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43.持てる幸せ

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 実際、シャルルの言う通りになるのだ。

『君が失くしたものの代わりにはならないかもしれないけど』

 そう言って、男は妖精に新しい指輪を渡して求婚する。妖精はとても喜んで、彼と結婚する。そこからは幸せな日々が続く。けれどある日、失くした指輪を男の部屋から見つけてしまうのだ。

『ごめんね。君と一緒に居たかったんだ』

 男は自分が贈った結婚指輪を外して、元の指輪をはめる。気が付いた時には、彼女はもう楽園にいた。
 ずっと妖精を探していたという家族が、友人たちが、集まってくる。みんながよかったと口々に言う。妖精はあの日、楽園を飛び出してからの記憶がない。

 ぎゅっと握りしめていた手のひらを開けば、ピンク色の石がついた指輪があった。
 とても大切なものだったはずなのに、それが何かも思い出せない。

『まあ、あなた。どうしてそんなに泣いているの』

 彼女を囲む人の中にいた母が言う。
 どうして自分が泣いているのか。その涙の理由さえ、妖精には分からないのだ。そこで舞台は暗転して、この劇は終わる。

「だって、あんなの切なすぎるじゃないですか」

 愛した人のことを何も覚えていないのに、思い出の品だけがこの手にある。もっと他の道はなかったのか。そんなことを、ずっと考えてしまった。

 アネットが問い詰めると、切れ長の瞳はちらりとこちらを見遣る。

「そもそもそう思わせるのが戦略だからな。大団円の話には、それ以上の広がりはない。『ああ、よかったな』と思うだけだ。でも『こうだったらよかったのに』と思わせることで、観客は物語の余韻に浸る。周到に考えられたいい脚本ほんじゃないか」

 この男には、共感とか感情移入とかそういうものはないのか。

「さあ、もう行くぞ」
 終演後の劇場内はもう人がまばらだ。すっとシャルルが立ち上がる。

 また、手が差し出される。その手に触れながら思った。
「好きな人とずっと一緒に居たいと思うことは、そんなにも、いけないことですか」

 男はただ妖精とともに過ごしたかっただけなのだ。方法に少し問題はあったとしても、根底にあるのはその純粋な思いだけだろう。それなのに、この結末はあんまりだ。

 端整な顔立ちはしばし押し黙る。いくらか考え込んだあと、彼は言った。

「いけないとは言っていない。けれど行動には責任が伴うし、持てる幸せには“相応”というものがある」

 シャルルの手が、きゅっとアネット手を握ってくる。

「過ぎた願いは手から零れ落ちていく、それだけだよ」

 淡々とした口調はいつもと何ら変わらない。だが、まるで己に言い聞かせるように、彼は言った。
 その横顔はひどく物憂げで。儚さを帯びた相貌は、一瞬でこの目を奪っていくほどに美しかった。
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