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「きっと怒るだろうなあ……ごめんね、オトハ」
 僕は横たわる彼女を見つめて呟いた。意識の停止スイッチを押したから、当然のことながら返事はない。目覚めた彼女が全てを知ったら、あの可愛らしい顔で淡々と怒るのだろう。

 半永久電源に接続して、必要最低限の維持メンテナンスは行っている。呼吸で胸が上下に動く。再起動に関する計算も済んだ。あとは、時間が全てを解決してくれる。上級市民になんてなりたくてなったわけじゃないけれど、今回ばかりは随分と役に立ってくれた。

「こほっ、こほっ」
 咳が止まらないことが多くなった。原因は明確で、再生ナノマシンを開発するためにドームの外に何度も出たからだ。防護服を着ていても、侵襲がゼロになるわけではない。ある程度は覚悟していたことだけれど、死ぬのはやっぱり怖い。

「次は一緒に、本物の桜、見れるといいな」
 なめらかな頬を撫でる。こうしていると本当が人間が眠っているみたいだ。

 科学が発達しても、まだ人間を冷凍睡眠コールドスリープさせるまでには至っていない。この体はもう持たないし、僕自身が新しい世界をこの目で見ることはないだろう。

 僕が死んだら、オトハは処理場でデータを消去されて新しい主人を迎えることになる。
 僕はそれがたまらなく嫌だった。

 僕の下に縛り付けたくて、彼女を抱いた。ただそれだけだ。

「今度はもうちょっと、生活能力のあるやつだといいんだけど」

 あとはもう、次の僕に託すしかない。それでも、彼女が彼女でなくなってしまうよりはずっといい。
 せめて目覚めた彼女の目に映る世界が、美しくありますように。

「またね、オトハ」
 僕は、握り返してくれることのない彼女の手を握った。


 無限の中で、有限を、果てるまで。
 僕は何度でも、君を愛す。
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