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77.やさしくしたい ※
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「やさしくしたいとは思っている」
鍵をかけてご丁寧に扉の前に椅子まで置いてきたシャルルは、神妙な顔をして言った。カウチの上に正座でもしそうな勢いである。
「ただ、その、僕は、最後までしたことがない」
いつも淀みない彼にしては珍しく、ぽつりぽつりと話す。その目は床のあたりに漂ったままだ。
「えっ」
「そんなに驚くようなことか」
あんなに何もかも手慣れているのに、そんなことがあるのだろうか。疑問が顔に出ていたのか、シャルルがいささか不機嫌そうに眉間に皺を寄せる。
「……あんまり何も知らないとご夫人方に良いようにされるんだ。だから、余裕があるふりをするのが必要だったんだよ」
苦々し気にくしゃりと前髪をかき上げる様は、日頃老成して見えるのとは転じて年相応に見える。
「それに、僕みたいなのが生まれてきてしまっても、困るしな」
ああ、そうか。だから結局最後まで、彼は手を出せなかったのか。
自信に溢れた悪魔の顔は輝かしくて眩しい限りだが、こういう顔もきらいではない。
「わたしも、したことないですし」
「それは、そうだが」
はたしてこの返答が彼にとっての励みになるかは不明だが。
「うまくできなかったら、ごめん」
呟くように謝罪をした後、シャルルはアネットのドレスの留め金を外し始めた。長い指がおもむろに背骨をなぞっていく。
「……っあ」
「このドレスはとても、似合っていた」
言いながら、彼はゆっくりとドレスを剥ぎ取っていく。露わになった胸元に、口づけが雨のように降る。
「ほんとう、ですか」
「これほど自分の見立てが正しいと思ったことはない」
コルセットも外されて、大きな手の中でやわやわと胸を弄ばれる。寒くもないのに立ち上がった頂きに、ふわりと吐息がかかる。一瞬のためらいののちに、唇が触れる。
「やっ……ああっ」
こりこりと舐め上げられたら、腹の奥から疼きのようなものが込み上がってくる。もう片方は親指と人差し指でぎゅっと摘ままれる。体が震えて、シャルルの肩にしがみつく。
「痕、つけてもいいか」
あの日、エミリアンがつけた痕を覆い隠すようにシャルルがつけたものは、もう当然残ってはいない。ずっと消えなくてもいいと思っていたのに、何もなかったかのようにすべらかな白い肌だけが、今ここにある。アネットは何も言わずにただ頷いた。
返事の代わりに強く吸い上げられて、赤い花が散る。かすかな痛みにさえ、甘い官能が宿る。それは毒のようにこの身を回って、確かに体温を上げていく。
カウチの上に押し倒される。覆いかぶさってくる紫の目には、常のような余裕は感じられない。
僅かに震える手が下穿きまでもを取り去っていく。内股を撫で上げて、恭しく膝頭にキスをする。
そして、シャルルはあろうことか、最も秘めたる場所にまで口づけを落とした。
鍵をかけてご丁寧に扉の前に椅子まで置いてきたシャルルは、神妙な顔をして言った。カウチの上に正座でもしそうな勢いである。
「ただ、その、僕は、最後までしたことがない」
いつも淀みない彼にしては珍しく、ぽつりぽつりと話す。その目は床のあたりに漂ったままだ。
「えっ」
「そんなに驚くようなことか」
あんなに何もかも手慣れているのに、そんなことがあるのだろうか。疑問が顔に出ていたのか、シャルルがいささか不機嫌そうに眉間に皺を寄せる。
「……あんまり何も知らないとご夫人方に良いようにされるんだ。だから、余裕があるふりをするのが必要だったんだよ」
苦々し気にくしゃりと前髪をかき上げる様は、日頃老成して見えるのとは転じて年相応に見える。
「それに、僕みたいなのが生まれてきてしまっても、困るしな」
ああ、そうか。だから結局最後まで、彼は手を出せなかったのか。
自信に溢れた悪魔の顔は輝かしくて眩しい限りだが、こういう顔もきらいではない。
「わたしも、したことないですし」
「それは、そうだが」
はたしてこの返答が彼にとっての励みになるかは不明だが。
「うまくできなかったら、ごめん」
呟くように謝罪をした後、シャルルはアネットのドレスの留め金を外し始めた。長い指がおもむろに背骨をなぞっていく。
「……っあ」
「このドレスはとても、似合っていた」
言いながら、彼はゆっくりとドレスを剥ぎ取っていく。露わになった胸元に、口づけが雨のように降る。
「ほんとう、ですか」
「これほど自分の見立てが正しいと思ったことはない」
コルセットも外されて、大きな手の中でやわやわと胸を弄ばれる。寒くもないのに立ち上がった頂きに、ふわりと吐息がかかる。一瞬のためらいののちに、唇が触れる。
「やっ……ああっ」
こりこりと舐め上げられたら、腹の奥から疼きのようなものが込み上がってくる。もう片方は親指と人差し指でぎゅっと摘ままれる。体が震えて、シャルルの肩にしがみつく。
「痕、つけてもいいか」
あの日、エミリアンがつけた痕を覆い隠すようにシャルルがつけたものは、もう当然残ってはいない。ずっと消えなくてもいいと思っていたのに、何もなかったかのようにすべらかな白い肌だけが、今ここにある。アネットは何も言わずにただ頷いた。
返事の代わりに強く吸い上げられて、赤い花が散る。かすかな痛みにさえ、甘い官能が宿る。それは毒のようにこの身を回って、確かに体温を上げていく。
カウチの上に押し倒される。覆いかぶさってくる紫の目には、常のような余裕は感じられない。
僅かに震える手が下穿きまでもを取り去っていく。内股を撫で上げて、恭しく膝頭にキスをする。
そして、シャルルはあろうことか、最も秘めたる場所にまで口づけを落とした。
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