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57.身内の恥

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 湯を浴びて、すとんとしたワンピースに着替えて、上にカーディガンを羽織る。ボタンを全部止めてしまえば、あの忌まわしい痕は全て見えなくなってほっとした。

 シャルルの部屋に案内されて、言われるがままに腰を下ろした。彼も着替えたようで、いつもよりは少しゆったりとした服を着ている。

「お嬢様、申し訳ございませんでした」
 ロイクはアネットの姿を見るや否や、膝をついて謝罪した。

「わたくしがついていながら、あのようなことになってしまい……お詫びのしようもございません」
「あ、あの、頭をあげてください、ロイクさん」 

 シャルルは呆れたように溜息を吐いて、鋭い声で言った。

「お前があのままあの部屋にいたところでどうにもならなかった。ただ打たれる人が増えただけだ。それよりも僕を呼びに人を寄越してくれてよかった。さっきも言っただろう、ロイク」
「ですが」

 紫の目は睨みつけるように執事を見遣る。
「それより早く茶を淹れてくれ」

「……かしこまりました」
 すごすごと追いやられた執事は、けれど変わりなく丁寧な所作で茶を淹れてくれる。テーブルに置かれたそれに、シャルルは一度右手を伸ばしかけて、止めた。代わりに左手でカップを持った。

「お前も、飲むといい」
「は、はい」

 満たされていたのは常の紅茶とは違うお茶だった。ほのかな甘みと薬草の香り。飲むとお腹の辺りがぽかぽかとしてきて、やっと人心地がついた。

「何から話すか……別になんてことはない。身内の恥なんだがな」

 カップを眺めて、金色の頭が物思いに沈む。しばらくの間彼はそうしていたが、やがて意を決したように顔を上げた。

「あの人の話を聞いただろう?」
「はい」

 とても信じられるものでは、なかったけれど。
 この美しく高貴な男を、エミリアンは卑しい奴隷の子と罵って、何度も杖で打ち付けた。

「あれは全部本当だよ。僕の母親は父上が買った奴隷だったんだ」

 流れてしまった年月を振り返るように、シャルルは天井を仰ぐ。その目に映っているものがどんな景色なのかアネットにはわからない。

 ロイクの言うところの大旦那様――先代のカヴェニャック家当主であったロドルフには妻が一人いたが、早くに死別していたという。

 彼には娘が一人いて、婿を迎えて家を継ぐ予定だった。しかし、その婿も不慮の事故で亡くなってしまう。この国では限られた高位の家々にしか女系の相続は認められていない。幸い、彼女には息子がいてロドルフも健康だった。その子が成人すれば家を継がせる。そういう既定路線となった。

「エミリアンは僕を憎んでいる。あの人を差し置いて、父上が僕を後継に指名したから」
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