83 / 87
番外編:神様のお茶会
3.自分の全て
しおりを挟む
「来てくれたんですね」
ブランシュはロドルフに大きく手を振って応える。その時だった。
「っきゃあ!」
枝の上のブランシュがバランスを崩す。
安定感の悪い木の上でそんなふうに動けばそうなると、思う間もなくロイクは駆け出していた。
重力に吸い寄せられるようにして落ちていく彼女に必死で手を伸ばす。最後はもう、滑り込むように地面を蹴った。
「……いてぇ」
背中に何か重みが乗っていた。
舞い上がった土埃の匂いがする。それに紛れて、なんとも言えない甘やかな香が鼻先に触れる。
ゆっくりと目を開けると、紫水晶と目が合った。
「ご、ごめんなさい、わたし!!」
どうやらロイクの上にブランシュは見事着地したようである。見たところ怪我もないようだ。よかった、よかった。
「二人とも、大丈夫かい?」
遅れてやってきたロドルフがブランシュに手を差し伸べてそっと抱きおこす。
「ええ、わたしは大丈夫です。けれどこの人が……」
「俺は、大したことないです」
しいて言えば上等のお仕着せを泥まみれにしたことぐらいか。ぱんぱんと胸元についた汚れを払ってみるが、当然落ちるわけもない。洗濯係にどんな顔をされるかを想像すると少し憂鬱になってしまった。
「ブランシュが無事だったのはお前のおかげだ、ロイク」
うっすらと目に涙まで浮かべてロドルフは感謝している。ドーレブールの町で最も尊く、この国の名のある大富豪の一人でもあるのに、この人は本当に腰が低い。
「あの、本当に、わたし」
座り込んだままのロイクを紫色の瞳が心配そうに見ている。
「いえ……お気になさらないでください」
奥様、と呼べる身分でもなく、気軽にブランシュと呼んでいいわけでもない。彼女のことをどう呼べばいいのかが分からなくて、ロイクは曖昧に言葉を濁した。
「ありがとうございます、ロイクさん」
白く小さな手が、ロイクの手に触れてくる。握り返すのもためらわれるほど、やわらかく小さな手だった。
あれからきっと、自分の全てはあの手の中にある。
ブランシュはロドルフに大きく手を振って応える。その時だった。
「っきゃあ!」
枝の上のブランシュがバランスを崩す。
安定感の悪い木の上でそんなふうに動けばそうなると、思う間もなくロイクは駆け出していた。
重力に吸い寄せられるようにして落ちていく彼女に必死で手を伸ばす。最後はもう、滑り込むように地面を蹴った。
「……いてぇ」
背中に何か重みが乗っていた。
舞い上がった土埃の匂いがする。それに紛れて、なんとも言えない甘やかな香が鼻先に触れる。
ゆっくりと目を開けると、紫水晶と目が合った。
「ご、ごめんなさい、わたし!!」
どうやらロイクの上にブランシュは見事着地したようである。見たところ怪我もないようだ。よかった、よかった。
「二人とも、大丈夫かい?」
遅れてやってきたロドルフがブランシュに手を差し伸べてそっと抱きおこす。
「ええ、わたしは大丈夫です。けれどこの人が……」
「俺は、大したことないです」
しいて言えば上等のお仕着せを泥まみれにしたことぐらいか。ぱんぱんと胸元についた汚れを払ってみるが、当然落ちるわけもない。洗濯係にどんな顔をされるかを想像すると少し憂鬱になってしまった。
「ブランシュが無事だったのはお前のおかげだ、ロイク」
うっすらと目に涙まで浮かべてロドルフは感謝している。ドーレブールの町で最も尊く、この国の名のある大富豪の一人でもあるのに、この人は本当に腰が低い。
「あの、本当に、わたし」
座り込んだままのロイクを紫色の瞳が心配そうに見ている。
「いえ……お気になさらないでください」
奥様、と呼べる身分でもなく、気軽にブランシュと呼んでいいわけでもない。彼女のことをどう呼べばいいのかが分からなくて、ロイクは曖昧に言葉を濁した。
「ありがとうございます、ロイクさん」
白く小さな手が、ロイクの手に触れてくる。握り返すのもためらわれるほど、やわらかく小さな手だった。
あれからきっと、自分の全てはあの手の中にある。
1
お気に入りに追加
91
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!
可愛すぎてつらい
羽鳥むぅ
恋愛
無表情で無口な「氷伯爵」と呼ばれているフレッドに嫁いできたチェルシーは彼との関係を諦めている。
初めは仲良くできるよう努めていたが、素っ気ない態度に諦めたのだ。それからは特に不満も楽しみもない淡々とした日々を過ごす。
初恋も知らないチェルシーはいつか誰かと恋愛したい。それは相手はフレッドでなくても構わない。どうせ彼もチェルシーのことなんてなんとも思っていないのだから。
しかしある日、拾ったメモを見て彼の新しい一面を知りたくなってしまう。
***
なんちゃって西洋風です。実際の西洋の時代背景や生活様式とは異なることがあります。ご容赦ください。
ムーンさんでも同じものを投稿しています。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる