて、そうそういないだろうに。
つまりミネットは、行動と言動は色々アレなのだが、結構なエリート魔術師の候補だったりする。
「お兄ちゃんの作ってくれたスクランブルエッグが、一番おいしい」
「それは、どうも」
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朝食を食べ終えたら、僕は仕事に向かわなければならない。
「ねえ、お兄ちゃん。魔石掘りなんてもうやめにしようよ。危ないよ」
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「うーん。でも割に稼げる仕事だから」
魔石掘りは危険で過酷な仕事だ。あまりやりたがる人はいない。
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「でも」
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「大丈夫だよ。ちゃんとお前がくれたお守りも持ってるし。それより、あんまりゆっくりしてると遅刻するぞ」
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「あ、そうだった!」
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「それじゃあ、また」
「うん、またね。お兄ちゃん」
家の鍵を閉めて別れの挨拶を手短に済ませたら、二人背を向けて、仕事場と学校へ向かう。
ふと振り返ったらもう、ミネットの姿はそこにはなかった。きっと彼女は魔法を使ったんだろう。
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