【完結】わたしが愛されるはずがなかったのに~冷酷無比な男爵は高額買取した奴隷姫を逃さない~

藤原ライラ

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75.行動の責任

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「わたしがいなくても、平気だったんですか」

「……僕が平気かどうかは問題じゃないだろう。大切なのはその選択が、お前にとってどんな結果をもたらすか、それだけだ」

「そういうことを聞いているんじゃないんです」
 シャルルはいつも自分のことがまるで他人事で、それがアネットにとってはとても腹立たしいのだ。わたしだけがずっと悲しくてさみしくて、ばかみたいになる。

 睨みつけたら、紫の目が宙を彷徨ってしばし天井を眺めたあと、もう一度アネットのところへ戻ってきた。

「泣くなよ」
 いつかのようにポケットからハンカチを出したシャルルが、アネットに差し出そうとする。首を振ったらいくつか涙の雫がはじけ飛ぶ。

「あ」
 また顔色が変わった。それは一体なんなのか。

 奪い取るようにその白い布を手にしたら、

「ごみだって言ったくせに」

 アネットがシャルルの名前を刺繍したものがあった。勿論、何度見てもそれが彼の名前だとは分からなかったけれど。

 こんなものを大事に悪魔は持っていたのか。まるでお守りのように、肌身離さず。
 わたしは今、あなたの目の前にいるというのに。

「……僕の屋敷で出たごみを、僕がどうしようと自由だろう」

 言い訳がましくそう言ったあと、彼はそれでアネットの頬の涙を拭ってくれた。

「屋敷が静かなんだ」
 ふっとやわらかい笑みで、シャルルが微笑む。

「お前がいないと静かで、仕事が捗って。ロイクも全然余計なことを言わなくて、」

「それは、さぞよかったですね」

「つまらなかった」
 こつんと額を合わせて、今度はシャルルが顔を覗き込んできた。

「お前がいないとつまらないんだなって、思ったよ」

 ああ、それがずっと聞きたかったんだと分かった。

「けれど、お前はもう自由なんだ。だからちゃんと、幸せになってほしかった。四大公爵家と成金のうちでは、釣り合いが取れないだろう。それに、僕は卑しい奴隷の子だ」

 彼がずっと言われてきたこと。エミリアンから叩きつけられてきた、身分の壁。
 けれど、それが一体なんだというのか。

「行動には責任が伴うって、仰いましたよね」
 悪魔の悪行非道、と見せかけたやさしさの数々。その全てが、この心を捕らえて離さない。

「ああ、言ったな」
 金色の睫毛がぱちぱちと瞬きをする。

「これまでのご自身の行動の責任を、どう取るおつもりですか」

 襟元を掴んで詰め寄ると、もうその目は揺らがなかった。

「分かった。僕を好きなようにしてくれ。お前にはその権利がある」

 降参とばかりに、目を閉じてカウチの上でシャルルは両手を広げてみせた。
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