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11.本当の願い
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「あずっらくさまっ!!」
思わず広い胸に飛び込んだ。追い縋るように手を回す。
本当は、ずっと一緒にいたかった。他の誰でもないわたし自身が、『運命の乙女』ならいいのにと、思っていた。
「黙って座って待っていたら誰かが勝手に救ってくれる、なんてことはこの世にないんだよ」
子供をあやすような手がぽんぽんと頭を撫でてくれる。
「方法は、ないこともない。一の兄上のところもなんやかんやうまくやっている」
子を成してから一度も閨に侍っていない王太子妃。
それが、うまくやっている?
「どういうこと、ですか」
「兄上は俺より呪いが強い。そして何度も妃を殺しそうになった。だから今は別々に暮らしている。でもな、兄上は彼女を愛している、ちゃんと」
兄上の部屋は妃からの手紙で溢れているよ、とアズラク様は笑った。
「時々遠目に会うらしい。それでも、どこかで生きていると分かるだけで幸せだと兄上は言っていたよ」
「あの、王太子殿下が若い男性ばかりをお召しになるというのは……」
「あれはしがらみがあるのが面倒だから、夜に政務の話をすると言っていたぞ」
「第二王子殿下は」
「ああ、二の兄上は全員愛しているらしいぞ。寝所に呼ぶ女を毎日変えれば、それなりに正気を保てるらしい。妃同士も仲がいい」
全くの勘違いだった。
他の人とは違った形でも、彼らは確かに愛し合っている。
そういう道を見つけたのだ。
「だから探すんだ。幸せになれる方法を。俺たちも二人で」
わたしはただ逃げたのだとやっと分かった。
この人からも、自分の恋からも。向き合うことを恐れて、終わりにしようとした。
「お前はどうしたい? ネージュ」
そんなわたしを、アズラク様は“運命”にしてくれるという。
「離れないで。忘れないで。わたしのそばに居て」
本当はずっとそう言いたかった。何度も、アズラク様は聞いてくれた。わたしが何を望むか、どうしたいかを。
アズラク様が見つけてくれた、わたしの本当の願い。
「ああ」
独りぼっちが嫌だった。誰からも忘れ去られてしまうのが嫌だった。
遠くない未来、冷たい雪に埋もれて、自分も死んでいくのだとずっと思っていた。
「そう簡単に、俺から逃れられると思うなよ」
けれど、ここはそうではない。わたしを抱き締めてくれるこの腕は、ちゃんとあたたかい。
アズラク様の大きな手、わたしの為に血を流す手をそっと握り返す。
「せいぜい最後まで付き合ってもらう」
たとえ進む先が地獄であっても。
「はい」
もうわたしから、この手を離すことはしない。
思わず広い胸に飛び込んだ。追い縋るように手を回す。
本当は、ずっと一緒にいたかった。他の誰でもないわたし自身が、『運命の乙女』ならいいのにと、思っていた。
「黙って座って待っていたら誰かが勝手に救ってくれる、なんてことはこの世にないんだよ」
子供をあやすような手がぽんぽんと頭を撫でてくれる。
「方法は、ないこともない。一の兄上のところもなんやかんやうまくやっている」
子を成してから一度も閨に侍っていない王太子妃。
それが、うまくやっている?
「どういうこと、ですか」
「兄上は俺より呪いが強い。そして何度も妃を殺しそうになった。だから今は別々に暮らしている。でもな、兄上は彼女を愛している、ちゃんと」
兄上の部屋は妃からの手紙で溢れているよ、とアズラク様は笑った。
「時々遠目に会うらしい。それでも、どこかで生きていると分かるだけで幸せだと兄上は言っていたよ」
「あの、王太子殿下が若い男性ばかりをお召しになるというのは……」
「あれはしがらみがあるのが面倒だから、夜に政務の話をすると言っていたぞ」
「第二王子殿下は」
「ああ、二の兄上は全員愛しているらしいぞ。寝所に呼ぶ女を毎日変えれば、それなりに正気を保てるらしい。妃同士も仲がいい」
全くの勘違いだった。
他の人とは違った形でも、彼らは確かに愛し合っている。
そういう道を見つけたのだ。
「だから探すんだ。幸せになれる方法を。俺たちも二人で」
わたしはただ逃げたのだとやっと分かった。
この人からも、自分の恋からも。向き合うことを恐れて、終わりにしようとした。
「お前はどうしたい? ネージュ」
そんなわたしを、アズラク様は“運命”にしてくれるという。
「離れないで。忘れないで。わたしのそばに居て」
本当はずっとそう言いたかった。何度も、アズラク様は聞いてくれた。わたしが何を望むか、どうしたいかを。
アズラク様が見つけてくれた、わたしの本当の願い。
「ああ」
独りぼっちが嫌だった。誰からも忘れ去られてしまうのが嫌だった。
遠くない未来、冷たい雪に埋もれて、自分も死んでいくのだとずっと思っていた。
「そう簡単に、俺から逃れられると思うなよ」
けれど、ここはそうではない。わたしを抱き締めてくれるこの腕は、ちゃんとあたたかい。
アズラク様の大きな手、わたしの為に血を流す手をそっと握り返す。
「せいぜい最後まで付き合ってもらう」
たとえ進む先が地獄であっても。
「はい」
もうわたしから、この手を離すことはしない。
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