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番外編:神様のお茶会
6.執事の本分
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「亡くなった方は神の御許に帰る、とはよく言いますが」
「いきなりどうしたの。執事の分際で聖職者の真似事をするのは褒められたものではないわ。そもそもわたくしはそんなものがいるとは信じていないけれど」
ぴしゃりと投げつけられた言葉に思わず笑みが零れてしまう。シャルルはアネットのことを野良猫と称したが、それならさしずめオリアンヌは懐かない飼い猫といったところか。
しかしながら、これは聖職者の真似事ではなく、執事たる自分の本分である。
「神様がもしおられるとするならば、あの方は残酷で大変に選り好みの激しい方のようでして。善い方ほどおそばに早く召し上げられます。それはきっと、誘われた方しか出席できないお茶会のようなものなのでしょう」
ロイクはきっちり時間通り三分蒸らした紅茶をカップに注ぎ、オリアンヌの前に置いた。ふわりと立ち上る爽快感のある香り。
「ですから、お呼びのかからなかったわたくし達は、せいぜい今日も明日も、この地の上で生きていくほかないのだと思います」
生き続けることは美しいことばかりではない。それでも、だ。
オリアンヌは何も返事をしなかった。代わりに、洗練された所作でカップを手に取り、紅茶を一口飲んだ。
はっとその目が見開かれる。ぱちぱちと瞬きをしたかと思うと、もう一度カップに口をつける。
「……あなた、公爵家で働く気はないかしら? 給金は言い値でいいわ」
「お褒めに預かり恐悦至極でございます」
ロイクはそれを最大限の賛辞として受け取った。ただ静かに一礼してみせる。
「なにせ一生懸命生きているのですから、美味しい紅茶を楽しむ、それぐらいの贅沢は許されるかと存じます」
続けて、予備のカップに二つ紅茶を注いでいく。誰もいないテーブルの席にそれを置いた。
何の役にも立たないきれいごとかもしれないけれど、この気高い女主人の慰めになればと。
湯気の向こうにきっと、オリアンヌもロイクと同じ面影を見るだろう。マリエットとブランシュとオリアンヌ。三人の母が共に茶を飲むような、そんな日があればいいのにと思った。
愛した人が死んで、仕えた主人を見送って。
それでもどうして未だ我が身はこの世にあるのだろうかと、疑問に思ったことは何度もある。けれど生き永らえた分だけは少しだけ、気の利いたこともできるようになったと思いたい。
「いきなりどうしたの。執事の分際で聖職者の真似事をするのは褒められたものではないわ。そもそもわたくしはそんなものがいるとは信じていないけれど」
ぴしゃりと投げつけられた言葉に思わず笑みが零れてしまう。シャルルはアネットのことを野良猫と称したが、それならさしずめオリアンヌは懐かない飼い猫といったところか。
しかしながら、これは聖職者の真似事ではなく、執事たる自分の本分である。
「神様がもしおられるとするならば、あの方は残酷で大変に選り好みの激しい方のようでして。善い方ほどおそばに早く召し上げられます。それはきっと、誘われた方しか出席できないお茶会のようなものなのでしょう」
ロイクはきっちり時間通り三分蒸らした紅茶をカップに注ぎ、オリアンヌの前に置いた。ふわりと立ち上る爽快感のある香り。
「ですから、お呼びのかからなかったわたくし達は、せいぜい今日も明日も、この地の上で生きていくほかないのだと思います」
生き続けることは美しいことばかりではない。それでも、だ。
オリアンヌは何も返事をしなかった。代わりに、洗練された所作でカップを手に取り、紅茶を一口飲んだ。
はっとその目が見開かれる。ぱちぱちと瞬きをしたかと思うと、もう一度カップに口をつける。
「……あなた、公爵家で働く気はないかしら? 給金は言い値でいいわ」
「お褒めに預かり恐悦至極でございます」
ロイクはそれを最大限の賛辞として受け取った。ただ静かに一礼してみせる。
「なにせ一生懸命生きているのですから、美味しい紅茶を楽しむ、それぐらいの贅沢は許されるかと存じます」
続けて、予備のカップに二つ紅茶を注いでいく。誰もいないテーブルの席にそれを置いた。
何の役にも立たないきれいごとかもしれないけれど、この気高い女主人の慰めになればと。
湯気の向こうにきっと、オリアンヌもロイクと同じ面影を見るだろう。マリエットとブランシュとオリアンヌ。三人の母が共に茶を飲むような、そんな日があればいいのにと思った。
愛した人が死んで、仕えた主人を見送って。
それでもどうして未だ我が身はこの世にあるのだろうかと、疑問に思ったことは何度もある。けれど生き永らえた分だけは少しだけ、気の利いたこともできるようになったと思いたい。
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